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黒界異人伝・異世界英雄譚 -ようこそ、造られた異世界へ-  作者: 明鏡止水
8章・エルメルの戦火

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第611話 守られる者、守る者

 火花の奔流を押し返していたエンズの棍が、ついに弾かれた。

「――っぐ!」


鋭い衝撃が彼の胸を直撃し、巨木をへし折るほどの力で吹き飛ばされる。

彼の身体は地面を転がり、血飛沫が白い雪を汚した。


「お兄ちゃん!」

セキアの悲鳴が響く。だが返事はない。


 ブルーはゆっくりと歩み寄り、槍を高々と掲げた。

「小賢しい。だが終わりだ。――[蒼槍滅衝]!」


青白い光が槍に集束していく。その気配は空気そのものを裂き、周囲を震わせた。


 セキアの足は震えていた。全身の魔力も、先ほどの攻撃で半分以上削られている。

それでも――彼女の紫の瞳は消えていなかった。


「・・・わたしは、立つ」


唇を噛み切り、血を滲ませながら、セキアは前に出る。

そして掌を突き出した瞬間、ブルーの足元の影が蠢いた。


「――[シャドウバインド]!」


 黒い鎖が大地から伸び、ブルーの足を絡め取る。

刹那、彼の動きが止まった。


「なっ・・・!」

槍に収束した蒼光が揺らぎ、制御が乱れる。


「今だ・・・!」


セキアは渾身の力を振り絞り、闇の球体を形成した。

それは紫黒の輝きを放ち、空気を押し潰すほどの圧を持っていた。


「――[ラスト・ラムフェティ]!」


 彼女の叫びとともに、黒い弾丸がブルーの胴を直撃した。

蒼光と闇がぶつかり合い、激烈な爆音が辺りを覆う。


視界が白く飛び、耳が焼けるような轟音の中――セキアは歯を食いしばっていた。

ただ、兄が無事であることを祈りながら。




 爆音が収まると同時に、俺は駆け出していた。

「エンズ!」


地面に伏したままの彼を抱き起こす。

胸元は赤く染まり、呼吸も荒い。だが――まだ生きていた。


「・・・っ、ああ・・・すまねえ、やられた」


「しゃべるな、今は休め!」


 すぐにリュミエールが駆け寄り、結界を張りながら治癒の術を施す。

淡い光が傷口を覆い、血の流れが徐々に収まっていく。


「助かる・・・!」

俺は彼女に頷きつつ、立ち上がった。


 視線の先では、セキアが一人、必死にブルーを睨みつけている。

先ほどの一撃で確かにダメージを与えたはずだが、奴はまだ立っていた。

薄く笑みを浮かべ、槍を軽く振って闇を払う。


「子供だと思っていたが・・・なるほど、立派な魔女だな」


その声音に、ぞっとする冷気が混じる。

セキアは体を震わせ、今にも崩れそうになりながら、それでも前に出ていた。


「わたしは・・・あなたを、倒す・・・!」


 その姿に、俺は強く歯を食いしばる。

「もう十分だ、セキア!ここからは、俺たちの番だ!」


沙妃が横からブーメランを投げ放ち、マクシスの動きを牽制する。

亜李華は魔導書を開き、ブルーに向けて矢のような光を連射した。

ミルエラは刀を抜き、アムラの前へ立ち塞がる。


 仲間たちが一斉に動き出したことで、戦場の空気が一変する。

セキアはわずかに肩を落としたが、その瞳には安堵と悔しさが混じっていた。


「・・・わかった。お兄ちゃんを、お願い」


俺は頷き、斧を握り直す。

「任せろ。ここからは、俺たちで突破する!」


 紫煙の中で、ブルーがゆっくりと槍を構え直した。

その眼差しは、俺たち全員を試すかのように光っていた。


「なんだ・・・それで、子供を守ったつもりか?そしてその代わりに、お前たちが傷つくと?・・・滑稽だな」


「何とでも言え。妹を守ってくれる者の存在が、どれだけありがたいか・・・お前のような者にはわかるまい!」


なぜか、ルファリアがエンズの気持ちを汲み取ったような発言をした。

まあ、彼女とて2人の妹を持っているわけだし、同じ立場だとも言えるかもしれない。


「異形のくせに、人間じみた感情を抱くのか。感心だ」


 ブルーは、ルファリアたちが異形であることには気づいていたようだ。他の3人も、たぶん気づいている・・・というか、知っているだろう。


「あの子と、あの男の代わりに・・・我らがお前の相手になってやる!」


ルファリアは刀を構えた。

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