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黒界異人伝・異世界英雄譚 -ようこそ、造られた異世界へ-  作者: 明鏡止水
3章・アルバンの血戦

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第55話 戦士の国

「た…助かった…あんなのまともに食らったら、ひとたまりもないぜ…」

煌汰が胸を撫で下ろす。

俺達は、気づけば見知らぬ洞窟にいた。

苺が、俺達を守るためにワープさせたらしい。

「それより、ここはどこなんだ」


「辺境の岩山の洞窟です。ここなら、しばらくは見つからないでしょう」


「サディ様、私達は…」

メニィが、泣きそうな顔で言う。

「…残念ですが、今は引き下がるしかないでしょう。姉妹がまとっていた、あの異様な力…あれの正体を突き止めない事には、勝ち目はありません」


「そんな…」

悲しい顔をするメニィに対し、セルクは焦っていた。

「で、でも!あいつらを放っておいたら、国をめちゃくちゃにされます!ただでさえサディ様を失って、国は混乱しているのに…!」


「落ち着きなさい。焦っても、いい事は何もありません。今は彼女らに対抗するため、情報を集めるのが先です」

苺にそう言われ、セルクは納得したようだった。


吏廻琉ことエリミアは、なんとも言えない顔で黙っていた。

「サディ…私は…」


「大丈夫、私はもうあなたを咎めません。それより、よければ私達についてきて欲しいのですが」


「えっ…?」


「私達は、強大な敵と戦う事になりました。国を取り戻すためにも、あなたの力が必要です」


「…」


「それに、あなたは一度レギエル姉妹の傀儡(かいらい)となった存在。国に戻っても、後ろ指を差されるでしょう。対してこの軍には、あなたを責める者はいません」


軍…か。

俺はそんな認識は全くないのだが。


「軍…あっ、そうだ」

吏廻琉は俺を見てきた。

「あなたの名を聞いてなかったわ。あなた、何ていうの?」


「姜芽。生日姜芽だ」


「姜芽、ね。ポルクスは、あなたが白い人(パパラギ)だと言っていたけど…」


「…ああ、そうだ。俺はつい最近、この世界に転移してきた。そして、防人って種族の異人になった」

すると吏廻琉は、やっぱりそうだったのね、と言った。


「知ってたのか?」


「何となく、ね。あなたからは、亡くなった夫と同じ雰囲気を感じるの」


夫ということは、キョウラの父親か。

しかし、司祭と防人は別種族なんだよな?

…もしかしたら、この世界では異種族同士での結婚が普通にあるのだろうか。

まあ、どっちも異人という括りの種族なのには違いないし、おかしくはない気もするが。


「言われてみれば、姜芽様からお父様に似た何かを感じます。…何でしょう、この感じ。なんだか…懐かしいです」

キョウラは俺に寄り添い、目を閉じた。

やはり、女の子にくっつかれるのは慣れないものだ。


しばらくしてから、キョウラは目を開いて俺から離れた。

「…ごめんなさい」


「いや、いいさ」

キョウラはどこか切ない表情をしていた。

詳しい事はわからないが、彼女が10歳で親元を離れ、施設に入った(らしい)事を考えると、本当に幼いうちに父を亡くしたのだろう。

具体的にどんな感じなのかは知らないが、例え家族でも種族が違えば、時間の感じ方や年齢の重ね方も違うのだろう。

母娘とは別系統の種族であり、一家の中では短命であった父親は、妻たちと自身に流れる時間の違いを、どう感じていたのだろうか。


異人の家族は、人間のそれにも増して問題や試練が多そうだ。

まあ、俺には関係ないが。






「…で、次はどこに行く?」

リビングにて、俺はそうこぼした。

すると、すぐに吏廻琉が応えてきた。

「なら、アルバンの首都メゾーヌへ行きましょう」


「アルバン?」


「セドラルの西の国よ。八勇者の一人、魔戦士バレスが建てた国で、戦士の国と呼ばれているわ」


「戦士の国…か。戦士も異人なのか?」


「ええ。腕っぷしが強くて、性格も体格も豪快で単純な者が多い種族よ」


なんかいかにも戦士、という感じである。

その上斧とかハンマーを使う…とかだったら、もう見事なまでにイメージ通りだ。

まあ、戦士というか、海賊…荒くれ者に近いような気もするが。


「なんでそこを目指せと?」


「なんで…と言われてもね。

強いて言うなら、ここから一番近い首都だから、かしら」


「…まあ、いいかな。で、ここからだとどれくらいかかる?」


「メゾーヌまでだと、2週間くらいかしら。でもその前に、国境に一番近い町に寄った方がいいと思う。そこまでなら、数日で着くはずよ」


「わかった。じゃあ、そこへ向かおう」



輝に、目的地はサンライトとアルバンの国境を超えた所の町、と伝えたらすぐに理解してくれた。

あと、柳助がアルバンの名を聞いて喜んでいた。

柳助も戦士なので、同族の国に行けるのが嬉しいらしい。



それから2日ほどで、国境であるらしい山が見えてきた。

そして、国境まであと少しという所で、夜になった。

「今日は、ここで停泊しよう」

輝の声と共に、馬車は止まった。

そこは、森を抜けた所にある開けた場所。

すぐ目の前まで近づいてきた山。

それが、サンライトとアルバンとの国境を兼ねているらしい。


「あの山の向こうが、アルバンなのか」


「ああ。かつて、俺も住んでいた国だ」

柳助は、懐かしむように言った。


「てことは、久しぶりに行くわけか?」


「そうだな。ざっと、200年ぶりか」


「ほ、ほう…。そんなに経ったなら、色々変わってそうだな」


「割とそうでもないと思うぞ。異人の国は、人間と比べると変化が遅いからな」


「いや、でも、200年もすれば流石に…」


「この世界には数万年生きる異人もいる。変化がないとは言わないが、あっても小さなものだろう」


「…」

200年経っても町並みがそんなに変わらない、というのはすごい事…なのか?

まあ、そもそも根本的に異人が人間より遥かに長生きであるが故なのだろうが。


まず、今日はもう休もう。

明日は朝早いらしいので、尚更だ。





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