表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒界異人伝・異世界英雄譚 -ようこそ、造られた異世界へ-  作者: 明鏡止水
8章・エルメルの戦火

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

632/691

第598話 暁の出撃準備

 翌朝4時前、エルドたちはラスタに来た。

「夜明け前に到着するように来た」とのことだが、さすがに早すぎではないだろうか。


現に、エルドたちが来たといってみんなを起こしに行ったら、大半の者はまだ眠いと言うか、もしくはそもそも起きなかった。


すんなり起きてきたのは、もともとショートスリーパー体質であるらしい一部の者だけ。

具体的には沙妃、龍神、エンズ、アーツの4人だけであった。

・・・アーツ以外全員が殺人者なのは、気にしないでおこう。



 起きてきた面々を連れて行くと、エルドについてきたゼンに驚かれた。

「あれ、こんなもんしかいないのか?」


「いないってか・・・すぐ起きてくれたのが、こいつらしかいなかったんだよ。みんなまだ眠いって・・・」


「そうか、まあ仕方ないな。だが、こちらにも事情があったからな」


「事情って?」


詳しく聞いたところ、こういうことだった。


昨日リャドが話してくれた通り、首都ラフトは恐ろしく治安が悪い・・・というか、ほぼ無法地帯と言える場所だ。

そんなラフトでも、比較的安全な時間があり、それがこの時間帯・・・夜明け前から早朝にかけてなのだ。


「深夜はラフトでもっとも危険な時間だが、夜明け前と早朝は、逆に安全な時間になる。この時間帯なら、悪党や薬物中毒者にからまれる可能性は多少低くなる」


「今ぐらいの時間帯は、夜中に騒いだ連中が疲れて寝るころだからな。人通りも、夜中と比べるとだいぶ少なくなる。だから、必然的に悪党に出会うリスクも下がるんだ」


 エルドとゼンが、そう話してくれた。


ちなみにエルドはゼンだけでなく、島にいた呪術師の女・・・アグレスも連れてきていた。

彼女はしばらく黙っていたが、俺が「結局、ラフトってどんなところなんだ?」と聞くと、答えてくれた。


「ラフトは、いわばこの国の腐敗と堕落の中心・・・かつては王城があって、エルメルで一番大きくて豊かな都市だった。けど、夜会の連中が現れてからは、一気に変わった。町は夜会とラフトレンジャーに支配され、法律も秩序も失われた。今では、暴力と犯罪と恐怖、そして金で成り立つ都市だ」


 アグレスは無機質ながら、どこか哀愁を漂わせる表情をしていた。


「何も考えずに入るのは自殺行為だ。入った途端に身ぐるみを剥がされ、薬物を打たれ、町の一員にされる・・・1日もすれば、町を去りたくても去れない体になるだろうね」


恐ろしい話だが、これまでに見てきたエルメルの実態と、昨日のリャドの話を踏まえて考えると、十分あり得ると思えてしまう。


「とにかく、人員を整え次第、すぐに出発しよう。日が昇れば、町中の悪党どもが反応して厄介なことになる。我々に与えられた時間は、そう多くない」


エルドの言葉に、俺は縮み上がってメンバー編成と持ち物の整理をした。






 そうして選び抜いたメンバーは、アーツ、エンズ、沙妃、龍神の4人の他に、送れて起き出してきたリャドとミア。

それに亜李華とセキア、そしてナイアだ。


セキアは目をこすり、寝ぼけるどころか半ば寝ているような状態ではあったが、なんとか起きてきてくれたので採用した。


彼女はエンズの妹であり、兄と同じく闇の術を扱う。

剣などの物理攻撃ができる武器を使わない「完全術師」で、まだ幼いが立派な魔女だ。


「んー・・・」


 起きてはきたものの、立ったまま目を閉じて寝ているセキアに、エンズが声をかける。

すると、彼女は唸りながらも目を開ける。


「お兄ちゃん・・・久しぶりだね、わたしたち」


「だからこそ、ちゃんと起きろ。久々の戦場で、醜態を晒すわけにいかないだろ」


「うーん・・・うん、そうだね。ふあぁ・・・」


以前、セキアの年齢は13歳だと聞いた。

そんな幼い子に、この時間に起きろと言うのは少々酷なような気もする。


「ずいぶん幼い子だね・・・けど、その力は本物だ」


 アグレスが解析するように言うと、エンズは感心したように「ん、わかるのか?」と言った。


「あたしは呪術師だ。闇の力を持つものは、その強さがわかる。その子は、あたしなんかよりずっと強い闇の魔力を持ってる・・・さすがは、魔女ってとこだね」


「魔女だってこともわかるのか。ところで、あんたも来るのか?」


「無論さ。あたしはエルドの右腕だ、エルドが行くのにあたしは行かない・・・なんてことは、あり得ないよ」


「そうか。まあいいんだがな」




 ちなみに、俺を含む他のメンバーは装備と荷物の最終チェックを行っていた。

といっても武具を整え、水や食料を荷物に入れて確かめるだけだが。


「出撃の前に、食事だけは済ませておこう。ただ、あまり時間がないのでな、軽いもので済ませねば」


エルドが先立ってそう言っていたのもあり、みんなはそれなりの食料を詰め込んだ。

といっても、ビスケットやドライフルーツ、バー食品のようなものばかりであったが。


 そして、いざ出撃・・・というところで、ムーランとマーディアの異形の女たちが起きてきた。

彼女たちは、若干起きるのが遅れたことを詫びつつも、自分たちが置いていかれることへの不満を口にした。


「奴らを成敗しに行くなら、我らも連れていってもらいたい」


「準備はもうできてる。・・・私たちみんな、奴らを倒したくてウズウズしてるのよ!」


ルファリアとリュミエールがそう言ってきたが、俺はちょっと心配ごとがあった。

「こんなに連れて行って、大丈夫なのか・・・?」


「大丈夫だ。今の時間帯なら、人数が多くても問題はない。むしろ、戦力は多いほうがいいだろう」


 エルドがそう言ってくれたので、安心して彼女たちを連れていけそうだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ