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黒界異人伝・異世界英雄譚 -ようこそ、造られた異世界へ-  作者: 明鏡止水
8章・エルメルの戦火

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第595話 蛇影を砕く槌

 翌朝には、輝からラスタの完全復活が報告された。

そして、すぐにもこの谷を脱出できること、山の麓まで、あと数日ということも聞かされた。


「それじゃ、すぐに谷を出よう。そして、首都に向かおう!」

俺がそう言うと、輝も頷いて操縦室に戻っていった。


 ほどなくして、ラスタは高く浮かび上がった。

それは、さながら離陸するヘリコプターのようだった・・・音は立てなかったが。


「やっとか・・・やっと、この狭っ苦しい谷から出られるのか!」

樹が喜びの声を張り上げる。


「地上に出るのは久しぶりね。もう、雪崩に巻き込まれないといいけど」

吏廻琉(りえる)が、落ち着いた様子で言った。

彼女の娘たるキョウラも、「無事に下山できることを祈ります」と手を合わせた。


 そうして谷間を脱出したラスタは、速やかに地上に降り、滑るように移動を開始した。

辺りはやはりと言うべきか銀世界だが、幸いにも降ってはおらず、異形の影も相変わらずない。


「このまま、何も出てこなければいいけどな」

吏廻琉親子ではないが、心配だった。




 しかし、それから2日間山を降り続けても何も出てこなかった。

時折、雪の混じった冷たい風がラスタに吹きつけるのみであった。


標高が下がるに従って、雪は姿を消し、代わりに豊かな緑が出てくるようになった。

とうとう、逆の意味で森林限界を超えたらしい。


空気も少しずつ濃くなってきた。

外に出たわけではないが、輝がラスタ内の酸素濃度と気圧を調整する装置を調整し、目盛りを下げても、ほとんど息苦しくならなかった。


「現在、標高1700メートル付近だ。ここまでくれば、だいぶマシになるさ」


 猶と柳助によると、この辺りの酸素濃度は地上よりは低いが、普通に歩く分にはほとんど影響のないレベルらしい。

とするとやはり、息苦しくならないのは自然だったようだ。


「ただ、この辺りだと別の脅威があるな。たとえば・・・」

柳助がそう言った直後、輝からのアナウンスが響いた。


「前方に異形だ!目測4体。止まるから、誰か追い払ってきてくれ!」


さっそくか、と柳助は唸った。

「すぐに終わらせよう。山の麓まで、一気に駆け抜けるぞ」




 外に出て見たのは、おそらく蛇系と思われる種類の異形だった。

紫と緑が入り混じったような色の体を持ち、頭が2つある。

胴体は普通の蛇より明らかに太く、人の太ももほどあった。


「蛇か・・・この辺くらいの標高では、よく見られる異形だな」


柳助はハンマーを取り出し、岩を纏わせた。

ちなみに、蛇系の異形の中には足があるものや、蛇の姿をしていないものもいるらしく、そういったものも含めて「爬虫系」の異形と呼称することもあるらしい。


「こいつらは、総じて水と地に弱い。すぐに終わるとは思うが・・・もし討ち漏らしが出たら、頼む」


「わかった」


 俺は一歩後ろに下がり、逆に柳助は一歩前に出た。

そして、技名を宣言した。


槌技(ついぎ) [ジャイアントウェーブ]」

地面を叩きつけ、激しい地震と共に地割れを起こし、異形たちを飲み込んだ。

それによって、4体いた異形はすべて消えた。


「これでよし。即死の効く連中だったのが、幸いだった」


 演出と効果からもわかる通り、今の技は地属性の即死技だったらしい。

もちろん決まれば一撃だが、即死攻撃自体に耐性を持つ相手や、浮遊している相手には当たらない他、一部の地形や状況ではそもそも使用できないという性質があり、癖が強い技のようだ。


まあ、ゲームとかでもこの手の技はそんな感じだし、別におかしくはない。

それに地属性、つまり土属性ってのは、そういう「強力だが地形や相手の耐性に左右される」技が多い印象である。


 といっても、この世界では必ずしもそうではない・・・というか、むしろその弱点をカバーできている技や術も少なくはなく、柳助もそれらを使えるのだそうだ。


・・・飛行している相手にも通る、ということは、ポ◯モンのいわタイプみたいなもの、なのだろうか?


 ともあれ、これで立ち塞がっていた異形は排除できた。

ラスタに戻ってそれを報告すると、輝は「見てたよ。柳助の技で、一撃だったな!」と言った。


「このまま一気に進もう。また異形が出てきたら、頼むぜ!」


「過剰に期待するな。もとよりさっきの技は、安定して当てられるものではない」


「そりゃわかってるさ。そうじゃなくて、適当に戦って蹴散らしてくれ、ってことだよ!」


「それは俺でなくてもいいだろう。他に誰か手が開いていれば、そいつに頼めばいい」


「まあ、そうなんだけどさ・・・とにかく、輝はここから離れられない。敵が出てきた時は、あんたたちみんなで応戦してくれ」


 柳助は頷き、操縦室を去った。

それにしても、なんというか・・・柳助は、典型的な戦士タイプである。

地属性を扱い、巨大なハンマーを振り回し、不安定だが強力な技を繰り出す・・・。


それを言ったら、「わかるぜそれ」と輝に笑われた。


「輝もそれは思うんだ。けど、なんやかんやで頼もしい味方だぜ。体力もあるし、腕力もある。それに・・・柳助は、ああ見えて搦め手もちゃんと持ってるんだ」


「ありゃ、そうなのか?」


「ああ。自分の弱点を理解してるからこそ、それをカバーできる手段を用意してる。そういう奴は、すげー強さを持ってることだって珍しくない」


 まあ、要は決して侮ってはならない、ということだろう。

・・・もちろん、侮ってなどいないが。


もし柳助と合技を撃つことがあったら、どんな感じになるだろう。

燃え盛る岩を撃ち出すとか、マグマを叩きつけた後にそれを石化させて敵を固めるとかだろうか。


ちょっと難しいことではあるが、考え出すと止まらない。

なんというか・・・ロマンが半端ない。


 まあ焦らなくても、その時はいつかくるだろう。

この先、もしも複数人で連携を取ってもキツいような相手が現れれば、必ず。

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