第589話 最後の拠点、ラフト
その後、俺は例の通信機を使い、エルドに夜会の拠点を潰したことを報告した。
すると、思わぬ返事が返ってきた。
「それはよかった。・・・いよいよ、我らの反撃の時がやってきたようだな」
「え、どういうことだ?」
「奴らの拠点たるアジトが、国内に複数あるというのは以前言った通りだが・・・その大半は、我らがここ最近で潰した」
なんでも、エルドは1ヶ月ほど前・・・俺たちがマーディアの拠点を旅立ったのと同じ頃に、数人の部下を連れて大陸本土へ上陸してきた。
そしてマーディアたちと話をつけ、彼女たちと協力して国内各地の夜会のアジトに乗り込み、滅ぼしていたのだという。
「国内にある夜会のアジトは、全部で7つだ。君たちが潰したのと、私たちが潰したのを合わせると、6つ。残るはあと1つだ」
「・・・!それじゃ、そこを潰せば・・・!」
「ああ。国中に蔓延る夜会の主要たる拠点は全滅だ。奴らを潰せば・・・残るは、ラフトレンジャーのみとなる」
ラフトレンジャー・・・確か、この国の盗賊団。
実際は月葬の夜会と癒着して好き勝手しているらしいが、それならば夜会が潰れれば致命的な影響を受けることは間違いあるまい。
「エルド・・・奴らの、最後の拠点の場所はわかるか?」
「無論だ。かつて、夜会の連中がクーデターを起こした場所にして、あの忌まわしき盗賊組織が発足した町・・・首都ラフトだ」
それを聞いて、俺はすぐに輝と共に地図を広げた。
エルメルの首都ラフト。それは、国土中央のやや北西辺り、海から少し離れた位置にある。
「ここから向かうと、2週間はかかるな・・・いや、その前にまず、山を降りなきゃだ!」
輝が焦ったように言う。
とりあえず俺は、エルドに返事を返した。
「とにかく、これから首都に向かう。・・・なるべく急ぐが、多少の時間がかかると思うぞ」
「構わない。君たちが来るまで、我々はマーディアの里にかばってもらっている。首都の近くまで来たら、また連絡してくれ。・・・リャドとミアを頼む」
「了解だ。そっちこそ、もしもの時はマーディアたちを守ってやってくれ」
そうして、通信は切れた。
振り向くと、輝はすでに「これから山を降りて、首都ラフトに向かう」という旨をみんなに話していた。
そして、下山はおそらく登ってきた時より時間がかかる、ということも言っていた。
「山は登るより降りる方が危険だ。しかも雪山だ、気をつけろ」
輝の忠告に、誰も異論はなかった。
下山は予想通り難航した。
厚い雪に崖や穴が隠れ、危うく足を踏み外しかけることもしばしば。
ラスタは浮遊で進めるが、見ているこちらは冷や汗をかく。
「雪山って、本当に危ないんだよ」
隣でイナがぼやいた。鎌を肩に担ぎながら、いかにも不満げだ。
「私だって何度も登ったけど、普通は道具も服も食料も揃えて挑むもんだよ。馬車一台で来るとか、正気じゃない」
確かに、そうかもしれない。
俺は思わず、口にしてしまった。
「・・・イナ、やっぱり綺麗だな」
「は?なに急に。お世辞?」
「いや、その・・・」
雪に映える白い肌と髪を見て、純粋にそう思っただけだった。
だが彼女がアルビノであること、ゆえに受けた数々の差別を思い出し、言葉に詰まる。
イナはため息をつき、少しだけ笑った。
「ま、いいけど。その代わり、次の戦いではちゃんと私とアーツを出してよね」
「わかった。必ず出番を作る」
「ふふ、素直でよろしい」
イナは嬉しそうに鎌を構え、温もりのあるラスタの床を踏みしめて進んだ。




