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黒界異人伝・異世界英雄譚 -ようこそ、造られた異世界へ-  作者: 明鏡止水
2章・サンライト訪問

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第53話 エリミア

エリミアは口をあんぐりと開け、膝をついた。

「…!」


「どうだ…!?」

苺の奥義…なんかめちゃくちゃすごかった。

いかにも、強キャラの必殺技って感じだった。

さすがにこれでやれただろ…と思ったのだが、そうはいかないようだ。


「ふふ…うふふふふ!」

エリミアは、不気味に笑った。

「全然ねえ…!サディ、あんたの奥義ですら、私にちょっと膝をつかせるのが精一杯なのね!」


「なっ…!」

苺は驚いていたが、その目にはどこか悲しみも含まれていた。


「これで、よーくわかったでしょ?サディ、いかにあんたと言えど、私を止めるなんて事は出来ないのよ。…しかし、改めて考えてみると、無理に魔法をかける必要はなかったかもね」

それを聞いて、樹が反応した。

「魔法…!?じゃ、やっぱり…!」


「レギエル姉妹が、私の魔法をあんたに使う事は予想済みだった…それであんたがくたばらない事もね。だから、前もってあんたに過去を思い出せなくする魔法をかけておいたの。でもまさか、結果的に『記憶の鍵』を使うとは思わなかったわ」


(記憶の鍵…?)

よくわからないが、たぶんこういうことだ。

苺はエリミアに記憶を取り戻せなくなる魔法をかけられ、レギエル姉妹に記憶を消された。

エリミアの魔法は強力なものであったが、苺がエリミアの存在を思い出す事がそれを解く鍵になっていた。

そして、苺に魔法をかけた本人…即ちエリミアと遭遇した時魔法が解け、苺は全ての記憶を取り戻した。

記憶を消す、あるいは記憶を封じる魔法を受けた者が、自身に魔法をかけた者のことを思い出すと、そのまま全てを思い出す。

それが、記憶の鍵なのだ。

…まあ、単なる憶測でしかないが。


「でも、もういい。お仲間共々、殺してあげる!」


そうして、エリミアは手を伸ばす。

「させるか!」

樹が飛びかかるが、エリミアは結界すら張らずに攻撃を躱した。

「あんた達の攻撃なん、…!」

エリミアの服が裂け、その首の下から斜めに赤い線が走り、血が流れ出す。


実は、樹の背後にピッタリ密着する形で、俺も突っ込んできていたのである。

樹は囮で、本命は俺という訳だ。


「っ…あんた達…!」

エリミアは傷を押さえ、俺達をふっ飛ばしてきた。

だが、受け身を取れるので怖くない。


「私にこんな傷をつけるなんて…いい度胸してるじゃない!」

エリミアは怒りの声を上げ、杖を掲げる。

「お前達みんな、消し飛ばしてやるわ…仲間も、記憶も、装備も、何もかも!

私に傷をつけた、その報いを…っ!」

魔力を溜めようとしたが、突如飛んできた白い光線を浴びて怯んだ。

その光線の主は…




なんと、キョウラだった。

キョウラは両手を合わせ、祈るようにして体を白い球体で包み、そこから光線を発射していたのだ。

「き…キョウラ…あんた…!」


「お母様…私は、お母様をお救いしたいです!

また、かつての優しいお母様を見たいです…その、悪い憑き物を払って…!」


「…何言ってるの、私は正気よ!キョウラ…やめなさい!」

エリミアが杖を振るうと、キョウラの胸に鋭い閃光が走った。

キョウラは悲鳴を上げ、後ろに吹っ飛んだ。


「キョウラ!」

樹と俺は慌てて駆け寄った。

幸い、多少のダメージを負っただけのようだ。


「ったく…。さて、私は色々とミスってたみたいね…たった一人の娘を、こんなにしてしまったことに始まって。

サディ…あんたに魔法をかける必要は薄かったし、何よりあそこであんたを狙ったのが大間違いだった。

あそこで私が出てなければ、あんたはまだ何も思い出せずにいたはずだったのにね…」

ルードの町のことか。

やはり、こいつの存在が苺の記憶を取り戻す鍵になっていたらしい。


「いいえ、むしろあなたは正しい事をした」

突然、苺が大人しい口調で喋りだした。

「…何ですって?」


「あなたの娘さんは、とても良い子よ。あなたの教育と、修道院に入れるという選択は、間違ってなかったと思う。

…それに今、キョウラさんが可哀想だと思わない?なぜ、母を思う娘の気持ちを汲み取れないの?」


「はあ…!?それに、あんたに私の何がわかるのよ!」


「確かにそうね。でも、少なくとも、あなたが邪悪なモノに取り憑かれていること、そしてそれにあなたの本心が抵抗していることは、私にもわかるわ」


「はあ…!?」


「あなたは、本当は私を貶めるような事をしたくなかったし、私の命を奪おうとも思っていなかったのでしょう?」


「な…苺さん、何を…!」

樹が驚くが、苺は構わず続ける。

「前々から薄々気づいてはいた。私が彼らと共に行動するようになってから、いつも誰かが見ているような気がしていた。

長らく何なのかわからなかったけど、今ならわかる。あれは、遠視魔法。そして、使用者はあなたよね」


「はあ…?何を根拠にそんな事を…!」


「私が神殿にいた頃、あなたよく娘さんの様子を遠視で見てたでしょ?それに、神殿の中から各地の町の様子を見たり、神殿の周りの監視もしてたじゃない。私の知る限り、遠視魔法をしょっちゅう使うのはあなたくらいよ。

それにあなた、なんでキョウラさんが外界回りが出来るようになったって知ってたの?修道士は、賛同出来る志を持つ者についていく、という形でも、修道院から出る事が可能なのに」


「えっ?」

キョウラは驚き、

「…」

エリミアは黙り込んだ。


「あなたは、悪人になったわけじゃない。

そして勿論、後に引けなくなってもいない」


苺は、全身から白い衝撃波のようなものを放った。

「…!」


「エリミア。気づいてないかもしれないけど、あなたはポルクスの術にかかってる。無意識のうちに洗脳され、操られていたの。

でも、もう大丈夫。さあ、戻ってきて…」


苺の目は、いつの間にか青色になっていた。

エリミアは目をつぶり、わずかに体を反らしながら立ち尽くす。

その瞬間、微かに何か黒いものがその体から抜け出し、飛ばされていったような気がした。



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