第586話 裁きの白光
天井の裂け目からまばゆい光が差し込み、デリクが降り立つ。
その影は、これまでの夜会メンバーとは明らかに格が違った。
空気が震え、広間そのものが圧し潰されるように重くなる。
「・・・ようやく、降りてきたか」
喉が勝手に震えた。息が詰まる。
リュミエールが低く唸り、刀を構え直す。
俺は正直、背筋が冷えた。
奴は武器を持っていない。ただ、腕に抱えた分厚い魔導書を開いた。
「[インペル]」
次の瞬間、視界が白に染まり、何かが砕けるような音が響く。
目を開けると、石床は砕けてボロボロになり、周囲にその破片が散乱していた。
そしてリュミエールたちは、防御していたはずにも関わらずダメージを受けていた。
たった一撃、それもおそらく牽制だろうに・・・この威力か。
「っ・・・ふざけないでよ・・・!」
レイヴェリアが唸り、大剣を握りしめる。
だが、距離が遠い。
奴は悠然とページをめくりながら、こちらを試すように見下ろしている。
そこで、ミルエラが叫んだ。
「隊長、合図を!」
リュミエールがうなずき、刀を振るって斬撃を飛ばす。
俺たちも、それと同時に飛び込んだ。
だが、奴の前に光の壁が現れ、立ち塞がった。
それに触れた瞬間、焼けるような痛みが皮膚を走り、反射的に飛び退く。
当然の如く、武器は弾かれた。
「なんだ・・・!?結界か!?」
「そうみたいね・・・くっ!」
リュミエールは歯を食いしばる。
彼女からすれば、悔しいことこの上ないだろう。
そんな中、デリクは冷淡に言い放った。
「私はこれでも聖職者です。汚らわしい異形の女どもを裁くくらい、容易いことです」
その直後、再び光の嵐が吹き荒れた。
そして、異形たち・・・リュミエールとミルエラ、そしてルファリア、レイヴェリア、ソティアの姉妹の体に、X字の鋭い光が走った。
「・・・!!」
光が消えると、彼女たちは立ち尽くしたまま腹や胸を押さえ、血を大量に滴らせていた。
どうやら、さっきのX字の光で切られたようだ。
「あれ・・・まさか、異形特効か!」
リャドが叫んだ。
「修道士が使う白魔法、そして光魔法には、異形に特効を持つ魔法があるが・・・あれも、その類いか!」
「御名答です」
デリクはそう言いつつ、再び魔導書を開いて光の嵐を起こした。
「これは『インペル』、異形に特効を持つ光の魔導書・・・ですが、屠れるのは何も異形だけではありません」
直後、今度は美羽がうめき声を上げた。
同時に、龍神やリャド、ミアも・・・。
「っ・・・!」
次の瞬間、俺も目を覆っていた腕に激痛を覚えた。
左手で触ると、生暖かい液体が掌を濡らした・・・血か。
「『インペル』は、光の魔導書としては最上位に位置するものの一つ。下手な異人の奥義より、威力がある代物です」
まばゆい光の嵐が収まると、そこには不敵に微笑み、魔導書を手にしたデリクの姿だけがあった。
「異形のお嬢さんたちは、私にさぞ恨みがあるでしょう。ですが、それを晴らせることはない・・・あなたたちが、異形である限りはね」
嘲笑うように言うデリクに、リュミエールは再び怒りを燃やした。
「・・・ふざけんな!私たちを・・・ムーランを、バカにするな!!」
「バカにするな?滅相もない。むしろ、最大の敬意を払って差し上げているではありませんか。せっかくここまでたどり着いた、異形の美女たちに」
その言葉が神経を逆なでしたのか、リュミエールはますます怒った。
彼女の隣に立つミルエラも、同様に激怒した。
「こいつ・・・許さない!絶対に・・・!!」
「お前は・・・みんなを穢して、辱めた!その罪、命と血で償ってもらう!!」
すると、デリクはにわかに首をかしげた。
「何か勘違いしておりませんか?私はあなたたちのお仲間に、手を出してはおりません。少なくとも、直接はね」
「だとしても、お前が部下たちに命令して、みんなを穢したのは事実・・・お前だって、同じことをしたのよ!!」
俺の目に映ったリュミエールは、烈火の如き怒りの声を上げていた。
彼女はそのまま、刀に白い魔力をまとわせる。
そしてミルエラと共に、血を流しながらデリクに切りかかった──鬼のような形相で。
デリクはそれを躱した──かに思われたが、ミルエラの刀がわずかに左腕に掠った。
それにより服が破け、そこだけ肌が露わになった。
「・・・ほう?」
奴は、怒涛の勢いで刀を振り回す2人の攻撃を避けつつ、驚いたような顔をした。
「異形が、私の体を傷つけた?・・・それも、インペルを食らって・・・?」
話している間に、とばかりにソティアが剣で斬撃を放った。
それは見事に命中し、奴の右の脇腹を切り裂き、血を飛び散らせた。
「・・・」
奴はもう何も言わず、逃げるようにテレポートした。
そして奥の壁の前に現れ、杖を取り出した。
「なかなかやりますねえ、皆さん。ですが、もう終わりにしましょう」
その言い方から察した俺は、すぐに自分のまわりに結界を張り、盾を構えた。
他のみんなも、同様に防御をした。
「『燃える光をご覧あれ』。奥義 [聖滅光]」
奴を中心とし、さっきの魔導書とは比べ物にならないほどまばゆい光と、皮膚を焼くような熱が放たれる。
それは辺りを白く塗りつぶし、同時にそこにあるものを焼き尽くすようだった。
周りが気になっても、あまりに強烈な光のために目を開けられない。
奥義の発動と共にキーンという音が響き、今に至るまで鳴っているので、それが終わるまで耐えればと思い、目を閉じたまま全力で盾を構え、結界に魔力を流した。




