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黒界異人伝・異世界英雄譚 -ようこそ、造られた異世界へ-  作者: 明鏡止水
8章・エルメルの戦火

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第583話 逆襲の誓い

 雪の帳がかすかに揺れた。

広間に漂う張りつめた空気の中、白の幕を割って二つの影が現れる。


「・・・ただいま」

聞き慣れた声に、仲間たちが一斉に顔を上げる。


 現れたのは、リュミエールとミルエラだ。

どちらも、鎧はほとんど汚れていない。

俺たちが雪煙にまみれて肩で息をしているのが、まるで別の戦場の話のように思えた。


「・・・2人とも!無事だったか!」

声を張り上げると、ミルエラは安堵の笑みを浮かべ、胸に手を当てて頭を下げた。


「道中で多少の敵と遭遇したけど・・・弱い雑兵ばっかりだった。というか、隊長さえいれば、安心よ」


「雑兵、か・・・羨ましい話だな」

リャドが苦笑しながら立ち上がる。

「こっちは雑魚ですら、なかなか強い連中だったんだぜ」


「そう・・・いずれにせよ、皆無事でよかった」

リュミエールが広間を見渡し、柔らかく微笑んだ。


「それと、ありがとうね、ここで待っててくれて」


「仲間全員が揃った状態で、ボスに挑みたいからな。それに、ボスの部屋に突入する時は、整ったコンディションで入るのが基本だろ?」


2人は、「そうね」と言って微笑んだ。



 その言葉に、仲間たちの疲れ切った表情が和らいでいく。

雪の帳の中で、2人が無事に戻ってきてくれた――それだけで、もう一度立ち上がる力になるのだった。


「ところで、連れて行ったお仲間は大丈夫だったのか?」


「ええ。衰弱してはいたけど、大した怪我はしてなかった。ただ・・・」

ミルエラは、顔を曇らせた。


「みんな、相当な精神的ショックを受けてた。中には、もう妊娠なんてしたくないって言う者もいた・・・前までは、早く妊娠したい、子供を産みたいって言ってたのに」


 精神的ショック・・・か。

まあ、それはそうだろう。彼女たちは、夜会の連中に無理矢理孕まされ、堕胎させられるだけの存在として飼われていたのだ。


いかに異形と言えど、そんな状況では気も狂うだろう・・・というかむしろ、正気を保ててるほうが異常とも言える。


「私が妊娠してることについて、何か言ってくる子もいなかったわ。前は、何かというと気にしてきたのに」


 リュミエールは、とても悲しげにそう言った。

そしてその直後、肩をすくめて体を震わせ、んんっ!と唸った。


「みんな、奴らに狂わされた・・・奴らに犯され、無理矢理堕胎させられ・・・種族として、女としての尊厳を傷つけられた!絶対に・・・絶対に許さない!!」


彼女は燃え滾る怒りに衝き動かされたのか、腰に差した刀を抜いて高く掲げた。

その姿は、さながら軍を率いる女騎士のようだ。


「絶対に・・・奴らを潰す。みんなと・・・踏みにじられた、命のためにも!」


リュミエールの横に立つミルエラも、刀こそ抜かなかったが、強い意志をたたえた表情を浮かべていた。




 いざ、奥へ向かおうとした・・・のだが、それらしき扉には鍵がかかっていた。

だが、リュミエールが前に出て手をかざし、何かの影響を唱えると、扉は開いた・・・というか、バタンと音を立てて外れ、倒れた。


「解錠の魔法か・・・あれ、でもあんたたちは魔法はあまり使わないよな?」

リャドがそう言うと、リュミエールのかわりにソティアとレイヴェリアが答えた。


「こういう時は別よ。誇りとかプライドとか、言ってる場合じゃないでしょ」


「彼女の気持ちをわかって。私たちは、ヒトじゃなくて異形だけど・・・同時に『女』、繁殖能力を持つ雌なの」




 そうして進んだ先は、これまでとは比べ物にならないほど明るく、広い部屋だった。

室内にはほとんど何もなく、広大かつ平坦な床だけが広がっていた。


「お待ちしていましたよ」

声の主は、もちろんデリクだ。

奴は、不敵な笑みを浮かべながら、俺たちの前方数メートルの場所にワープしてきた。


「お前・・・!」


「わざわざお仲間を救出し、安全な場所に運んでから来るとは・・・なんともお優しいお嬢さんたちですこと」


 言い終わる前に、リュミエールとミルエラが斬りかかった。

リュミエールの攻撃は躱されたが、ミルエラの刀は命中した。


だが、奴の体にはまるで刃が食い込まず、血も流れない。

ミルエラ自身も、歯を食いしばって悔しがっていた。


「無駄なことです。私には、あなた方の攻撃は通らない・・・こいつらを倒さない限りはね」


 その言葉の直後、部屋の奥の壁が開いた。

そこから現れたのは、なんと例のタイヤ異形。それも、数十体はいようかという大群だった。


「あっ・・・!こいつらは!」


「見覚えのある顔でしょう?まあ、こいつらに顔はありませんが・・・」


デリクは全身を白い光の球で包んで浮かび上がり、杖を掲げた。

「まずは、この異形・・・『タイワーム』の群れを、すべて倒してみなさい。それを成し遂げた暁には、私が直接皆さんのお相手をしてあげましょう。ふふふ・・・」


 奴は不敵に笑い、そのまま空中で静止した。

異形たちが斬撃を飛ばしたが、残らず弾かれて無駄だった。


「奴を落とすのは諦めろ!それより今は・・・あいつらを片付けよう!」


俺がそう叫ぶと、ミルエラは納得の意を示した。

リュミエールも、歯ぎしりをして唸りつつも、先に倒さねばならない敵がいることを認識したようだった。


「どこまでも腹立つ奴ね・・・!こうなったら、あの化け物どもを八つ裂きにしてやるわ!」

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