第577話 氷雪を裂く斬撃と風
扉を押し開けると、冷たい風が一気に吹き込んできた。
外は白一色の雪原で、降りしきる雪が視界をかすませている。
「・・・外に出られた、と思ったが」
俺は半歩足を止めた。
雪煙の中、影が揺れ動く。
やがて音がした──金属の擦れる音、靴が雪を踏みしめる重い足音。
「・・・囲まれてるな」
龍神が低く唸る。
次の瞬間、雪煙の中から斧を担いだ巨躯が現れた。
それに続いて槍を構えた二人組、そして闇をまとった魔法使いが三人。
合計六人──どれも、いかにも暗殺者らしい風貌だった。
「・・・やっぱり、簡単には通してくれねぇか!」
俺は斧を握り直し、雪の上に足を踏み込む。
斧兵が真っ先に突っ込んできた。
振り下ろされた重い刃を盾で受け止めると、火花が散り、衝撃で腕が痺れた。
続けざまに槍兵が横合いから突きかかってくる。
「チッ・・・!」
盾で槍をはじき、逆に斧を振り抜く。
炎を纏った刃が雪を溶かし、槍兵の腕を浅く裂いた。
後方から闇魔法が飛ぶ。
黒い稲妻のような魔力が、視界を切り裂くように走った。
リャドが前に飛び出し、爪で魔力の一部をはじき散らす。
「・・・闇使いは、おれに任せろ!」
「助かる!」
俺は斧兵の重撃を受け止めつつ、叫び返す。
雪煙を割って、輝の矢が飛んだ。
一本は槍兵の肩を射抜き、もう一本は魔導士の杖を弾く。
「姜芽!前を抑えろ、輝が削る!」
「おう!」
そこで龍神の刀が横一文字に閃き、突っ込んできた槍兵の脚を払った。
転倒した敵の喉元に、美羽の刃が突き立つ。
「数が多いね・・・でも崩せば勝てる!」
その瞬間、闇魔法が再び飛ぶ。
黒い矢が俺の盾を貫きかけ、雪に黒焦げの穴を穿った。
「ぐっ・・・!」
思わず足を取られた俺の脇に、斧兵の重撃が迫る。
「姜芽!」
龍神が飛び込み、刀で斧の軌道を逸らす。
雪煙の中で、金属音が轟いた。
「助かった・・・!」
「まだまだだ・・・踏ん張れよ!」
吹雪の中、斧と槍、魔法が入り乱れる。
敵は数と連携で押してくるが──俺たちもまた、背を預け合って戦える仲間だ。
雪原に赤い飛沫が舞い、戦いはさらに苛烈さを増していく。
槍兵の一人を斬り伏せても、雪煙の奥からさらに突き出される穂先が迫る。
敵の槍が龍神に伸びた瞬間──一筋の斬撃が散った。
「そうはいかない!」
ミルエラの刃が唸り、槍を切った。
燃え上がる穂先を投げ捨てる敵の胸に、彼女は間髪入れず蹴りを叩き込む。
雪を蹴散らして後退する槍兵を、輝の矢が狙い撃ちにした。
「一本、仕留めた!」
その横合い、闇魔法の詠唱が響いた。
黒霧の矢が雨のように降り注ぎ、俺たちの頭上を覆う。
「下がれ!」
俺が叫ぶより早く、蒼い光が雪原を裂いた。
「・・・甘い!」
リュミエールが刀を振るうと、風の壁が一気に立ち上がった。
闇の矢はことごとくそれに突き刺さり、鈍い音を立てて砕け散る。
そのまま彼女は一歩踏み出し、一振りで複数の斬撃を生み出した。
それは魔導士の胸元をめがけて飛ぶ。
一人が咄嗟に転げてかわしたが、残る二人は肩や脚を切り裂かれ、悲鳴をあげた。
「いいぞ、リュミエール!」
俺が叫ぶと、彼女は静かに頷き、次の技の構えを取る。
ミルエラが再び前線に躍り出る。
斧兵の巨腕に怯むことなく接近し、刃を回転させて弾き返す。
雪煙の中、美しい刀身が弧を描いた。
そうして注意を逸らされた斧兵の脇腹を、龍神の刀が深々と切り裂いた。
巨躯が呻き声をあげ、雪に崩れ落ちる。
残るは槍兵一人と、負傷しながらもなお立つ魔導士たち。
雪はさらに激しく降りしきり、視界を白く塗りつぶす。
それでも──ミルエラとリュミエールの刃が、道を切り拓く。




