第52話 挑まれた戦い
まずは俺が先陣を切る。
水平割りを出したが、エリミアは結界でガードしてきた。
だが、まあ正直予想範囲内だ。
そこで、一度バックして距離を取り、次の技を出す。
アクスカッター…を出そうとしたら、突如閃きが走った。
そして、俺は新たな技を繰り出した。
「斧技 [ラスタードヨーヨー]」
行動内容としてはシンプルで、斧を何度も投げつける…というもの。
だが、これはアクスカッターの数倍の威力がある。
そして、これには追加の効果もある。
それは、結界やバリアを破壊出来るということだ。
「ああっ…!」
俺の斧が結界を破壊すると、メニィが声を上げた。
かくいうエリミアも、若干だが驚いていた。
その隙に、投げた斧がエリミア目掛けて飛ぶ。
エリミアは素早く体をひるがえして回避した。
「斧で結界を割るなんて…すごいパワーね。いや、それとも何か、特別な力があるのかしら…?まあ、何でもいいわ」
エリミアは魔導書を手に出した。
「まずはお前から行きましょうか。[ルミーナ]」
天井に太陽のように眩しい光の球が現れ、そこからスポットライトのような光が伸びてきた。
危険を察知して斧を構えたその直後、強烈な力で押された。
必死に押さえたが、それでもずりずりと後退させられた。
「姜芽さん!大丈夫ですか!?」
「心配ない…それより、あいつを!」
「はい…!」
セルクは、魔導書を見開いて唱えた。
「[プラズマ]!」
虚空から二本の稲妻が現れ、エリミアに襲いかかる。
しかしエリミアは、稲妻の直撃を受けても平然としていた。
「なっ…!」
「それなら、私が!」
メニィがヒートの魔法を放ったが、やはりさして効いていないようだった。
エリミアは、嘲笑うように言った。
「浅はかね…私に、そんな弱い魔法が通じるわけないでしょう?」
「っ…!」
そして、エリミアは手を軽く払った。
「うざったいから、先に片付けるわね。光法 [煌く五斗星]」
メニィ達の周りに5つの小さな光が現れ、それが次々に破裂した。
それで、メニィとセルクは倒れてしまった。
「…!」
「やりやがったな…!」
樹が、エリミアに飛びかかる。
「奥義 [大海の咆哮]」
棍を振るいつつ大波を呼び寄せるという、なかなか派手な技を繰り出したが、やはり致命傷には至っていないようだ。
「ふーん…探求者にしてはやるじゃない。でも、残念だったわね!」
エリミアは波を結界で防ぎ、棍を杖で押さえ、
「光法 [千なる光]」
杖を振るい、白い斬撃を巻き起こした。
それにより、樹は血を噴き出しながら墜落した。
「樹様…!」
キョウラはすぐに樹に駆け寄り、治癒魔法を唱える。
しかし、それでも樹はキツそうだった。
「バカみたいな魔力だ…こりゃ、ちょっと無理があるかもな…」
…と、その様子を見てる俺にも攻撃が飛んできた。
エリミアは、何やら光る白い弾を複数発飛ばしてきた。
何となくわかる…今のは、魔弾だ。
魔力を固めた、遠距離攻撃。
中級相当の攻撃魔法だがその威力は高く、属性を含める事もできる。
それらを斧で防ぎ切った後、俺は自然にこう唱えた。
「[フレイムラッド]」
俺の周りに複数の火の魔弾が浮き上がった。
手を伸ばすと、それらは一斉に飛んでいく。
エリミアは結界を張ったが、それは容易く貫通した。
「っ…お前が魔弾を使えたなんて。いや…まさか、今の私の魔弾を受けて閃いた…?だとしたら、お前は脅威ね。やっぱり、優先して始末しないと」
そうして、エリミアは一際大きな魔弾を生成したかと思ったら、すぐに撃ち出してきた。
一目でわかる…あれを食らったら、さすがにヤバい。
だが、防げる見込みは薄い。
どうすれば…
と思ったその時、なんとキョウラが俺の前に飛び出してきた。
「…!?」
キョウラは光の結界を張って魔弾を防ぎ、そのまま弾き飛ばした。
「キョウラ…あなた…!」
キョウラは、エリミアを見た。
「お母様…どうか、答えてください!なぜ、こんな事を…!」
「私には、私の目的がある。そのためよ」
「目的…!?」
「そう。端的に言えば、サディを潰して、レギエル姉妹と共にこの国を支配していくのが私の目的」
「なぜ…レギエル姉妹に肩入れするのです。私の知るお母様は、そんな方ではなかったのに…!」
「キョウラ…あなたにはわからないのよ。この国は、何もかも間違ってる。このままでは、いずれ国は滅び去る。そうなる前に、一度全て潰して、更地にしなければならない。
でも、この国の奴らは誰もそれに気づかなかった。だから、私が行動を起こした。ただ、それだけのこと」
「…」
キョウラは、言葉を失っていた。
「さあ、そこをどきなさい。その男を、始末するんだから!」
キョウラは動くつもりはなかったようだが、俺の方から飛び出した。
このままでは、キョウラも危ないからだ。
そうして、俺はエリミアに斬りかかる。
弾かれるのを承知で何度も斬りつけ、最後に「フレイムポール」を出したが、やはり効きが悪い。
「ふふ…少しはやるかと思ったけど、やっぱりそんなものなのね」
エリミアが手をさっとこちらへ伸ばした次の瞬間、俺は胸と背中に鋭い痛みを覚えたと同時にふっ飛ばされた。
床に叩きつけられ、これまでにないほどの痛みと出血に襲われる。
杖で刺され、貫通したらしい。
「姜芽様!」
すぐにキョウラが駆け寄ってきて、回復してくれたが…それでも、すぐには立てない。
それだけの激痛であった。
そんな俺達の様子を見届け、苺はぽつりと呟くように言った。
「エリミア…」
「ずいぶん切ない顔してるわね?でも、これは仕方ないことなのよ。この国の為にはね」
「…本気で言ってる?」
「ええもちろん。じゃなきゃ、ここまでの事するわけないでしょ?」
苺…もといサディは、身を震わせた。
「なら、私からあなたに出来る事は一つ」
「何?」
「かつての友として、役目を果たす…!」
苺は一度左手を右肩にやり、その上で上げた。
「奥義 [裁光神眼・星火燎原]」
エリミアを中心に、目玉のような形の白い光が現れる。
そして、それは目を開けていられないほどの光を放ち…
文字通り「裁き」を下した。




