第574話 開かれる扉
剣士の刃を押し返した瞬間、背筋に悪寒が走った。
「姜芽、上だ!」
輝の叫びに反応し、咄嗟に盾を掲げる。
氷を砕くような衝撃が走る。
別の敵が屋根から飛び降り、真上から大剣を叩き込んできた。盾に火花が散り、腕が痺れる。
「っ・・・増援か!」
歯を食いしばり、剣を薙ぐ。だが、息が切れて胸が焼けるようだ。
標高5000メートルを超える山の空気は薄すぎて、全力で斬り合うたびに視界が霞む。
輝の矢が飛び、屋根の上から狙っていた弓兵を一人撃ち抜いた。
「姜芽、持ちこたえろ!・・・輝が数を削る!」
「ああ頼む!」
俺は盾で大剣を受け止め、剣士の横薙ぎを弾き返す。炎の剣を振り抜くと、敵の外套が燃え上がり、呻き声が雪に溶けた。
その隙に輝の矢がもう一人の弓兵の胸を貫く。矢羽根が突き立ち、敵は雪の上に崩れ落ちた。
「──まだいるぞ!」
声と共に、二人の剣士が建物の影から突進してくる。
「くそっ、息が・・・持たねぇ!」
肺に冷気を吸い込むたび、頭がくらりと揺れる。それでも剣を振り下ろし、盾で刃を受け流す。
輝が矢を番えたまま走り寄り、叫ぶ。
「姜芽、下がれ!一気に決める!」
「・・・わかった!」
俺は敵を押し返すように盾を突き出し、無理やり距離を取る。
すると、すぐさま輝の矢が放たれた。
一本、二本──間髪入れず連射された矢が、敵の足元と腕を正確に射抜く。動きが鈍ったところを、俺が炎を纏った剣で一気に叩き斬った。
「──っらあぁぁ!」
火柱が吹き上がり、剣士二人が同時に倒れ込む。
残る弓兵が最後の矢を放つ。だが、それは俺の盾に弾かれた。
次の瞬間、輝の矢が真っ直ぐに飛び、敵の喉元を貫く。雪に血が散り、静寂が戻った。
俺は大きく肩で息をしながら、剣を地面に突き立てた。
「・・・はぁ、はぁ・・・終わった、か」
「姜芽・・・まだ油断するな。音を聞かれたかもしれない」
そう言う輝の顔も蒼白で、吐く息は荒い。俺たち二人とも、寒さと空気の薄さのせいで限界が近い。
だが──雪に埋もれる敵の死骸を見下ろしながら、確かに手応えはあった。
「・・・数で押されても、この程度ならやれる。二人ならな」
俺は苦笑し、輝の肩を軽く叩いた。
「当然だろ」
輝もわずかに笑みを返す。
雪が降ってきた。
吹雪く音に混じって、遠くで仲間たちの気配が揺らいだ気がした。
仲間たちによる鍵の捜索は、まだ続いているだろう。
それまで、俺たちはここで──必ず持ちこたえてみせる。
雪はさらに強くなり、視界は白に塗り潰されていく。
吹雪のざわめきに混じり、足音が近づいてきた。
「姜芽!輝!」
白い靄の中から現れたのは、ミアたちの一行だった。
ミアの腕には黒鉄の鍵のようなものが握られている。表面に彫り込まれた文様が淡く光り、吹雪の中でも存在感を放っていた。
「見つけたんだな・・・!」
俺は荒い息を吐きながら言う。
ミアは小さく頷き、雪を払うように息をついた。
「ええ・・・あっちの建物に祭壇があったんだけど、その奥の仕掛けから出てきた。たぶん、あの扉に使う鍵よ」
リャドが爪を納めつつ、俺たちを見回す。
「お前たちも・・・襲われたんだな」
雪の上に転がる敵の死骸に、彼の表情が硬くなる。
「ああ。増援もあったが、なんとか持ちこたえた」
そう言った瞬間、痺れた腕が重く落ち、剣を支える手が震える。
輝も同じで、矢を番えたままの指が白く凍えていた。
「姜芽、輝・・・無茶しすぎ」
美羽が心配そうに近寄ってきて、俺の頬の切り傷に手を伸ばす。
「・・・後で治すから。今は立ってて」
「平気だ。大丈夫・・・だ」
苦笑しながら斧に組み直した剣盾を背に掛ける。
それからしばらく、仲間は全員戻ってきた。
雪の中庭に、輪ができる。
一応確認したが、みなボスと思しき敵には会わなかったらしい。
風は強まり、アジトの建物が影のように霞んでいた。
それでも、全員の目はミアが掲げた黒鉄の鍵に注がれている。
「これで・・・扉を開けられる」
ミアの声が吹雪を割るように響いた。
果たして彼女の鍵は──見事扉にはまり、そのまま回すことができた。
ガチャリ──という音を聞き、俺たちは互いに頷き合う。
ボス・・・あの僧侶の男が、この先にいるかはわからない。
扉の先からは、得体の知れない魔力を感じる。
だが、進むより他はない。
扉が開かれ、俺たちは建物の中へと足を踏み入れた。




