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黒界異人伝・異世界英雄譚 -ようこそ、造られた異世界へ-  作者: 明鏡止水
8章・エルメルの戦火

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第573話 小さな白い戦場

 石造りの建物の前で、全員が肩で息をしていた。

冷気が肺の奥にまで刺さり、吐き出すたびに白い靄が濃く漂う。


「・・・やっぱり、ただの鍵じゃないな」

ミアが文様を指でなぞり、眉をひそめた。

「この扉には魔法がかかってるけど、対応する鍵はどこかに用意されてるはず」


「となると、アジトの中を探すしかないか」


龍神が刀を鞘に納め、深く息を吐く。

その吐息も荒く、声の端には疲労が滲んでいた。


「それは結構だが、何しろこの環境だ・・・全員で固まって動けば、体力が持たないだろう」


 レイヴェリアが低く言った。

大剣を肩にかけた姿も、わずかに重そうに見える。


「分かれて探すしかないな」


一瞬の沈黙。だが、すぐに全員が頷いた。

吹雪の外と違い、ここは建物が並ぶ中庭だ。

いくつかの屋内を調べれば、目的の鍵に辿り着けるかもしれない。


「じゃあ──」

俺は斧を握り直し、指で素早く指示を送る。

「龍神、リュミエール、ソティアは西の建物を頼む。ミルエラとルファリア、レイヴェリアは北。ミアと美羽、リャドは東側だ」


「姜芽と輝はどうするの?」


「俺と輝は・・・ここを拠点にして待機する。見張り役だ。何かあったら、合図をしてくれ」


全員が小さくうなずく。

息苦しさのせいで、声を張るのも難しい。

それぞれが武器を握り直し、冷たい石畳を踏み分けて散っていった。





 最初に中へ入ったのは西の棟。

龍神たちは重たい扉を押し開き、暗い廊下へ足を踏み入れる。

高地特有の湿った冷気が室内に溜まり、吐息がさらに白く濃く広がった。


「・・・まるで、冷凍庫みたい」

ソティアが盾を構えながら呟く。


「敵が隠れててもおかしくない、気を抜くな」

龍神が低く返す。


リュミエールは刀を抜いたまま、静かに前を進んだ。





 北の棟に入ったレイヴェリアたちは、天井の高い大広間に出た。

壁には古びた旗が垂れ下がり、祭壇のようなものが中央に置かれている。


「・・・儀式の跡か?」

ルファリアが周囲を見渡しながら警戒する。

ミルエラは剣の柄に手をかけ、祭壇に近づいた。


「でも・・・何かある気がする。探してみよう」





 一方、東側を調べるミアたちは、崩れかけの塔の中へ。

吹き込む風が石壁の隙間から悲鳴のように鳴り、足元には砕けた石片が散らばっていた。


「・・・嫌な気配がする」

ミアが眉をひそめる。


「鍵があるとしたら、こういう場所の奥かもしれない」

美羽が前に出る。


リャドは黙ったまま、闇の気配を探るように耳を澄ませた。





 そして、中庭に残った俺と輝。

遠ざかっていく仲間たちの背を見送りながら、吹雪の音を聞き取ろうと耳を澄ます。


「・・・ここで待ってるのも、結構きついな」

輝が苦笑する。


「ああ・・・動かないと、余計に寒さが骨身に染みるよ」

斧を肩に掛け直し、空を見上げた。

雪は細かく舞い続け、白と闇の境界をぼやかしていた。



 中庭は静まり返っていた。

雪の舞う音と、遠くで響く仲間の足音だけが耳に届く。


「・・・妙に静かだな」

俺は低く呟き、斧の柄を握り直した。


輝は弓を構えたまま、目を細めて闇を見渡す。


「・・・姜芽、気をつけろ」


 その一瞬後、風を裂く音がした。

俺たちの背後の建物の影から、二つの影が飛び出した。


ひとりは刃を鈍く光らせた剣士。もうひとりは弓を構え、すでに矢をつがえていた。


「来やがったか!」


剣・・・ということは、斧では不利だ。

俺は斧を横にし、柄の少し上あたりにあるレバーを引く。

すると刃の部分がガシャガシャと音を立てて動き、形を変えて柄から離れる。


見る間に、斧は盾と両刃の剣のセットに姿を変える。

炎を宿した白金の剣盾が、雪の中で赤々と光った。


 迫る剣士の一撃を盾で弾き、火花を散らす。

重い衝撃が腕に響いたが、踏ん張って剣を押し返す。


「姜芽、輝はあっちをやる!」

輝は叫びつつも、すでに矢を放っていた。


白い軌跡を描いて飛んだ矢は光を弾き、敵の弓兵の矢を叩き落とす。

続けざまに二射、三射と放たれ、鋭い矢が交錯し、石畳にカンカンと弾け散った。


「・・・くそっ、速い!」

敵弓兵が舌打ちする。


 その隙に、俺は剣を大きく振り下ろした。

炎を纏った刃が敵剣士を押し返し、盾で叩きつけるように殴りつける。

「ぐっ・・・!」と呻き、敵が後退した。


だが──すぐに反撃が来る。

剣士が切り上げてきた刃を辛うじて盾で受け止めると、同時に弓兵の矢が俺の脇を掠めた。

風切り音が鼓膜を震わせ、頬に冷たい切り傷を刻む。


「・・・今のは、危なかったな」


「姜芽!集中しろ、挟まれる!」


 輝の声が飛ぶ。

彼もまた敵弓兵と矢を撃ち合い、互角に渡り合っていた。

矢と矢が空中でぶつかり合い、白い閃光のように散っていく。


「はぁ・・・やれやれ、楽はさせてくれないらしい!」

俺は自嘲気味に叫び、盾を構えて突進した。


 火花と矢の閃光が交錯する中庭は、小さな戦場と化していた。

今、ここにいる味方は2人だけだ。

でも、それでもなんとかなる。

いや、してやる。


弓持ちに向かって炎を放ちつつ、横からきた剣士の攻撃をガードした。

今のところ、押されてはいない。このまま、防ぎきってみせる。

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