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黒界異人伝・異世界英雄譚 -ようこそ、造られた異世界へ-  作者: 明鏡止水
8章・エルメルの戦火

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第572話 冷気と封印の扉

 石造りの通路は、冷気が染み込んでいた。

吹雪から逃れたはずなのに、空気はどこか淀んでいて、肺に吸い込むたびに重く沈むような苦しさが走る。


「・・・来るぞ」


龍神の低い声に、全員が構えを直した。


 奥の闇の中から、足音が響いてくる。

やがて姿を現したのは、黒い修道士のような服に身を包んだ異人たちだった。

その手には光る剣、あるいは鈍く禍々しい杖。


奴らは、じりじりと間合いを詰めてくる。


「・・・ボスは僧侶でも、構成員は祈祷師なんだな」


 俺は斧を構え、仲間たちに視線を送る。


一人が杖を掲げ、漆黒の矢を放つ。

それが空気を裂き、龍神の刀に弾かれて散った。


だが、別の敵が逆に掌を突き出し、眩い光弾を撃ち込んでくる。

白銀の閃光が通路を照らし、俺は反射的に目を細めた。


「うっ・・・目が・・・!」


 輝が呻き、狙いが大きく逸れる。

光魔法は、彼の矢のタイミングを狂わせるには十分すぎたようだ。


「ならば・・・私が!」


リュミエールが駆け、刀を振り抜く。

刃が敵の光の鎖を断ち切り、返す一撃で敵を沈めた。


「斬れ味は・・・落ちてないな」


同時に、後方から黒い矢が飛ぶ。

ソティアが盾を構え、軋む音と共に受け止めた。

「・・・ぐっ、重い!」


「ソティア、下がれ!──[紅蓮割り]!」


俺は叫び、斧を振り下ろす。

炎が闇を裂き、敵の影を吹き飛ばした。


「・・・姜芽!後ろ!」


 美羽の警告と同時に、背後に気配が走る。

振り向いた瞬間、眩い光剣が振り下ろされてきた。


「くっ!」


腕で受け止めた衝撃が全身を痺れさせる。

だが、その隙を逃さず、美羽の雷が敵を貫いた。


「・・・やっぱり、光は厄介ね!」


ミアが叫び、扇を振る。

奔流が通路を押し流し、数人の敵をまとめて薙ぎ払った。


「・・・もう少しだ!押し切るぞ!」


龍神が吼え、刀を振り抜く。

先ほどの前哨戦で削られた体は悲鳴を上げている。だがそれでも、皆は戦い続けた。




 闇と光が交錯する通路の中、火花と閃光が乱れ飛ぶ。

やがて最後の敵が膝を折り、崩れ落ちた。


「・・・はぁ・・・終わったか・・・」


息を切らしながら、刀を拭ったリュミエールの声に、沈黙が落ちる。


彼女だけでなく、みんなが息を切らしている。

・・・そこで、新たな疑問が出てきた。


「奴ら・・・普通に動いていたな。この、薄い空気の中で・・・」


 そう言えばそうだ。

ここは標高5000メートルを超える高山、これまで結構な戦いを乗り越えてきた俺たちでも、息が上がるような環境である。


「慣れてるんじゃないか?普段から・・・こんな、高いところにいるんだからな」


「そう・・・だろうか・・・」


「そうだよ、たぶんな。人間でも、高山で暮らしてる奴は薄い空気に慣れるっていうし」


龍神はそう言ったあと、せき込んだ。

なにも、一息に喋る必要はないのに。




 石造りの通路を進むたび、再び闇の気配が漂った。

奥から湧き出すように、修道服の影たちが次々と現れる。


「・・・またか!」


ルファリアが刀を構え、風を纏った斬撃を放つ。鋭い突風が敵の杖を弾き飛ばし、続けざまにソティアが剣で斬り伏せる。

その一瞬の連携で、三体の敵が倒れた。


「・・・っ、後ろだ!」


 リャドが低く唸り、背後から迫る闇の矢を爪で掻き消す。闇を裂いた影に、龍神の雷が走った。紫電が通路を照らし、敵が痙攣しながら倒れる。


「ふぅ・・・まだまだいるな、こりゃ!」


「数に構うな!前へ進め!」


レイヴェリアの大剣が振り下ろされ、石床に火花を散らす。重い衝撃波で敵の列が崩れると、輝がその隙を逃さず矢を放った。

矢は光の尾を引きながら、崩れた敵をまとめて貫いた。


「・・・姜芽、左!」


 ミルエラが叫び、剣で迫る敵を押し返す。

その横をすり抜け、俺は斧を振り下ろした。

炎が敵を呑み込み、漆黒の修道士が絶叫とともに崩れ落ちる。


「・・・まだだ!」


美羽がハルバードを振り抜き、雷鳴が轟く。

ミアは炎が揺らぐのを見て、水の奔流で補い、敵を一気に押し流した。


光と闇、雷と炎、風と水。

仲間たちの力が交錯し、通路の奥へと道を切り開いていく。


 やがて、最後の一体をリュミエールが斬り捨てると、その先は屋外だった。

だが、そこから少し歩くとすぐに新たな建物が現れ、魔力を漂わせる扉が姿を現した。


黒鉄で補強された分厚い木製の扉で、表面には奇妙な文様が刻まれている。



 俺は肩で息をしながら、斧を下ろした。

ここまでの戦闘だけでも、肺は焼けつくように痛む。だが、この先が本番だと──何かが、言っているような気がした。


ソティアが剣を突き立てるように構えたまま、低く言う。


「・・・開かない。鍵がかかってる」


「それもあるけど、魔法もかけられてる・・・鍵を見つけて開けるのが無難ね」

ミアが険しい声で呟く。


 皆の吐息が白く濃く漂い、沈黙が落ちた。

だが全員の視線は、目の前の扉へと向けられていた。


「となると、次は鍵を見つけなきゃないわけか・・・」


美羽がため息をつき、「やれやれ」という感じの動きをした。

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