表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒界異人伝・異世界英雄譚 -ようこそ、造られた異世界へ-  作者: 明鏡止水
間章・封じられし者たち

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

603/679

第570話 雪嶺に立つ者たち

 振り下ろした斧が敵を打ち砕いた瞬間、胸の奥が焼けつくように痛んだ。

空気が足りない――そう、体が訴えていた。


肺いっぱいに息を吸い込んでも、息苦しさが消えない。

深呼吸をしても、入ってくるのは冷たい空気ばかり。酸素が全然入ってこない。


「・・・はぁ、はぁっ・・・」


 周囲を見渡せば、他のみんなも同じだ。

龍神は額に冷や汗を滲ませ、肩で大きく息をしながら敵を睨んでいる。

リュミエールも刀を構えつつ、白い吐息を荒く吐き出していた。


「ぐっ・・・くそっ、動きが鈍る・・・!」


リャドが舌打ちしながらも爪で影を裂く。だが、その勢いはいつもより確実に鈍い。


 雪を蹴るたび、太腿が鉛のように重くなる。

頭の奥がじんじんして、視界の端がちらついた。

標高5000メートルを超えるこの環境では、戦うだけで命を削られていく。


「・・・はあつ!!」


ソティアが力を振り絞り、迫る敵の胴を真っ二つにした。

その直後、彼女は片膝を雪に突き、ぜえぜえと肩で荒く呼吸した。


「・・・ちょっと・・・頭が、回らない・・・」


「無理はするなよ!」


「大丈夫よ・・・連携で、押し切れば!」


 彼女に呼応するように、俺は斧を振るう。

体を動かすたびに、心臓が破裂しそうなほど脈打ち、視界が赤黒く染まっていく。


これまで見てきた限り、敵は無尽蔵に現れているわけではない。

だが、俺たちがここで体力を削られ続ければ――アジトに突入する前に、全員倒れる。

この消耗戦こそが、奴らの狙いなのか。


「・・・クソッ、立て続けに仕掛けてくるとはな!」


龍神が吼え、足元をすくってくる影を蹴り飛ばす。

だがその声も、どこか掠れていた。


冷気と薄い空気が、全員の肺を蝕んでいく。

戦いながら、俺は奥歯を噛みしめた。


 ――耐えろ。

ここを越えなきゃ、先へは進めない。

自分にそう言い聞かせながら、俺は技を繰り出す。


「斧技 [紅蓮割り]!」


炎を纏った斧の一撃で、敵を一刀両断する。

それと同時に、稲光が雪原を裂いた。


「――はぁあっ!!」


美羽のハルバードが雷を纏い、振り下ろされた瞬間、地面ごと敵を穿つ轟音が響いた。

白銀の世界に紫電が奔り、数体の影が一瞬で黒焦げになる。


「・・・っ!」


彼女は武器を支えたまま、膝を折りかけた。肩が上下し、呼吸が荒い。

威力の高い技は、そのぶんこちらの体力も容赦なく奪っていく。


「美羽!下がれ!」


 輝が叫び、弓に光の矢を番える。

彼の放った矢は、雪を反射して眩い尾を描き、一直線に敵の胸を貫いた。


「・・・くそっ、狙いがブレる!」


彼もまた息を切らしており、弓を引く手がわずかに震えている。


 敵は怯まず、さらに四方から迫ってくる。

雪煙が舞い、目の前が白く霞む。


「・・・こんなの、燃やして溶かしちゃえばいいのよ!」


ミアが声を張り上げ、扇を翻した。

紅蓮の炎が雪を焼き払い、敵の群れを巻き込む――が、次の瞬間、炎は霧のように掻き消えた。


「・・・やっぱり、空気が薄いと火は・・・!」


彼女は悔しげに奥歯を噛む。

俺の操る火は異能によるものだから、それを無視できるのだが、酸素自体が足りないこの環境では、火の燃焼は不安定になるのだ。


 だが、ミアはすぐにもう片方の扇を振るった。


「なら、水で押し流す!」


氷雪を巻き込みながら奔流が放たれ、敵をまとめて弾き飛ばす。


「ナイスだ、ミア!」


俺が叫んだ瞬間、横合いから迫ってきた影を、光矢が一閃して吹き飛ばした。

輝だ。息を荒げながらも、彼は苦笑して見せた。


「・・・まだ、外すわけにはいかないからな!」


 雷鳴、炎、水流、光、そして刀剣。

それぞれの力が吹雪を裂き、影を次々と倒していく。

だが――動けば動くほど、体が悲鳴を上げるのもまた、みんな同じだ。


敵の数は減りつつある。

だが、このままでは・・・全員の体力が限界に先に達する。


「・・・みんな、あと少しだ!一気に仕留めるぞ!」


 俺は叫び、炎を纏った斧を構え直した。

雪煙の奥から現れる敵影に向かって、仲間たちが再び武器を振るう。


そして──夜会の連中を、少しずつ倒していく。

雪に覆われたアジトに、乗り込むために。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ