第563話 息を奪う山
そこからの道のりは、まさに想像を絶するものだった。
木々が見えなくなってまもなく、現れる異形は岩石などでできた硬い体の物質系がメインになった。
そのため、純粋な剣士であるルファリアたちで対処しきるのは難しくなり、俺やナイア、柳助が参戦して戦う場面が増えた。
異形自体も地味に強く、耐久はもちろんだが攻撃力もある。
大岩を飛ばす攻撃などは、速度こそ遅めなものの当たるとかなり手痛い。
タックルを繰り出してくるものもいたが、これもまたまともに食らうと深刻なダメージを受ける。
タイミングが把握できてからは、ガードやカウンターのチャンスにもなったが、それでもミスれば真面目に危ない。
さらに、これは異形とは関係ないのだが、進むほどに息が苦しくなってきた。
それは俺だけではなく、共に前線で戦っていた柳助やナイア、ラスタ内にいた樹や煌汰も同様に息を切らしていた。
高山では空気が薄くなる・・・という話を聞いたことがあるが、それは本当なんだなとしみじみ思った。
やがて、ソティアが頭痛とめまいを訴えたのを皮切りに、他のメンバーにも続々と体調不良を訴える者が現れた。
煌汰やメニィは吐き気がする・・・と言った後本当に吐いていたし、キッドやはなは頭痛がするから寝ると言って部屋に戻っていった。
たぶん、みんな「高山病」ってやつにかかってるんだろう。
そんな状況を受けて、輝は「この辺で一旦止まる」と言い出した。
先を急ぎたいであろうリュミエールたちは、怒るかと思いきや、むしろ輝に感謝していた。
「ありがとうね。正直、私たちも具合悪いの」
リュミエールは、他のムーランたちを先導してラスタに戻ってきた。
なんと、彼女たちはみんな体調を崩しているらしい。
マーディアの三姉妹については、高山病になったっぽいのはソティアだけで、レイヴェリアとルファリアは平気そうだった。
同じ高位の異形でも、そこは個人差があるのだろうか。
かくいう俺も、まだ体調を崩してはいない。息苦しさを感じてはいるが。
夜、ラスタの光景は異様なものとなっていた。
メンバーのおよそ半数が体調を崩し、さらに彼らの看病をする者が現れたため、夕食の時間にリビングに来たのは、わずか10人ほどだった。
「ずいぶんガラガラだな・・・」
猶がぼやくように言った。
「しょうがないよ。みんな具合悪いか、その世話に当たってるんだから」
キッドが、ポテトサラダをつまみながら言った。
今晩の食事は、ハンバーグにキャベツとトマト、それとポテトサラダだ。
体調不良の面々には、別途でうどんを作ってもらうことになっている。
そんなことができるだけの食材を確保できたのも、あおいのおかげだ。
ちなみに、今日の料理は本来煌汰とメニィ、樹がやる予定だったのだが、この3人は軒並み高山病になってしまったため、代わりに亜李華とレナス、美羽が担当した。
「しかしまあ、柳助とかもなっちまうとはな」
龍神がそう言った。
彼は、最初の七人のメンバーこと「チーム・ブレイブ」の中では数少ない、高山病になっておらず、誰かの看病にも回っていない男だ。
それを言うと、俺もなのだが。
「だな。輝も頭痛いって言ってたし、キョウラも吐き気がするって言ってたからな・・・今まともなの、ここにいる奴らとみんなの看病に回ってる連中だけだな」
「皆さん、早く回復してくれるといいですね・・・」
亜李華が心配げな顔で言ったが、レナスは首を横に振った。
「高山病は、治るタイミングにも個人差がある。早く治る者は、明日にでも治っているだろうが、遅い者はどれくらいかかるかわからん」
「そんな・・・!」
「まあ、仕方ないか。けど、輝が治ってくれないとまずいね。うちら、こっから1ミリも進めないじゃん」
美羽が苦笑いした。
ラスタの操縦は基本的に輝しかできないので、彼がダウンするとどうにもならない。
「あんまり急いで登っても、具合悪くなるやつが増えるだけよ。それにこの先は、もっと寒くなるだろうしね」
あおいの言う通りだと思った。
ここから先さらに標高が高くなれば、その分高山病のリスクも上がるだろうし、気温も下がるだろう。
すでに、外では雪が降り始めている。
昼間でも、森林限界を超えたあたりから寒くなってきたなとは思っていたが、このあたりでは普通に積雪が見られる。
俺は火属性なのもあって、寒いのは苦手だ。
そんな中で外に出て戦うなど、もってのほかである。
「ってことは、どの道しばらくはここに留まるしかないってことか。まあ・・・ここは快適だからいいんだけど」
ラスタの中は、常に気温が一定に保たれている。
エルメルに来てから、その恩恵を感じる場面は少なかったが、今は多いに恩恵を感じる。
「とりあえずは適当に時間を潰して、輝とみんなの回復を待とう。今の俺たちにできるのは、それくらいだ」
俺はそう言って、夕食を片付けた。




