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黒界異人伝・異世界英雄譚 -ようこそ、造られた異世界へ-  作者: 明鏡止水
間章・封じられし者たち

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第561話 タイヤ異形の真実

 さて、ミアの治療が行われている間、俺たちも何もしていなかったわけではない。

ナイアの託宣や、回復した生き残りのムーランからの聞き込みを中心に、“月葬の夜会”の連中のアジトの場所を全力で突き止めようとしていた。


託宣では、「アジトは雪に覆われた場所にある」「アジトには、侵入者を防ぐための人造異形がいる」といったことがわかった。

後者はともかく、前者の情報は結構有力な情報であった。


 というのも、この時期にエルメルで雪が積もる場所というのは高山のみ。

しかもその高山は、国の北東の国境沿いに広がる「エルバフ山脈」のみであることがわかった。


また、ムーランたちからの聞き込みで、「奴らは妙に防寒・氷属性対策をしっかりしていた」ということがわかった。

それにより、俺の中で出来ていた仮説はほぼ確信へと変わった──奴らのアジトは、エルバフ山脈にある。


 調べたところ、標高5000メートルを超えるかなり高い山脈であるようだ。

確かにこんな場所には人は来ないだろうし、アジトも作れるかもしれないが・・・往来が大変すぎではないだろうか。


まあ夜会の連中はかなり訓練された奴ばかりであるし、このくらいの山は登れるのかもしれない。


 と、このままでは「大雑把な場所」がわかっただけに過ぎなかったのだが、ここに更なる助け舟が出てきた。


例の通信機を使い、“夜明けの牙”の幹部・・・エルドと話したのだが、その際俺は彼に、奴らのアジトはおそらくエルバフ山脈にある、と伝えた。


すると、彼は感心したような声を出し、正解の念を示した。

そして、なんとアジトの正確な場所を教えてくれた。


「その場所は、奴らの主要な拠点の一つだ。君たちが乗り込んでくれるのなら、心強い」


「大したことじゃない。しかし、なんであんたはそんなこと知ってるんだ?あんたは、遠く離れた場所にいるだろうに」


「我々もレジスタンスなのでね。踏み込むことはできなくとも、奴らの主要な拠点の場所は把握している」


 そう言えば、“夜明けの牙”は夜会との戦いでメンバーが減り、拠点を潰すような戦力がないとエルドは言っていた。

とはいえ、場所を教えてくれたのはありがたい。


「ありがとな、エルド。必ず、奴らを潰して見せる」


最後にそう言って、俺は通信を切った。




 ちなみにその後、ラウダスがやってきて、「例の異形の調査が終わった」と言ってきた。

それを聞いて俺は、以前タイヤの異形を捕まえてきたことを思い出した。


彼は、調査の結果を報告するから、リビングまで来て欲しいと言ってきた。


「何か、わかったのか?」


「ああ、いろいろとね。・・・まあ、詳しいことはみんなの前で話すよ」




 そうしてリビングに集まった俺たちの前で、ラウダスと樹は調査の結果を報告した。


まず、あれはやはり新種の異形だった。

ただし自然に発生したものではなく、人工的に作られた「人造」の異形。

捕食の必要もなく、天敵や繁殖機能も存在しない、「作られた」異形だと判明したそうだ。


「彼らはいわば、『武器として作られた』異形だ。タイヤに籠もっての突進は、高速な上に高威力。しかも、防御力も高い」


 しかしながら弱点もある、とラウダスは続けた。


「彼らは、柔らかくてデリケートな本体をタイヤと、比較的硬質な脚で守っている。そのタイヤは熱と冷気に弱いし、脚も同様だ。正直、脚を傷つけてもあまり意味はないが、タイヤの部分を破壊できれば、彼らにとっては致命的だ」


要は、あのタイヤは亀の甲羅のようなものだ、と樹が補足した。


「奴らは、おそらく生まれた時からあの中に住んで、同化している。だから実質、あれはタイヤというより奴らの殻、甲羅なんだ」


 なるほど、なら確かに破壊すれば致命的なダメージを与えられそうだ。

・・・と、そこで俺は気になっていたことを思い出した。


「あの粘液は・・・タイヤを傷つけたら出てきた透明な液体は、何だったんだ?」


「あれは・・・要は、奴らの身を守ってる体液だな。あれのおかげで、奴らは目を回さないし、柔らかい体を守れてる。あの液体の中で浮いてるような感じだ。・・・奴ら、まるで人間の胎児みたいだった。あの粘液も、成分は羊水に近いものだったしな」


「羊水って・・・」


 そこで、ラウダスがまた口を出した。


「今回、僕らが研究してたどり着いた結論としては・・・奴らの正体は、おそらく水子の霊をタイヤと組み合わせた、人造の亡霊系の異形だ」


その言葉に、皆が衝撃を受けた。


「水子って・・・あれだよね?妊娠中に亡くなって、生まれて来られなかった赤ちゃん・・・」


 ナイアが、震えた声で言った。


「ああ。だから、本体は胎児のような姿をしていたんだろう」


ラウダスによると、水子の霊には下手な亡霊より強い怨念の力があり、何かと組み合わせて異形にするには都合がいいという。


「水子の霊なら、量産も簡単だ。適当な妊婦を流産させればいいだけだからね」


「妊婦をわざと流産させて、その子供の霊を異形にするのか・・・エグいな」


 だが、それを聞いて一番震えたのは、リュミエールとミルエラだった。


「それじゃ、まさかみんなは・・・!」


「ええ・・・その可能性は、高いと思います!」


夜会に連れ去られた彼女たちの仲間・・・ムーランの中には、子を身ごもっている者もいたという。

もしそれが、奴らによって流産させられたら・・・。


「こうしちゃいられないわ!」


 リュミエールはいきり立ち、今すぐ行こう、何としてもみんなを助けよう、と急かすように言ってきた。


俺としても、そのつもりだ。

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