第556話 タイヤの中の赤ん坊
「それにしても、あいつら・・・一体何だったんだ?」
「タイヤに宿った悪霊か何かじゃない?わかんないけど」
そんな会話をしていた中、ナイアが声を張り上げた。
「ねえ、あれ見て!」
彼女が指さしていたのは、消えずに残ったタイヤ異形・・・だったのだが、よく見るとその胴体というかタイヤの部分に、ヒビが入っていた。
「これ、中身見れるんじゃない?」
「・・・だな。やってみるか」
とりあえず剣に炎を纏わせ、焼き切るようにタイヤを横切るように水平に切断した。
すると、中から透明な粘液・・・というか、妙な粘り気のある液体が出てきた。
「うわ、なんだこりゃ・・・」
「なんか、気持ち悪いね。ある意味、血よりグロいかも・・・」
リャドとミアが引いている。
正直、俺もなんか気持ち悪いなとは思う。
だが、これはまだ始まりに過ぎなかった。
粘液の流出が止まった後、改めてタイヤを切り開いて中身を見てみたのだが、中にはなんと、人の赤ん坊がいた。
・・・いや、正確には人の胎児のような何かがいた。
それは目を閉じて、両手を胸の前にやって丸くなっていた。
おそらくは、あの粘液に満たされたタイヤの中でこうして丸くなっていたのだろう。
さながら、母親の胎内で育つ胎児のようだ。
また、こいつの足は異様に太く、そのままホイールからタイヤの外に突き出していた。
つまり、こいつがこの異形の正体というか中身で、外に出た足はこいつのものだったのだ。
「何これ・・・こんなの、見たことない」
ナイアがそう呟き、吏廻琉も相槌を打つ。
「私もよ。こんな奇妙な異形、一度も見たことないわ」
みなが首を傾げて困惑する中、柳助は何やら唸っていた。
「うーむ・・・これは、持ち帰って研究させたほうがいいかもしれん。あまりに奇妙で、風変わりな異形だ」
俺は、その意見に同意した。
「タイヤの中に住む?被ってる?ってのも、なんか風変わりだよな。中にいたのが、人の赤ん坊みたいなやつだってのも、余計に不思議だ」
「ああ。だが、この異形・・・樹やラウダスあたりに調べさせれば、何かわかるかもしれない。十中八九、新種の異形ということになるだろうが、解剖してもらえば、詳細が判明するだろう」
そういえば、樹やラウダス、苺なんかは研究者でもあり、この手の異形や生物にも詳しいんだった。
彼らなら、喜んでこいつを調べてくれそうだ。
「それはいいかもしれないが・・・詳しい調査と解剖には、なるべく傷ついていない個体が必要だぞ?」
リャドがそう言ってきたが、心配の必要はなさそうだった。
というのも、近くにまた別のタイヤ異形が倒れていたからだ。
もちろん、こちらには手を付けていない。死んではいるだろうが。
結局、3体のタイヤ異形をラスタまで運んだ。
やたらと重かったので、魔力を通して軽くして持ち運んだ。
樹たちに詳しい経緯を話したところ、喜んで調査すると言ってくれた。
樹はもとより、ラウダスや苺もこんなものは見たことがないと言っていた。
「ちょっと1体だけ切って、中を覗いてみたんだが・・・どうも、中は透明な粘液で満たされてて、その中に本体がいるみたいなんだ。だから、解剖する時は気をつけてくれ」
「ん?ああ、わかった。・・・なるほど、だからこんなに重いんだな・・・」
「本体は、どのような見た目だった?」
ラウダスが聞いてきたので、「丸まった人の胎児みたいだった」と答えたところ、彼は何やら腕組みをして唸った。
「・・・ということは、もしかするとこれは人工的に作られた生物かもしれない」
「えっ!?どういうことだ?」
「一部の祈祷師の間では、流産したり病気になったりして、幼いうちに亡くなった赤ん坊の魂や肉体を利用して、人工的な異形を作る・・・ということも行われているんだ。そうして作られた異形は、共通して胎児のような形の部位を持つんだよ」
恐ろしい話だ。
魂はまだしも、亡くなった赤ん坊の肉体を異形開発に使うなんて・・・やる奴らの倫理観を疑う。
「確かに、そのようなことはありますね。しかし、詳しいことを知るにはやはり調べてみなくては」
苺がそう言うと、2人も頷いて、後ろを向いた。
彼らには専用の研究室を用意しているので、そこでたっぷり研究してほしい。
それで、あの奇妙な異形のことが何かわかればいいのだが。




