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黒界異人伝・異世界英雄譚 -ようこそ、造られた異世界へ-  作者: 明鏡止水
8章・エルメルの戦火

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第550話 裏切りの朝

 ひとときの安らぎは、思わぬ形で終わりを迎えた。


朝5時過ぎに、突如として一人の女が集落に駆け込んできた。

ピンクっぽい色の鎧を着ていたので、マーディアではなくムーランであることがすぐにわかった。


「隊長!・・・リュミエール隊長は、どこだ!?」


 その女は、よく見るとリュミエールの部隊にいたムーランのうちの一人だった。

すぐに後ろで寝ていたリュミエールを起こして会わせると、女はリュミエールの無事を喜びつつ、緊急の報せがあると切り出した。


「大変です・・・!フォンティアが、“月葬の夜会”に襲撃されました!」


リュミエールは、それを聞いてひどく驚いた。


「え!?・・・でも、彼らは私たちに協力すると言っていたはず・・・!」


「それが・・・我らが、マーディアの集落の襲撃に失敗したことを契約違反だと言って、怒っているようです。約束を取り消しにして、お前たちも皆殺しにすると・・・!」


「なんですって・・・!?」


 彼女はひどくショックを受けたようだったが、すぐに「わかった、すぐに戻る」と言った。


「信じてた相手が、敵に回るなんて皮肉ね」そうリュミエールは唇を噛んだ。心の奥に、静かな怒りと恐れが芽生えていた。


「フォンティアってなんだ?」


「私たちの集落よ。ここからは結構離れてる。まともに向かえば、3時間はかかる・・・ああ、こんなことしてる場合じゃない!急がなきゃ!」


リュミエールは大慌てで武器を取り、旅立つ準備を始めた。

だが、そこに俺は待ったをかけた。


「3時間かかるって言ったよな。それは、歩いたらの話か?」


「ええ、そうだけど・・・」


「なら、俺たちが協力してやれる」


「えっ?」


 俺は彼女に「ちょっとだけ待ってくれ」と告げ、ラスタへ向かう。

そして操縦席で寝ていた輝を叩き起こし、ことの経緯を簡潔に伝えた。


「・・・よくわかんないけど、とりあえずムーランの拠点がピンチなんだな。なら、すぐにラスタを飛ばして助けよう!」


輝はそう言って、発進の準備を始めてくれた。

この素直さと物分りの良さもまた、こいつの魅力だと思う。




 そして俺はリュミエールの元に戻り、事情を説明した。

彼女は「え?どういうこと?」と困惑していたが、一刻を争う事態だ。詳しいことは後で話すから、とにかくラスタに乗れと言って、半ば強引に乗ってもらった。


その後俺は、同じく焚き火の周りで寝ていたミアとルファリアも起こし、ラスタに乗れと促した。


ルファリアは最初、主の許しがなければ拠点を離れられないと言ったが、「主がこの立場にいたら、どうしたと思う?」というミアの言葉を聞き、納得してくれた。




 ラスタに戻ると、他のみんなも起き出しつつあった。

あのあとなおも起きたようで、まだ寝ていたメンバーを起こして回っていた。


リュミエールたちを連れてリビングに集まっていたら、キョウラが寝ぼけ眼でやってきた。


「・・・姜芽様、一体どうしたんですか?こんな早朝から・・・」


「彼女・・・リュミエールたちの集落が、夜会に襲われたらしくてな。救援に向かうことになったんだ」


「夜会に・・・?」


 キョウラは目をこすり、「それは大変。すぐに向かいましょう!」と言ってくれた。

そんな彼女を見て、リュミエールは「寝起きの僧侶なんて、始めて見た・・・」と呟いた。


するとキョウラは、「な・・・何か問題ありますか!?」と照れ隠しに怒った。

彼女としては、寝起きのだらしない顔を人に見られるのが嫌だったのだろう。

・・・リュミエールは異形なのだが。




 そんなこんなで、発進の準備は整った。

リュミエールを操縦室に呼び、ムーランの集落の場所を地図に書き込んでもらいつつ、詳しい説明を聞いた。


「私たちの集落は、フォンティアという名前なの。マーディアほどじゃないけど、立派なところよ。・・・じゃなくて、場所はここ」


彼女が印をつけたのは、エルメル東部の山岳地帯の麓だった。


「山の麓にあるのか」


「ええ。それも、背の高い木々に囲まれた林の中。私たちは警戒心が強い種族だから、なるべく安全そうな場所を選んだの」


「ここからの距離は・・・12キロくらいか。これなら、すぐ行ける」


 輝は操縦席に座り、ハンドルを握った。


「待ってな、リュミエールさん。すぐに、あんたのお友達をみんな助けてやるぜ!」


そうして、朝日に照らされながら・・・

ラスタは、マーディアの集落を飛び出した。

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