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黒界異人伝・異世界英雄譚 -ようこそ、造られた異世界へ-  作者: 明鏡止水
8章・エルメルの戦火

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第544話 陽だまりとスイーツと

 朝。

マーディアの集落は、変わらず穏やかだった。


塔での戦いから三日。救出した人々は、治療とサポートの甲斐あってだいぶ落ち着いてきた。

マーディアたちも、彼らのサポートを頑張ってくれている。今は、俺たちの軍のメンバーも混じっての炊き出しや衣類の手配が進んでいる。


 ルファリアたち三姉妹は集落の警備やら、主の手伝いやらに忙しく、煌汰とリャドは周辺の見回りに出ている。

はなは、キョウラと共に難民の子どもたちに剣を教えていた。


その理由は、はなは「生き残るために必要だからね」といい、キョウラは「自衛のために必要ですから」と言っていた。

二人の性格が何となく垣間見れる答えであった。


 そして──俺は今、拠点ラスタのキッチン横のテラスで、テーブルいっぱいに広げられたスイーツを、目を丸くして眺めていた。


「・・・それ、誰が食べるんだ?」


「もちろん、私」


元気よく挙手したのは、当然ながらミアだった。


 彼女はすでに片手にフォーク、もう片方の手に小さなチョコパイを持っている。

皿の上にはフルーツの乗ったミルクプリンが待機しており、その奥には見事な“ハチミツくるみケーキ”が丸ごと一つ鎮座していた。


「いくらなんでも食べすぎだろ・・・」


「むしろ足りないぐらいだよ。ほら、戦った・・・じゃなくて、ここからの戦いに備えた分の補給!」


 そう言いながら、彼女はパイをまるごと口に放り込んだ。

咀嚼3秒、即飲み込み。


「うま・・・っ、次っ!」


その瞬間、ミアの右手が皿の上のプリンへと伸びた。フォークはすでに構えてある。


 ──ぷるん。


器から震えたプリンが、無慈悲にも吸い込まれていく。

かと思えば、すかさず左手でケーキをちぎり、手づかみで頬張った。


「・・・戦場よりすごい勢いだな」


「脳が甘味を欲してるんだもん。これは仕方ないよね!」


 隣にいた龍神が、ぽつりと漏らす。


「・・・あいつ、甘いもの食ってるときだけ、オーラが二段階ぐらい上がってないか?」


「俺も思ったよ、それ」


彼と、小さく頷き合った。


 するとそこへ、ナイアが帳簿片手にやってきた。


「ミアさん、食べ過ぎると本当に具合悪くなるよ・・・昨日みたいに」


「大丈夫!私は、むしろ食べないとやってらんないから!」


「・・・すごいよね、本当。よくそんなに甘いものばっかり食べられるわね」


「私にとって、甘いものは光であり、生き甲斐そのものだからね!」


反論の余地すら与えない力強さだった。

──まあ、元気ならいいか。


ミアがスイーツを詰め込む光景を見ていると、俺たちがこうして無事に戻ってこられたことを、改めて実感する。


 仲間たちの声、集落のざわめき、風に揺れる洗濯物の匂い。

この“日常”こそが、守るべきものなんだと──今、心から思えた。


「なあ、ミア。食べたら、少しは休めよ?」


「もちろん。休憩も一つの甘味だからね!」


 彼女の笑顔が、空に向かって伸びる。

その頬には、ホイップクリームのかけらが、こっそり付いていた。




「・・・ふう、ごちそうさま!」


 大量のスイーツを食べ終わったミアは、口の周りを拭いて去っていった。

おそらくは、自室に戻っていったのだろう。

ナイアはため息をつきつつ、彼女の残していった皿やらゴミやらを片付けた。


その様子を見ていた龍神が、ぽつりと呟いた。


「あいつ・・・大丈夫かよ?」


その言葉は・・・まあ、ミアの食欲にドン引く意味だったのだろう。

俺は苦笑いしながら、「まあ、大丈夫だろうさ」と答えた。


「だといいんだがな・・・」


 この時、俺は・・・ちょっとだけ、彼の言葉に含みがあるように感じた。


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