第541話 立ちはだかる双牙
バルトが再び大剣を構え、こちらを睨んだ。
だが──もう、さっきまでの余裕はない。
奴の肩口にはルファリアの斬撃の痕、手にはミアの炎で焦げた跡が残っている。
「──行くぞ!」
俺は剣を掲げ、再び突撃した。
それに呼応するように、龍神が雷刃を振るい、ルファリアが風の一閃を放つ。
バルトは大剣を振り上げ、正面から迎え撃つ。
「[氷縛鎖]!」
煌汰の術が、奴の足元に伸びた。
氷の鎖が絡みつき、バルトの動きが一瞬だけ鈍る。
そこを目掛けて、俺の剣が大剣と正面でぶつかる。
衝撃で腕に痺れが走るが、この程度何でもない。
同時に、左右から龍神とルファリアの刃が襲いかかる。
バルトは大剣を押し返し、二人を薙ぎ払おうと振るう。
──その刹那。
「[火返し・閃]!」
ミアが放った扇の一閃が、バルトの大剣の軌道を反らした。
振り抜かれた大剣がわずかに逸れ、ルファリアと龍神はギリギリで間合いを保つ。
「おっと・・・!」
それでバルトがバランスを崩した瞬間に、龍神の雷刃が突き刺さった。
「[烈雷穿]!」
雷光が炸裂し、奴の身体が大きく仰け反る。
それでもバルトは踏みとどまり、大剣を逆手に振り上げようとした。
だが、そこで煌汰の放った氷がバルトの腕を狙い、一直線に飛んだ。
「[氷刃砕破]!」
見事に命中し、大剣を振り上げるその腕を凍らせ、動きを封じる。
バルトの表情が苦痛に歪む。
俺は、剣に力を込めた。
「これで──終わらせる!」
炎を纏った剣が、バルトの胸元に向かって突き込まれる。
奴は必死に大剣で受け止めてきたが、その刃をミアが再び扇で払った。
「・・・させない、よ!」
バルトの大剣が弾かれた瞬間、俺の剣が奴の肩を貫いた。
「ぐ、あああっ!!」
裂けた肩口から、血飛沫が舞った。
そして、バルトはついに膝をつく。
「・・・ふう」
俺は深く息を吐き、剣を構え直した。
龍神、ルファリア、煌汰、ミア──全員が俺の隣に立つ。
「・・・もう終わりか?」
俺の問いかけに、バルトは苦笑した。
「大した奴らだな、お前ら・・・」
バルトが、静かに大剣を地に突き立てる。
「・・・降参だ」
そう言って、奴はようやく──戦意を手放した。
──かに思われた、その時だった。
「・・・甘いね」
低く、乾いた声が頭上から降ってきた。
次の瞬間──
鋭い風の刃が、俺たちを真横から薙ぎ払った。
「っ──!?」
咄嗟に剣を構え、俺は斬撃を受け流す。
ルファリアと龍神も飛び退き、煌汰は氷壁を展開する。ミアは、扇を払って身を低くした。
そして、闇を裂くように降り立った影。
真っ黒な弓を手にした、痩身の男。
奴──ヴァルは、薄く微笑んだ。
「お前・・・!」
煌汰が驚いたように唸る。
だが、そう言えばこいつもいたんだった。
「なんだ、そんなに驚くことか?・・・俺はまだ、くたばっちゃないぜ」
同時に、傷だらけになったはなと亜李華とリャドの姿が視界に入り、彼らの存在を思い出した。
この時、俺は気づいた。
ついさっきまで、こいつが出てこなかったのは、はなたちが相手してくれていたからだったのだ。
ヴァルは弓を肩に担ぎながら、俺たちを値踏みするように見渡す。
「そこの女どもは・・・まあまずまずだったよ。けどな、正直女は傷つけたくない。この国じゃ、こんな綺麗ななりした女は珍しいからな。いい取引道具になるぜ」
やはり、こいつは女を商売道具、ものとして見ているらしい。
まあ、盗賊としてはいかにもな感じだが。
「あんた・・・!卑怯じゃない、今の!」
ミアが怒ると、ヴァルは肩をすくめた。
「戦いってのは、勝てりゃいいんだ。堂々としてるかとか、綺麗か汚いかなんて、そんなのは関係ない」
そう言って、奴はバルトに目を向けた。
「ほら、立てるだろ?」
バルトは肩を押さえ、苦笑したまま立ち上がる。
「・・・相方の手前、こんな格好悪く終わるわけにはいかねぇよな」
そして──二人並んで、俺たちを見据えた。
「次は二人まとめて、だ」
ヴァルが、漆黒の弓に風の魔力を纏わせる。
バルトは血の滲む肩で、それでも大剣を肩に担いだ。
「っ・・・!こいつら・・!」
煌汰が改めて剣を構え、氷を纏わせる。
「・・・いいだろう」
俺も剣を構え直す。
はなたちと、彼女たちを瞬時に回復した龍神とミア、あとルファリア、それに煌汰──全員が、無言で頷いた。
「今度こそ、決着をつけよう!・・・もう、邪魔は無しだ!」
風が唸り、雷が閃き、氷がきらめき、炎が舞う。
“月葬の夜会”の幹部と、ラフトレンジャーの小隊長。
それらとの、全力の戦いがここに始まる。




