第540話 連携の一閃
「──行くぞ!」
俺が合図を送ると同時に、ルファリアが風を斬り裂き、龍神が雷光を纏って突っ込む。 バルトは大剣を構え、正面から迎え撃つ構えだ。
その瞬間──俺は左右へ分かれた二人とは逆に、低く地を蹴ってバルトの足元へ滑り込む。
奴の視線が一瞬だけ、俺に向いた。
「うぉりゃっ!」
龍神の雷をまとった刀が、バルトの大剣に叩きつけられる。
火花と雷光が弾ける中、ルファリアが逆側から回り込み──
鋭い刀閃が、バルトの背へと走った。
だが、バルトは片手で大剣を持ったまま、拳を後ろへ振り抜く。
「──襲いな」
拳と刀がぶつかり、ルファリアは押し返される。
だが──それが狙いだった。
「そこだ!」
俺はバルトの足元へ踏み込み、炎を纏った剣で袈裟に斬り上げた。
これなら、さすがに防げまい。
「・・・なにっ?」
バルトは大剣を逆手に振り下ろし、俺の剣を受け止めていた。
化け物じみた腕力と、反射神経。そして──その目に、微かに浮かんだ嘲り。
「なかなか面白え。けど、ちょっと足りねぇな」
「・・・っ!」
俺はすぐに距離を取った。
バルトはまるで“試している”かのように、深追いはしてこない。
その隙を、ミアと煌汰が見逃さなかった。
「[烈火閃]!」
「[氷冷結界]!」
ミアの炎と、煌汰の氷が同時に放たれる。
相反する属性がぶつかり、爆ぜると同時に、バルトの周囲が一瞬だけ煙に包まれた。
その一瞬──ルファリアが煙の中に飛び込む。
「[斬影刃]!」
風を裂く一閃が、バルトを襲う。
・・・ところが、
「──お返しだ」
煙の中から、青く輝く水刃が弧を描いてルファリアを襲った。
「・・・っ!」
ギリギリで受け止めたが、勢いは殺しきれず、ルファリアは吹き飛ばされ、床を転がる。
「ルファリア!」
俺が叫び、駆け寄ろうとした瞬間──
「来るな!」
ルファリアがすぐに体勢を立て直し、俺たちを止めた。
その目は、まだ折れていない。
「・・・もっと派手にやるか!」
龍神が叫び、より強力な雷を纏った刀を振るった。
「[迅雷裂破]!」
雷鳴が轟き、大剣を構えるバルトに斬りかかる。
奴はそれを受け止めてきた──だが、今度は少しだけ、足が後ろに滑った。
「──ほう」
奴がわずかに目を細めた。
今のは、確かに押せたはずだ。
「みんな・・・ここからだ。反撃と行こうぜ」
俺は剣を構え、振り返らずに言った。
全員が、無言で頷くのがわかった。
最初に飛び出したのは、ルファリアだ。
彼女は風を纏った刀を水平に構え、バルトの正面から斬りかかる。
「[疾風連斬]!」
連撃の嵐がバルトに降り注ぐが、奴は大剣を振るい、それを次々と弾き返した。
ルファリアは怯まず、再び距離を詰める。
その瞬間、バルトが反撃の一撃を繰り出す。
「・・・そこだ!」
間髪入れず、龍神が割り込んだ。
刀でバルトの大剣を受け止め、ルファリアをかばう形で力をぶつける。
「[雷轟突]!」
激しい雷光が弾け、バルトの身体を直撃した。
奴は軽く後退し、額に小さく汗が滲む。
「おおっと、少し効いたか?」
龍神が不敵に笑い、バルトが忌々しげに舌打ちした。
こいつは水の技を使っていたし、雷に弱いのかもしれない。
そこで、ミアが技を繰り出した。
一度手にした扇に魔力を流し込んでいたことから、特に強力な技──おそらく、奥義だろうか。
「火の中に踊れ!奥義 [紅蓮舞]!」
彼女は、扇を大きくあおぐように一閃する。すると巨大な炎が現れ、大きく渦巻く。
バルトは即座に水を張った大剣で受け止めたが、ミアは止まらなかった。
「[火返し]!」
ミアの扇が輝き、炎が反転する。
まるで吸い込まれるように、炎がバルトの大剣から流れ込み、刃を伝って奴の腕を焼いた。
バルトは、わずかに顔を歪めた。
ミアのカウンター技は、しっかりと決まった。
ルファリアがその隙を逃さず、再び突っ込む。
龍神と共に、左右から挟み込むように斬りかかる。
さらに──
「[ハイブリザード]!」
煌汰の氷魔法が、バルトの顔に吹雪を吹き付けた。
それにより、奴の動きが一瞬だけ鈍る。
そこを狙って、ルファリアの刃がバルトの肩口に食い込んだ。
「よし・・・!」
飛び散る鮮血を浴び、ルファリアは確かな手応えを感じた、という顔をする。
バルトがたまらず大剣を振るって二人を弾き返したが、今のは確実に通った。
「へっ・・・やってくれるじゃんか!」
バルトが舌なめずりをした。
奴の大剣には、微かに焦げ跡と氷の結晶が残っている。
「次は──俺の番だ」
俺は剣を構え、奴の真正面へと踏み込んだ。
「お前はなかなか強い。けどな・・・俺たちは、強い奴と何度も戦ってきたんだ」
炎を纏った剣を、奴の大剣にぶつけた。
その瞬間、雷光と氷刃、そしてミアの炎が、俺の剣と同時にバルトへと襲いかかる。
「──なっ!?き、汚ねえぞ・・・!!」
これには、さすがのバルトも対応が遅れた。
雷と炎と氷、そして刃が交錯し、爆発するような光が塔の最上階を照らした。
──激しい風圧の中。
俺たちは、四人揃って武器を構えたまま、バルトを見据える。
煙の向こうで、バルトが肩で息をしていた。
「・・・ふぅ。大した骨のある奴らだ・・・」
バルトは、ここからが本番だとばかりに大剣を構え直した。
「・・・けど、こっちもまだまだだ!」
俺は全員に目配せした。
誰もが、燃えるような闘志を目に宿していた。




