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黒界異人伝・異世界英雄譚 -ようこそ、造られた異世界へ-  作者: 明鏡止水
8章・エルメルの戦火

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第537話 戦線突破と奪われしもの

 俺たちは一斉に前へと押し出した。

通路を埋めていた敵の前衛が、次々と斬り伏せられ、崩れていく。


「・・・下がれ、下がれっ!」


敵の一人が叫び、後方へ退こうとした。

そこへ龍神が雷光を纏った一撃を叩き込み、逃げかけた敵をまとめて吹き飛ばした。


「消えなさい!」


 はなが剣で 斬りかかり、雷を纏った剣閃がもう一人の敵の胴を斬り裂く。

電撃に痙攣した男が、声もなく崩れ落ちた。


「今だ!」


ルファリアが叫び、俺たちは通路を蹴って前進する。


 氷魔法で牽制する亜李華、短剣で隙を突くリャド、後方から援護するミアと沙妃──それぞれが自分の役割を全うし、戦線は着実に押し上げられていった。


煌汰が氷壁を解除し、振り返って短く告げる。


「後ろは異常なしだ。全員、前に集中できそうだな」


「そうか。なら──」


 俺は剣を強く握りしめ、目の前の敵へと飛び込んだ。

振るわれた風刃を紙一重でかわし、逆に喉元へ一閃。

血が飛び、敵が崩れる。


「もう、潮目は変わったんだよ」


ミアが冷静に呟き、舞うように回避した勢いのまま、敵を扇で打ち据える。

その男は、そのまま通路の床に沈んだ。


 敵は──明らかに怯み始めていた。

数で押せば勝てる、という慢心があったのかもしれないが、それは今や砕かれた。

奴らは皆、動きが散漫になっている。


「このまま、押し通すぞ!」


龍神の声に、俺たちは一斉に気合を合わせた。


 刃が閃き、雷が迸り、氷が通路を凍らせ、

そのすべてが、確実に敵を押し返していった。


やがて──


「ひ、引け!下がれぇ!」


 ついに敵が完全に崩れ、散り散りに通路の奥へと逃げ出した。

だが──俺たちは追わなかった。


「追わないの?」


はなが肩で息をしながら尋ねる。


「ああ。これ以上は深入りしない。態勢を整えて、まずはここを制圧する。その方がいいだろうからな」


ルファリアが刀を納め、俺も静かに頷いた。


敵の波を、完全に押し返した。

この戦い、ひとまずは俺たちの勝ちだ。



 気配が完全に遠ざかったことを確認し、俺たちは慎重に態勢を整えた。

煌汰が氷の結界を一度解除し、傷を負った者がいないか確認する。


「よし・・・改めて確認するが、全員無事だよな」


ルファリアが頷き、先頭に立つ。


「行こう。このまま、塔の上階へ乗り込もう」




 俺たちは武器を構えたまま、通路の奥へと進んだ。

先ほどまで敵がいた通路も、今は静まり返っている。


しばらく上階への階段を登ると──


「・・・ここか」


 ルファリアが足を止めた。

石造りの重厚な扉が、階段の先にそびえている。

扉には、内側に一輪の黒薔薇がある三日月の紋章があった。


「これ、“月葬の夜会”の紋章だな。前、猶が見せてくれたのと同じやつだ」


「ってことは、この先には奴らの親玉・・・ここのボスがいるのかしら」


「かもしれん。・・・開けるぞ」


 ルファリアがゆっくりと扉を押し開く。

軋む音と共に現れたのは──


「・・・!」


部屋いっぱいに積み上げられた物資や財宝、武具の山。

宝石、金貨、絹布、宝飾品、武具──それだけじゃない。

捕らえられていたのか、縄で縛られた難民たちの姿も見える。


「ここは・・・もしかして、宝物庫か?」


「そうっぽいな。おおかた、その辺の人たちから奪ったものをここに集めていたんだろう」


 俺が呟くと、リャドが眉をひそめた。


「・・・まさに、奴らのお宝だな」


部屋の奥では、縄をかけられた数人の難民が、怯えた目でこちらを見ていた。


「安心しろ。もう大丈夫だ」


 ルファリアが優しく声をかけると、難民たちが安堵したように頷いた。

彼女の正体が異形であることには、気づいていないようだ。


「ミア、沙妃、亜李華。村人たちの拘束を解いてくれ」


「わかった」


ミアたちが駆け寄り、縄を解き始める。


──俺は、積まれた財宝の山に目を向けた。

その中には、明らかに一般庶民のものではないような、家紋が入った品も混ざっている。


「・・・こいつら、一体どれだけの場所から盗みを働いていたんだ」


「この辺り一帯だろう。今でも、この辺りで密かに生活している者たちはいる。そのような者たちから、奪ってきたのだろう」


「そうっぽいね。・・・」


 ミアは、家紋の入った銀のコップを見つめた。


「知ってるのか?」


「いや・・・けど、こういう家紋が入ってるやつは基本、元々王城の貴族の持ち物だったものだよ。この辺の地域は、昔首都と関わりの深い町があったらしいから」


「え、この辺に・・・町があったのか?」


 とても信じられない。

今は、この辺りにはマーディアたちの集落以外に建物などはほとんどなく、人が暮らしていた気配は皆無であるというのに。


「らしいよ。まあ、私が生まれるより前に、なくなっちゃったそうだけど・・・」


確かにそうだ、とリャドが言った。


「──ペルティ。かつては、王家とも深い縁のある町だった。今は、跡形もないがな。この“灰結びの塔”だって、元々は町の施設の一つで、天体観測に使われていたんだ」


 そうだったのか。だからこそ、町は跡形もなく破壊し尽くされたのかもしれない。

今のこの辺りには、本当に何もない・・・異形であるマーディアの集落と、夜会と盗賊の住処になっているこの塔を除いては。


「ところで、この宝物・・・全部盗まれたものなんだよね。できたら、元の持ち主に返してあげたいな」


「同意する。後で、確認する必要があるな」


 ルファリアが低く言い、手を添えた剣を静かに下ろす。


「だが・・・まずは、この塔を完全に制圧しよう。話は、それからだ」


俺たちは、塔の中枢に到達した実感を噛みしめながら──更なる戦いへと備え、次なる部屋の中へと足を踏み入れた。



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