第537話 戦線突破と奪われしもの
俺たちは一斉に前へと押し出した。
通路を埋めていた敵の前衛が、次々と斬り伏せられ、崩れていく。
「・・・下がれ、下がれっ!」
敵の一人が叫び、後方へ退こうとした。
そこへ龍神が雷光を纏った一撃を叩き込み、逃げかけた敵をまとめて吹き飛ばした。
「消えなさい!」
はなが剣で 斬りかかり、雷を纏った剣閃がもう一人の敵の胴を斬り裂く。
電撃に痙攣した男が、声もなく崩れ落ちた。
「今だ!」
ルファリアが叫び、俺たちは通路を蹴って前進する。
氷魔法で牽制する亜李華、短剣で隙を突くリャド、後方から援護するミアと沙妃──それぞれが自分の役割を全うし、戦線は着実に押し上げられていった。
煌汰が氷壁を解除し、振り返って短く告げる。
「後ろは異常なしだ。全員、前に集中できそうだな」
「そうか。なら──」
俺は剣を強く握りしめ、目の前の敵へと飛び込んだ。
振るわれた風刃を紙一重でかわし、逆に喉元へ一閃。
血が飛び、敵が崩れる。
「もう、潮目は変わったんだよ」
ミアが冷静に呟き、舞うように回避した勢いのまま、敵を扇で打ち据える。
その男は、そのまま通路の床に沈んだ。
敵は──明らかに怯み始めていた。
数で押せば勝てる、という慢心があったのかもしれないが、それは今や砕かれた。
奴らは皆、動きが散漫になっている。
「このまま、押し通すぞ!」
龍神の声に、俺たちは一斉に気合を合わせた。
刃が閃き、雷が迸り、氷が通路を凍らせ、
そのすべてが、確実に敵を押し返していった。
やがて──
「ひ、引け!下がれぇ!」
ついに敵が完全に崩れ、散り散りに通路の奥へと逃げ出した。
だが──俺たちは追わなかった。
「追わないの?」
はなが肩で息をしながら尋ねる。
「ああ。これ以上は深入りしない。態勢を整えて、まずはここを制圧する。その方がいいだろうからな」
ルファリアが刀を納め、俺も静かに頷いた。
敵の波を、完全に押し返した。
この戦い、ひとまずは俺たちの勝ちだ。
気配が完全に遠ざかったことを確認し、俺たちは慎重に態勢を整えた。
煌汰が氷の結界を一度解除し、傷を負った者がいないか確認する。
「よし・・・改めて確認するが、全員無事だよな」
ルファリアが頷き、先頭に立つ。
「行こう。このまま、塔の上階へ乗り込もう」
俺たちは武器を構えたまま、通路の奥へと進んだ。
先ほどまで敵がいた通路も、今は静まり返っている。
しばらく上階への階段を登ると──
「・・・ここか」
ルファリアが足を止めた。
石造りの重厚な扉が、階段の先にそびえている。
扉には、内側に一輪の黒薔薇がある三日月の紋章があった。
「これ、“月葬の夜会”の紋章だな。前、猶が見せてくれたのと同じやつだ」
「ってことは、この先には奴らの親玉・・・ここのボスがいるのかしら」
「かもしれん。・・・開けるぞ」
ルファリアがゆっくりと扉を押し開く。
軋む音と共に現れたのは──
「・・・!」
部屋いっぱいに積み上げられた物資や財宝、武具の山。
宝石、金貨、絹布、宝飾品、武具──それだけじゃない。
捕らえられていたのか、縄で縛られた難民たちの姿も見える。
「ここは・・・もしかして、宝物庫か?」
「そうっぽいな。おおかた、その辺の人たちから奪ったものをここに集めていたんだろう」
俺が呟くと、リャドが眉をひそめた。
「・・・まさに、奴らのお宝だな」
部屋の奥では、縄をかけられた数人の難民が、怯えた目でこちらを見ていた。
「安心しろ。もう大丈夫だ」
ルファリアが優しく声をかけると、難民たちが安堵したように頷いた。
彼女の正体が異形であることには、気づいていないようだ。
「ミア、沙妃、亜李華。村人たちの拘束を解いてくれ」
「わかった」
ミアたちが駆け寄り、縄を解き始める。
──俺は、積まれた財宝の山に目を向けた。
その中には、明らかに一般庶民のものではないような、家紋が入った品も混ざっている。
「・・・こいつら、一体どれだけの場所から盗みを働いていたんだ」
「この辺り一帯だろう。今でも、この辺りで密かに生活している者たちはいる。そのような者たちから、奪ってきたのだろう」
「そうっぽいね。・・・」
ミアは、家紋の入った銀のコップを見つめた。
「知ってるのか?」
「いや・・・けど、こういう家紋が入ってるやつは基本、元々王城の貴族の持ち物だったものだよ。この辺の地域は、昔首都と関わりの深い町があったらしいから」
「え、この辺に・・・町があったのか?」
とても信じられない。
今は、この辺りにはマーディアたちの集落以外に建物などはほとんどなく、人が暮らしていた気配は皆無であるというのに。
「らしいよ。まあ、私が生まれるより前に、なくなっちゃったそうだけど・・・」
確かにそうだ、とリャドが言った。
「──ペルティ。かつては、王家とも深い縁のある町だった。今は、跡形もないがな。この“灰結びの塔”だって、元々は町の施設の一つで、天体観測に使われていたんだ」
そうだったのか。だからこそ、町は跡形もなく破壊し尽くされたのかもしれない。
今のこの辺りには、本当に何もない・・・異形であるマーディアの集落と、夜会と盗賊の住処になっているこの塔を除いては。
「ところで、この宝物・・・全部盗まれたものなんだよね。できたら、元の持ち主に返してあげたいな」
「同意する。後で、確認する必要があるな」
ルファリアが低く言い、手を添えた剣を静かに下ろす。
「だが・・・まずは、この塔を完全に制圧しよう。話は、それからだ」
俺たちは、塔の中枢に到達した実感を噛みしめながら──更なる戦いへと備え、次なる部屋の中へと足を踏み入れた。




