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黒界異人伝・異世界英雄譚 -ようこそ、造られた異世界へ-  作者: 明鏡止水
8章・エルメルの戦火

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第534話 灰塔突入

 “灰結びの塔”。

風化した灰色の石が積み上げられたその古塔は、地を這うような霧に包まれていた。

塔門は半ば崩れかけていたが、侵入するには十分な隙間が空いている。


「・・・じゃあ、行くか」


 俺は斧を剣に変形させ、握りしめた。

隣に立つルファリアは無言でうなずき、刀を構える。

そのまま、俺たちは塔の闇へと足を踏み入れた。


内部はひんやりと湿気を帯び、埃と血の臭いが混じったような空気が漂っている。

狭い石造りの通路を進んでいくと──


「来たな」


 不意に、通路の先から複数の人影が姿を現した。

黒い装束に身を包み、顔半分を覆面で隠した者たち。その背後には、ラフトレンジャーの一員であろう、粗野な盗賊たちが並んでいた。


「“夜会”の下っ端だな」


ルファリアが冷ややかに言い放つと、暗殺者の一人が短剣を抜いた。


「ここを通りたいなら──その命を置いていけ。あと、女はその体もだ」


 その言葉とともに、奴らは一斉に襲いかかってくる。


「はっ、言われるまでもないぜ!


「その通りよ・・・相手してやるわ!」


龍神が駆け、雷光を纏った刀を振るう。

飛び込んできた盗賊の斧が雷に焼かれ、男が苦悶の声を上げて倒れる。


 その横では沙妃がすかさず動き、短剣で敵の脇腹を穿つ。

相手が反撃しようと振るった斧は、煌汰の張った氷壁に防がれた。


「動き・・・雑だね」


煌汰はにやりと笑い、氷壁の隙間から剣で敵の足を払う。

後方からは亜李華が術を放ち、氷刃が複数の敵を貫く。だが、ラフトレンジャーの何人かは水の術で壁を展開し、それを防いだ。


「ちょいと厄介だな・・・数も多い」


 俺も剣を振るい、襲いかかってきた盗賊の胸を一閃した。

重い一撃で叩き斬る感触──斧のままなら、通らなかったろう。


「・・・おれもやるか」


リャドが、懐から抜き出した短剣を構えて突撃する。

その身軽な動きで、二人の暗殺者を切り裂いた。

爪を使っていない彼の姿は、なんか新鮮だ。


 一方、はなは雷を帯びた剣を構えて跳躍し、敵の術師を斬り伏せる。

扇を手にしたミアは、流れるような舞いで敵の攻撃を受け流し、カウンターの一撃で投げ飛ばしていった。


こいつら、単体ではさほど強くはない。

しかし数が多く、通路も狭い。下手に広がれば、各個撃破されかねない。


「気を抜くな、こいつらはかなりの手慣れだ」


 ルファリアが低く告げ、敵の剣を刀で弾き返す。

そのまま流れるように突き刺し、一人目を倒すと、素早く二人目に斬りかかった。


戦いは、徐々に塔の奥へ進みながら激しさを増していく。

壁や天井の隙間からも、次々と夜会の暗殺者と盗賊たちが現れる。


 敵は、ただの雑魚ではない──

国を乗っ取った暗殺組織の名に相応しく、統率と動きは訓練されたものだった。


「・・・数で押すつもりかしら」


沙妃が、短剣を持ちながら周囲を見渡す。


「なんでもいいさ。まとめて蹴散らすまでだからな」


 龍神が雷を纏った刃を掲げ、雷鳴とともに敵陣へ斬り込んでいく。


雷と氷、刀剣と魔法。

この塔で通じる手札を駆使し、俺たちは徐々に敵の包囲を打ち破っていった。


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