第534話 灰塔突入
“灰結びの塔”。
風化した灰色の石が積み上げられたその古塔は、地を這うような霧に包まれていた。
塔門は半ば崩れかけていたが、侵入するには十分な隙間が空いている。
「・・・じゃあ、行くか」
俺は斧を剣に変形させ、握りしめた。
隣に立つルファリアは無言でうなずき、刀を構える。
そのまま、俺たちは塔の闇へと足を踏み入れた。
内部はひんやりと湿気を帯び、埃と血の臭いが混じったような空気が漂っている。
狭い石造りの通路を進んでいくと──
「来たな」
不意に、通路の先から複数の人影が姿を現した。
黒い装束に身を包み、顔半分を覆面で隠した者たち。その背後には、ラフトレンジャーの一員であろう、粗野な盗賊たちが並んでいた。
「“夜会”の下っ端だな」
ルファリアが冷ややかに言い放つと、暗殺者の一人が短剣を抜いた。
「ここを通りたいなら──その命を置いていけ。あと、女はその体もだ」
その言葉とともに、奴らは一斉に襲いかかってくる。
「はっ、言われるまでもないぜ!
「その通りよ・・・相手してやるわ!」
龍神が駆け、雷光を纏った刀を振るう。
飛び込んできた盗賊の斧が雷に焼かれ、男が苦悶の声を上げて倒れる。
その横では沙妃がすかさず動き、短剣で敵の脇腹を穿つ。
相手が反撃しようと振るった斧は、煌汰の張った氷壁に防がれた。
「動き・・・雑だね」
煌汰はにやりと笑い、氷壁の隙間から剣で敵の足を払う。
後方からは亜李華が術を放ち、氷刃が複数の敵を貫く。だが、ラフトレンジャーの何人かは水の術で壁を展開し、それを防いだ。
「ちょいと厄介だな・・・数も多い」
俺も剣を振るい、襲いかかってきた盗賊の胸を一閃した。
重い一撃で叩き斬る感触──斧のままなら、通らなかったろう。
「・・・おれもやるか」
リャドが、懐から抜き出した短剣を構えて突撃する。
その身軽な動きで、二人の暗殺者を切り裂いた。
爪を使っていない彼の姿は、なんか新鮮だ。
一方、はなは雷を帯びた剣を構えて跳躍し、敵の術師を斬り伏せる。
扇を手にしたミアは、流れるような舞いで敵の攻撃を受け流し、カウンターの一撃で投げ飛ばしていった。
こいつら、単体ではさほど強くはない。
しかし数が多く、通路も狭い。下手に広がれば、各個撃破されかねない。
「気を抜くな、こいつらはかなりの手慣れだ」
ルファリアが低く告げ、敵の剣を刀で弾き返す。
そのまま流れるように突き刺し、一人目を倒すと、素早く二人目に斬りかかった。
戦いは、徐々に塔の奥へ進みながら激しさを増していく。
壁や天井の隙間からも、次々と夜会の暗殺者と盗賊たちが現れる。
敵は、ただの雑魚ではない──
国を乗っ取った暗殺組織の名に相応しく、統率と動きは訓練されたものだった。
「・・・数で押すつもりかしら」
沙妃が、短剣を持ちながら周囲を見渡す。
「なんでもいいさ。まとめて蹴散らすまでだからな」
龍神が雷を纏った刃を掲げ、雷鳴とともに敵陣へ斬り込んでいく。
雷と氷、刀剣と魔法。
この塔で通じる手札を駆使し、俺たちは徐々に敵の包囲を打ち破っていった。




