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黒界異人伝・異世界英雄譚 -ようこそ、造られた異世界へ-  作者: 明鏡止水
8章・エルメルの戦火

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第533話 灰の塔と黒の影

 エルメルの荒野を、東へと進む。


道という道はすでに消え、かつては農地だったらしき乾いた大地を踏みしめながら、俺たちは寡黙に歩みを進めていた。


空は灰に近く、吹きすさぶ風はどこか、砂混じりの匂いを運んでくる。


「あの木、幹が割れてる・・・斬られた跡だな」


 リャドが立ち止まり、朽ちた樹木を見上げる。


幹に残された傷は、鋭利な刃物によるもの。何者かが通った証だ。


「夜会か、ラフトレンジャーの連中だろう。塔へのルートを“掃除”したのかもしれない」


 ルファリアが鋭く答える。

その声には、わずかに警戒が滲んでいた。


彼女が言うには、ラフトレンジャー及び夜会の者たちはこの辺り一帯を巡回しており、拠点から半日ほど進んだ辺りから、特に出没頻度が高くなるという。


その予告は、そう間を置かずして現実となる。


 乾いた地面を踏む足音。低い掛け声。──物陰から現れたのは、暗い色をした軽装の服に身を包んだ十数人の影。

それぞれが短剣や剣を持っており、いかにも盗賊という感じだ。


「話に聞いてた通りの顔ぶれだな。美人な女も三人いるし・・・こりゃ、たっぷり稼げそうだ」


 どうやら、ルファリアたちにさっそく目をつけたようだ。

こいつらがどこまでの実力を持ってるのか、知らないが・・・いかにも盗賊、山賊って感じだ。


「ラフトレンジャー。名前は聞いてたが、中身はただの盗賊か?」


龍神の問いに、先頭の男が鼻で笑う。


「言ってくれるな。けどな、おれたちは“夜会”から直接任されてんだよ。おまえらを通すな、ってな」



 その時、ルファリアが一歩前に出た。


鞘から抜かれた“月下美人”が、白銀の光を反射する。気配が、空気ごと斬り裂くように鋭くなる。


「任務で動いているのなら・・・問答無用、ということだな」


「へえ、お前さん刀使いか・・・おまえら、構えろ!」


 敵の叫びとともに、乱戦が始まった。


先陣を切ったのはリャドと沙妃だ。

どちらも短剣を構え、一気に敵の懐へと飛び込む。


沙妃の動きは以前より格段に鋭くなっていた。殺意というか、覚悟の色が目に宿っている。


 リャドは敵の剣を弾き、刃を交わしつつ膝裏を斬りつける。

その隣では、沙妃がすれ違いざまに一閃を繰り出す。肉を裂く音とともに、敵が崩れ落ちる。


さらにその後方では、輝く氷の壁が展開される。


「いっけえーっ!!」


 煌汰が氷の防壁を張り、後方の弓持ちの矢を全て防ぐ。

その直後、後方から亜李華が魔力を叩き込むように氷魔法を放つと、氷柱が雨のように敵の頭上に降り注いだ。


「・・・いい感じに足止めできてるな!」


「ああ・・・今だ!」


 ルファリアが地を蹴って飛び出し、刀を振るう。

その一撃は、月光のごとく静かに──そして容赦なく振り下ろされた。


一人、また一人とラフトレンジャーの影が地に伏していく。


「ぐっ・・・うぅっ・・・!」


 数名の敵が、煙幕を焚いて撤退を図ろうとする。


「あっと、そうはいかないわよ!」


はなが素早く駆け出し、雷を帯びた剣を振るう。刃は一直線に飛び、敵の足を貫いた。


 そこに、ミアが舞うように跳躍して飛び込む。扇を翻しながら敵の攻撃を受け流し、カウンターで吹き飛ばす。


彼女が打ち漏らした敵は俺が相手したのだが、最初の奴には斧の一撃を容易く躱された。

次の奴には命中したが、なぜか血すら飛び散らない。


「へっ、そんなん効かねぇなぁ!」


 それで思い出した・・・こいつらは、刀剣か魔法以外の攻撃は通らないんだった。

命中はしてもダメージが通らない、ということは、攻撃を無効化するという感じなのだろうか。


しかも、こいつらはそれを自覚している。

ということは、やはり何か特別な力を受けている・・・ということだろうか?

ナイアも、そんな感じのことを言っていたが。


「・・・塔につくまで、毎回こんななのか?気が抜けないな」


 龍神が片手に持った刀を肩に担ぎながら、最後の敵を見下ろす。


「“夜会からの任務”って言ってたな。やっぱりラフトレンジャーも、本格的に夜会の手駒になってるのか・・・」


「数が少なかったのが幸いだったな」


 ルファリアが“月下美人”を静かに納める。 だが、その表情は緩んでいない。これが「前哨戦」にすぎないことを理解していたからだ。


塔は、まだ先だ。


灰色の空の下、薄く広がる靄の向こうに──“灰結びの塔”の尖塔が、わずかにその影を覗かせていた。




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