第47話 魔導書
結局、魔導書を試しに使ってみることになった。
部屋の一角を片付け、そこそこの広さの空間を作り出してくれたので、そこで試用する。
正直使えるか不安だが、ひとまず試してみる。
魔導書を肩の高さで持ち、手放すと、そのまま宙に浮いた。
そしてその状態で、手を伸ばして詠唱する。
「[ゼノフレイム]」
すると、空中にやたらでかい火球が現れた。
「うおっ…熱っ!」
火球は3メートルほど離れているが、それでも強烈な熱が伝わってくる。
そんな火球を地面に落とすと、火は床一面に広がり、あたりの床は炎の海と化した。
一瞬焦ったが、よく見ると周りのものは何一つ燃えていない。
というか、床も一瞬火に包まれただけで、数秒で火が消えていた。
「え…?あれ…?」
困惑していると、司書が言ってきた。
「うちの床や壁には、防火の魔法がかけられていますので…燃えてしまうことはありません」
「なんだ、そうなのか…ならよかった」
「それにしても、あなたは実に幸運なお方だ。専属魔導書に記された魔法はどれも強力なものばかり。その上、火の専属魔法は貴重です。扱える者は、そういません」
「そうなのか…?」
そう言ったのは煌汰だった。
「確かに、言われてみればあまり見かけませんね。そうだ、姜芽様。せっかくですから、普通の魔導書も使ってみませんか?」
「普通の…そうだな、やってみるか」
俺は魔導書はたった今使ったのが初めてだ。
しかし、他にも使えるものがあるなら使えるようになっておきたい。
「おや、もしかしてこの方は魔導書を使った事がないのですか?」
「はい。ですので、今回使ってみてはいかがかと」
「なるほど。では、少々お待ちを」
司書は5冊の魔導書を持ってきた。
「結構あるんだな」
「うちには、魔法初心者の方向けの魔導書もありましてね。いくつか、選んでみました。
さあ、姜芽さん。まずはどれか、好きなものを一つ取ってみてください」
「わかった…」
とりあえず、適当に取った。
それは縁が銀色の、表紙が青色の魔導書。
「…あれ」
さっきのは手に取って使おうと思っただけで、唱えるべき言葉が浮かんできたのだが、今度は浮かんでこない。
「どうされました?」
「いや、唱える言葉が出てこなくてな」
「なるほど…ちょっとその魔導書を見せてください」
言われるがまま魔導書を見せると、司書はなにやら頷いた。
「ふむ…これは[ハイドル]、水の魔法ですね。どうやら、あなたは水属性には適性がおありでないようです」
「適性…?」
「そうです。魔法を扱う者は誰でも、適性という相性のよい属性があり、その属性であれば真価を発揮できるのです。そして、手にした魔導書の属性に適性がない場合、唱えるべき詠唱が自然と浮かんでこないのです」
「へえ…じゃ、残りの魔導書もとりあえず手にしてみれば、適性がわかりそうだな」
青色の魔導書を置き、次は表紙が水色の魔導書を手に取った。
しかし、何も浮かんでこない。
「…ダメだな」
次は緑の魔導書。
これも、やはり手応えナシだった。
「氷と風は合わないようですね。残りの2冊で、合う属性があればよいのですが」
残りは2冊。
表紙が茶色のものと、白いもの。
「どっちにするか…」
少し考えた挙げ句、茶色のほうを手に取った。
「…!」
その瞬間、短い言葉が頭に浮かんできた。
「[ランド]…」
司書は、柔らかに微笑んだ。
「おお…どうやら当たったようですな。それは地属性の魔導書です。あなたは、地属性には適性がおありのようです」
「そうか。…よし」
テーブルに置き、最後の魔導書を取る。
すると、またしても自然と言葉が浮かんできた。
「[フラッシュ]…」
「…お見事です。それは光の魔導書、光魔法も扱えるようですね」
「光…ってことは、キョウラと同じか。あれ、火と電と闇はないの?」
「火は確かめる必要はありません。専属魔導書は、記された魔法の属性に適性がある者しか選びませんから。…電と闇に関しては、申し訳ありませんが、ここには魔導書がありません。ご自身で店売りのものを買って、試してみてください」
「わかった。適性がわかっただけでも感謝するぜ。まず、仕事に戻ろう」
そして、俺達はかっきり三時間で本の整理を終わらせた。
帰りに、賃金と一緒に一冊の本を貰った。
魔導書かな、と思ったが違うようだった。
表紙を開いてみると、何やら異様に細かい文章が書かれていた。
「うっわ、なんだこりゃ…」
思わず声を上げると、煌汰が食いついてきた。
「どうしたの?…あれ、それ魔法の参考書じゃん」
「参考書?」
「そう。魔法を扱う上での注意書きとか、魔力を扱うコツとかが書いてある本。たぶん魔法初心者だって知って、タダでくれたんだよ」
「あ、そういう感じか?…じゃなんだ、これ全部読まなきゃないのか?」
「全部…は必要ないような気もするけど、読んどいた方が良いのは確かだね。ま、適当に時間見つけて読み進めるといいさ」
「わ、わかった…」
軽い感じで言ってきたが、ゆうに500ページはある。
こんな長編小説みたいな本、読んだことない。
そう思いながらも、部屋に戻って机の上で本を広げた。
『はじめに
本書は、全ての魔法使用者が魔法を扱う上で必要な最低限の知識や技量を身につけるための参考となる事を目的とした書物である。本書の内容は、生来の魔法種族ではない者が読む事も考慮された内容であり、…』
…ダメだ、最初のページの冒頭部分だけでも頭が痛くなる。
俺は普段、こういう本はあまり読まない。
まあ、馬車で移動している間はどうせやることもないのだし、暇つぶしの意味でも読むことになるだろうが。
帰りに町外れの広場へ向かった。
別に俺が行きたいと思ったわけではない。キョウラが行きたいと言ったのだ。
何かあるのか?と思ったが、そこに着いて察した。
そこには、どことなく苺にも似た雰囲気の女の像が置かれていたのだ。
「キョウラ、これって…」
「はい。これは八勇者の1人、司祭カトリア・シセリニカ様の像。カトリア様は最高位の光と白の魔法、そして雨を呼ぶ棍を用いたと言われています。そしてこのカトリア様こそ、かつてこの国を作ったお方です」
「八勇者像…ってわけか」
セドラルにあった、勇人アモールの像と同じ感じか。だとすれば、司祭の仲間…すなわち修道士系種族しか恩恵を受けられないことになるが、ここにはキョウラしかいない…まあ、いいのだが。
「…」
キョウラは余計なことは何も言わず、お参りを始めた。
傍から見れば、ただ石像にお祈りしてるようにしか見えないが…俺の時と同じく、本人は加護を受けられているのだろう。
あとで調べたことだが、カトリアの像には『慈愛』の加護があるらしい。
それは単に情けをかけるというだけではなく、その者にとって何が最善か、何が幸福か。そして、それを踏まえて自身はどうするべきか、といったことを常に考え、行動するということらしい。
なんか、いかにも聖女様といった感じである。
もしキョウラが、本物の「聖女様」になったら…。
いかん、変な想像はやめておこう。
キョウラは今のままでもかわいいと思うが、俺はそんな変な方面に思考を持っていくクセはない。




