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黒界異人伝・異世界英雄譚 -ようこそ、造られた異世界へ-  作者: 明鏡止水
2章・サンライト訪問

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第46話 出会い

あれから数時間、俺はキョウラと煌汰と共に町の図書館にいた。

ひとまず何か仕事を探そうという事になり、見つけた作業の一つがこの図書館の蔵書の整理の手伝いだったのである。

ちなみに他の連中はならず者の掃討、異形の討伐、町の掃除といった作業に従事している。


この図書館は結構人が来るらしく、わりと本の並びがめちゃくちゃになるらしい。

そこで、俺達がその手伝いをしている、という訳だ。

作業に取り掛かる前に、司書らしき男から作業代は一人あたり6000テルンだと言われた。

高いのか安いのかわからないが、とにかくするしかあるまい。



俺は、一冊の本を手にした。

この本に限ったことではないが、妙に分厚く重たい。

辞典…とまでは行かないまでも、図鑑くらいの厚さはある。

この本の表紙には「アルカレリムの書」と書かれている。えらく簡単な題名だ。

…っと、そんな事を考えてる暇はない。

これを、本来あるべき所へ戻さねば。


本来あるべき所、というのは簡単に見分けがつく。

この図書館にある全ての本は背表紙に番号が書かれた色付きのシールが貼られており、そのシールの色と同じ色の本棚にある。

そして、1つあたり4段ある本棚の一番上、左端から番号順に本を詰めていく。

昔学校の図書委員でやった事まんまだし、何より本には魔法がかかっていて、裏表紙を3回こすると浮き上がり、元々あるべき本棚の前まで飛んでいく。

そして適切なスペースを用意すると、自分からそこに収まってくれる。

おかげでストレスがなく、本当に気楽な作業だ。


「なあ…これ、本当に俺らが手伝う必要あったのかな?」


「本の数が多いですからね。それにこの図書館の司書さんは、一人しかいないようですし」

キョウラはそういいながら、一気に三冊の本を宙に浮かべ、適切な場所にしまった。


「司書…ねえ。そう言えば、キョウラって本読むのか?」


「もちろんです。修道院にいた時の修行は、魔導書や聖書物を読むのがメインでしたから」


「聖書物…ってなんだ?」


「修道士の教えや戒律を記した書物や、修道士目線の物語である神聖神話について記された書物です。聖書と呼ばれる事もあります」


「聖書…」

それだけ聞くと、何かの宗教の教典のようだ。

しかし修道士は異人の種族であるので、人間界の聖書とはまた違うのだろう。

「まあ、私は修道院に入って間もない頃は、普通の絵本や童話なども読んでいましたけどね。修道士は人間に近い種族なので、行動や思考の特性は人間と似ている所が少なくないんですよ」


「へえ…あれ、俺は…防人は、人間に近いんだっけ?」


「はい。防人も、人間に近い異人です。なので、特性的には人間と同じないし似ている所がいくつかあると聞きます」


「ふーん…」

俺は、手にした本の裏表紙をこすって本を浮かべながら言った。

「人間に近い種族…か。なって良かったんだか、悪かったんだか」



その後、作業はおおむねいい感じで進んだ。

しかし、厄介な事もある。

この図書館にはいくつか意思のある本があり、言葉こそ喋らないものの、触ろうとするとピョンと飛んで逃げたり、逆に手元にふわふわと飛んできたりする。

さらには、開いた状態で羽ばたくように動いて飛び回るものや、一見大人しいが手を伸ばすと噛みついてくるものもある。

まるっきりハリ◯タの世界である。

…あれ、なんかちょっと違ったような?


「こんのっ…大人しくしろっ…!」

今もまた、煌汰が一冊の本と格闘している。

半開きの状態でバタバタと暴れまわる本を、必死で押さえつけようともがいている。

煌汰の気持ちはわかるが、このままでは本が壊れてしまいそうに見える。

「おいおい…もう少し優しく押さえろよ…」


「そんなこと…言ったって…こいつ…!」

煌汰は全力で本を掴んでいるが、本はめちゃくちゃなくらい暴れまわる。

そうこうしているうちに、本はとうとう煌汰の手を離れ、飛び立ってしまった。


「あっ!」

そしてそれは、なんと俺の方に向かってきた。

ぶつかる…と思ったのだが、なんと本は俺の前にふわりと着地した。

そして、それっきり大人しくなった。

「えっ…?」

みんなが声を上げた。


俺は導かれるように本の表紙に手をかけた。

「お、おい!気をつけろよ!」

煌汰の声とは裏腹に、本は大人しくしたままだ。

そして俺は、その表紙に刻まれたタイトルを読み上げる。

「[専属魔導書・ゼノフレイム]…」

すると、そのページはひとりでに開かれ、それを見たキョウラが驚きの声を上げた。

「え…?まさか、これは魔導書…!?すごいです、姜芽様!まさか、こんな形で適正魔導書を見つけるなんて!」


「えっ…?」

キョウラだけでなく、煌汰も喜んでいた。

「おお…!良かったな!すごいな、こんなことあるんだな!」


「えっ…えっ…?」

歓喜する2人とは対照的に、俺は首を捻る事しか出来なかった。




その後、作業は一旦中断して司書の所へ向かった…というか、連れて行かれた。

司書が口を開く前に、キョウラが喚いた。

「司書さん、聞いて下さい!この方が、意思を持つ魔導書に選ばれたんです!」


すると、司書は目を見開いた。

「しかも、専属!専属の魔導書にだよ!」

煌汰が喚くと、司書はさらに驚いたようだった。

「なんと…!では、この方は魔導の才があるのですか…!」


「たぶんな!…いや、すごいよな、ホント!」


「はい…!これは、久しぶりに見ました…!」


「ちょちょちょ、ちょっと待て。一体どういうことなんだ?」

大興奮するみんなの中で、唯一状況を理解出来ない俺は説明を願った。





冷静に話を聞いた所、どうやらこういうことであるらしかった。

この世界の魔導書とは、一冊につき一種類の魔法が込められた書物。

魔導書には込められた魔法の強さに応じた階級があり、各階級の魔導書ごとに存在する規定の魔力量を上回らない者は、該当の魔導書を扱えない。

だが、逆に魔力以外の制限は基本的に存在しないため、魔力の制限さえクリアしてしまえば、基本的に誰でも扱うことができる。


しかし、そんな魔導書の中にも例外がある。それが、ごく稀に存在する「専属魔導書」と呼ばれる魔導書。

これは作られた時より意思があり、持ち手を自ら選ぶ。そして、選んだ持ち手以外が扱ったり読んだりしようとすると、激しく抵抗する。

そのため、使うと何が起こるのか、中には何が記されているのか、魔導書に選ばれた者と魔導書を作り出した者以外にはわからない。

だが、一つ間違いないのは、専属魔導書に封じられた魔法は、並の魔導書よりもずっと強力なものである、ということだ。




「…」

俺は、黙って魔導書を見つめた。

それは、今もただの本のように大人しくしている。


専属の魔導書…か。


…あれ、てことはひょっとして、俺の専用魔法ってことか?

これで、俺も魔法をまともに使えるようになるのか?

しかも、普通の魔導書より強力なやつを?


そう思った次の瞬間、俺は自分でもうるさく感じるほどの歓声を上げていた。









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