第496話 危険な存在、現る
かくして俺たちは、銀山の封鎖を城に戻って報告することにした。
フランネが連れてきた兵士たちは、結界を監視するために残るとのことだったが、フランネ自身は俺たちを途中まで見送ってくれるという。
「なんやかんや言っても、あんたたちが心配だからね」とのことだが、正直言って、皮肉なしで嬉しい。
敵にすると恐ろしい奴が、味方になると頼もしい・・・というのは定番だが、やはり安心感がすごい。
「まあでも、あとは王城まで帰るだけだしな」
猶がそう言うと、フランネは「油断するなな」と釘を刺した。
「まだ危険なエリアにいるってことを、忘れちゃいけないよ・・・あと1人くらいは、危ない奴が出てくると思ってた方がいい」
「うっ・・・それもそうだな」
森沿いの街道を進むうちに、西の空が朱く染まりはじめた。
・・・なんだろう、胸の奥がざわつく。
理由はわからない。ただ、肌が妙に粟立って、呼吸が浅くなる。
静かすぎる森。落ち葉一つが風に舞うだけで、剣の柄を握る手に力が入った。
「なあ、フランネさん。・・・さっきから、なんか変じゃないか?」
俺がそう言うと、フランネも立ち止まり、周囲に目を細めた。
「・・・そうだね。空気が妙に張り詰めてる。魔力の構造体が・・・異常に密度の高い、しかもかなり危険なやつだ」
言葉が終わらぬうちに、前方の林の奥で何かが“ひらく”音がした。
風じゃない。魔力の幕が引き裂かれるような――そんな感じだ。
そして、そこから現れたのは。
妙に体の引き締まった、銀の鎧を着込んだ女。
瞳は銀紫、髪は淡い銀髪のストレートロングで、背に白く光る剣を背負っていた。
・・・ただ立っているだけで、周囲の木々が静かに、けれど確実に死んでいく。まるで“清浄”の概念そのものが歩いているみたいだった。
「これより先は、通行を禁ずる。背くならば、理由を問う前に排除する」
声音は澄んでいた。怒りも、激情も、何もない。
ただそこにあるのは、“秩序のための行動”。それだけだった。
「・・・!」
猶が、小さく震えた。
「なんだよ・・・こいつもなんか、見覚えあるぞ・・・!」
声は呟きのようだったが、明らかに動揺している。
「猶、知ってんのか?」
猶は答えない。ただ眉を寄せて、真っ直ぐその男の姿を見つめていた。
隣でフランネが、低く名前を呟いた。
「・・・ヒナ・タグラス」
その名を聞いた瞬間、空気が一段と冷たくなった気がした。
「誰だ、それ・・・」
「封印された異人の一人だ。あまりにも強く、そして危険なために、世界への参加を許されなかった存在だ・・・ !」
すると、猶が納得したように言った。
「まあ、こりゃ確かに危ねえよな。だってこいつ、どう見てもアレだろ・・・!」
いまいち言葉の意味が追いつかない俺の前で、その女――ヒナ・タグラスが、一歩前へ出る。
「――断罪を執行する」
その瞬間、空が白く閃いた。
何も見えなかった。ただ、次の瞬間には俺の斧が弾かれて、腕ごと吹き飛ぶかと思った。
「なっ・・・!?見えない・・・いや、“感じられない”・・・!」
構える暇もなく、斧で防いだが、肩口が熱を持って焼けるように痛む。
かすっただけでこれか。
「みんな、気をつけろ!こいつは、今までの奴らの中でも危険な存在だ!まともにやり合えば・・・」
フランネが叫ぶ。
だが、ヒナ・タグラスはまるで戦闘ですらないというように、淡々と歩を進めてくる。
「異端と交わり、秩序を汚す者。全て、斬り捨てるべき存在」
言葉の意味も、価値観も、こっちの常識じゃ理解できない。
けど――直感が告げていた。
こいつは、“本物”だ。
言葉なんて何一つ通じなくても、あの剣筋と、立っているだけで世界を捻じ曲げる気配だけで、わかる。
――ヤバい。マジでヤバいやつが来た。
まあ、今更かもだが。
俺は斧を剣に変形させ、構え直した。
こいつが何者かなんて、どうでもいい。
今はただ、生き延びる。それだけだ。
しばらく戦ったが、こいつは強い。
外に出ていたメンバーとフランネの六人がかりで戦ったが、少しずつ押されている。
「・・・っ。やっぱりこいつ、強い!」
フランネはそう呟いた後、叫んだ。
「自衛を・・・自分の身を守ることを優先しろ!下手すれば、首が飛ぶよ!」
それは薄々感じていた。
なので、自分だけを包む結界を張り、さらに術で防御力を高めた。
そんな矢先、目の前で猶が胸を切り裂かれて倒れた。
さらにフランネもまた、腹を貫かれた。
「まずい・・・!」
次はこっちか、と思ったその瞬間。
「・・・えっ?」
気づいた時には、奴の剣が俺の首を撥ねていた。




