第492話 眠りし異人の地へ
フランネは、はなの視線に気づいたようだった。
「ん?なんだい?」
「いや・・・ただ、あなたのそのピアスに、見覚えがあるような気がしてね」
はなは、フランネが耳につけている黒いピアスに注目したようだ。
「・・・ああ、これかい?これは昔、セドラルの町で買ったものだ。見た目は地味だけど、封印耐性をつけてくれるすぐれものさ」
封印とは、魔法や術を使えなくするものだったはず。それに耐性があるということは、戦闘においてフランネが魔法を使えなくされることはないのだろう。
「やっぱりそうね。わたし、セドラルの出身だから、見たことがあって」
「ありゃ、そうなのか?」
「ええ。何なら、昔は使ってたわ。今は、自分で封印耐性のアクセを作ったから、使ってないけどね」
はなは、服につけていた砂時計型の小さなバッジを外し、フランネに見せた。
フランネはそれを手に取り、じっと見つめた。
「これは・・・ずいぶんと作り込まれてるね。小さいのに、強い魔力が宿ってる。時間をかけて、丁寧に作ったみたいだね?」
「ええ。三日かけて作ったわ」
「へえ・・・そりゃすごい」
感心しつつ、フランネはアクセをはなに返した。
「殺人者に、こんなものを作れる奴がいたとはね。・・・いや、こんな言い方は失礼かな」
フランネは、はなに軽く謝った。
こいつはたぶん、彼女たちの正体を知っているのだろう。
「話は変わるが、あんたたち・・・もうちょっとだけ、ここにいるといい。きっと、何かが起きるよ」
何か、と言われても・・・という感じだったが、地方英雄にそう言われるとそうかもしれない、従った方が良さそうだと思ってしまった。
それから10分もしないうちに、カウンターにいた女が部屋に入ってきた。
「フランネさん、仕事が入ってきました」
それは王様からの命で、リギア地域に赴き、誰も入れないよう封鎖せよ、とのことだった。
リギア地域とは、リギー銀山のある地域。つまり、早くも王様が俺たちの頼みを引き受けてくれたのだ。
「リギー銀山だね?わかった。適当な連中を連れていく」
適当でいいのか?と思ったが、こいつは地方英雄。何かの間違いで生まれた、化け物レベルで強い異人だ。部下が多少弱くても、そこまで問題はないだろう。
「あんたたちも、もちろん来るだろうね?」
なんか迫られているようだが、拒否する理由もない。
「ああ、もちろんだ」
フランネを先頭に、リギー銀山へ向かう。
詰め所から連れてこられた兵士は10人。全員、ここまで徒歩で移動してきている。
銀山の周辺一帯を封鎖するにはちょっと少ない人数な気もするが、大丈夫なのだろうか。
ちなみに、俺たちの方の同行メンバーはほぼそのままだ。
違う点として、ナイアを新たに加えている。つまりリアンナ、猶、ナイア、はな、メニィ、そして俺の六人パーティである。
ナイアは、「地方英雄と一緒に出歩くなんてね・・・」と言っていたが、それは俺だって同じ気持ちだ。
今まで、敵としてしか出てこなかった存在と同行する。ありきたりかもしれないが、地味に熱い展開だ。
このまま共闘もできたら、より熱いのだが。
「フランネさん!もうすぐ、リギー銀山に着きます!」
兵士の一人が、声を張り上げた。
「そうだな。・・・みんな、気を引き締めろ!この辺りの土地には、良くないものがいるからね!」
そこで、メニィが恐る恐る尋ねた。
「あの・・・フランネ、さんは、この辺りに何がいるのかご存知なんですか?」
「残念だが、詳しいことは知らない。ただ、とにかくヤバい奴が地下に眠ってるってことは聞いてる。あんたたちが銀山で遭遇したって仮面の男も、その類いだろうさ」
「ヤバいって・・・どういう意味ですか?」
すると、フランネは目を鋭く光らせた。
「そりゃ、アレさ・・・いろんな理由で、この世界に出てきちゃいけない、出てくることを許されない異人が、眠ってるんだよ」
「・・・!」
メニィは震え上がった。地方英雄と呼ばれる異人にそう言われては、説得力が違う。
ボルドー卿も十分ヤバい奴だったが、もしかしたらそれ以上のが出てくるかもしれない。そう思った。




