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黒界異人伝・異世界英雄譚 -ようこそ、造られた異世界へ-  作者: 明鏡止水
間章・封じられし者たち

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第488話 いわくつきの土地

 ペリルへ戻ると、キョウラは吏廻琉と共にいち早く拠点へと戻っていった。

まあ、調べたいことがあると言っていたし。


で、俺たちはフェルマーに銀山のふもとで採取した川の水を渡しつつ、向こうでの出来事を報告した。


「・・・つまり、川に毒を流していたのはその異人だったと」


「まあ、そういうことになるだろうな」


 フェルマーは、腕を組んで唸った。


「ふーむ・・・話を聞いた限り、奇妙な異人ですね。正体はまだしも、目的がよくわからない」


確かに、あいつの目的は結局何だったのか、わからないままだ。

でも、少なくとも鉱山の人たちに「実験」を施し、化け物に変えていたのは事実だろう。


「おそらく、あいつはあそこで封印されてたのを、鉱山の採掘中に偶然発掘されたんだと思うんだが・・・そもそもなんであんなところに封印されてたんだ」


「それも謎ですね・・・ただあの辺りは、昔から何かと不穏な噂のある土地です。調べてみれば、何かわかるかもしれません」



 その時、キョウラ母娘が戻ってきた。

調べ物は終わったのかと尋ねると、二人は頷いた。

キョウラは、俺に一冊の本を開いて見せてきた。


「ここ、読んでください」


言われるがまま、そこに書かれていたことを読んだ。


「発生の経緯に関わらず、異人は生まれる際に審査を受ける。大半の異人はそれを通過するが、まれに重大な危険性を孕んでいるとして止められる者がいる。彼らはこの世界で生きることを許されず、陽の光の当たらない場所に封印され、その存在を無かったことにされる」


 そこまで読むと、キョウラは次のページを読むよう言ってきた。


「彼らは”封じられし者”と呼ばれる。他者の目につかない、孤独で寂しい場所に、永遠に封印されるからだ。そしてそのような場所の周りには、総じて強力な結界が張られる。年月が経てば、結界は弱まるかもしれないが、それでも壊れることはないだろう・・・外部からの干渉がない限り」


そこで、俺は何となく理解した。


「・・・なるほどな。つまりあの銀山は、そういう危ない奴を封印してる場所の一つだった。そしてそこに封印されてたのが、あのボルドー卿だったってわけだ」


「ええ・・・そういうことよ」


 吏廻琉が、こちらを見てきた。


「あいにく、その本には彼らが封印されている場所は記されていない・・・というか、拠点にはなかったわ。でも少なくとも、『リギア地方』と呼ばれるあの辺りの土地に、何か邪悪なものが眠っている、ということを記した書物は、いくつか見つけられたわ」


彼女が渡してきた書物は、いずれもひとりでに開いて該当のページを見せつけてきた。


それらには、リギアの地下には古の魔物が封印されてるだとか、この地はかつて、神との争いに敗れた悪魔が隠れ住んでいた土地で、今もその末裔が地下深くで眠ってるだとか、いかにも伝説チックなことが書いてあった。


「あの辺りは、古くから土地そのものがいわくつきの場所として知られていたのよ。銀山が発見されて、富を求める者たちが近郷に移り住み、坑道を掘ったけど・・・それまでは、ろくに人も住んでいない土地だったようだしね」


「・・・そんな所に採掘場なんか作るなよ」


 猶の言葉はもっともだが、それまで人の手が入っていない場所に突如、銀が取れる山が見つかった、とあればそりゃ掘りたくなるだろうし、みんな集まってくるだろう。

いわくつきの土地だといっても、そんなの気にしない奴だっているだろうし。


「とにかく、あそこのことは王城に報告して、近隣一帯ごと封鎖してもらうのが得策でしょうね。そして、もう近づく者が現れないようにしてもらいましょう」


「そうだな。・・・もう毒を流す奴もいないし、また変なもの掘り出されても困るからな」


 うーん、とフェルマーが唸った。

「銀は、僕らにとって重要な素材なんだけどな・・・」


あんた、まさか・・・と釘を刺すように言ったが、彼は「なんてね」と笑った。


「いくらなんでも、そんなヤバいものが封印されてる場所を掘り返すなんてことしませんよ。それに銀なら、市場に行けば普通に売ってますし」


 すると、猶が何やら微かに笑った。

猶にとっては、わざわざ店に銀やら鉄やらを買いに行くなんて、という感じなのだろうか。


「あんた、ジルドックに移り住んでもいいんじゃないか?海もあるし、鉱石なんざいくらでも取れる。実際、そういう錬金術とかの研究をするために移り住んだ奴もいっぱいいるしな」


それはいいね、とフェルマーは笑った。


「でも、僕には無理ですよ。鉱石だけあればいいってものじゃないし、何より僕は、あんな過酷な環境の国で生きていける自信はありません」


「そうか?あそこの環境は慣れれば割といけるし、楽しいんだけどな」


確かにそうかもしれないが、それは猶・・・というか殺人者にとっての話だろう。


ジルドックでは自給自足、あるいは略奪が当たり前。しかもほぼ一年中冬で、恐ろしく寒い。

そんな国でやっていける奴は、殺人者以外にはあまりいるまい。




 帰りに、猶はさっきの会話で思い出したのか、ジルドックが恋しいなと言い出した。

ラーディーはロロッカ同様、温暖な環境の国なので、雪を見ることがないのもなんか寂しいな、とも言っていた。


ジルドックか。正直俺としては、居住環境はめちゃくちゃ悪い、とは思わなかった。

略奪が当たり前、ってのはちょっとアレだが、自給自足の生活ってのは悪くはない。


 それに、あの国で出会った集落の殺人者たちは、言ってしまえば普通の村人で、他の国の人たちと何ら変わりなかった。

はなのように、まっとうな仕事をしている奴だっていた・・・まあ、アレはむしろレアケースらしいが。



 そんなことを思ってたら、拠点についた。

このあと、フェルマーが採取してきた水の調査をするらしいので、その結果だけ聞いて、ペリルを旅立とうと思う。


次の目的地については未定だが、ひとまず王城へ戻ろうと思う。王に、銀山の周辺地域を封鎖してもらわなければならないからだ。


ついでに、伝説の短剣ことストムエリナも王に見せようと思う。

もともと、あれを復元できるという話を出してきたのは王様だ。復元に成功したと聞いたら、さぞや喜んでくれるだろう。



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