第473話 盗賊との接戦
こちらの士気は大きく高まっている。だが、ニーレたちはまだ終わっていなかった。
「・・・あんた達!こっちも、見せてやろうじゃないか!」
ニーレの声と同時に、両脇の取り巻きがそれぞれ奥義を放った。
「『風よ逆巻け!』[蒼翔嵐舞]!」
「『水は斬り裂く!』[濤刃連舞]!」
二人の術が同時に発動し、風と水が交差する暴風の刃となって襲いかかる。
それはまるで、嵐と波が融合したような大技だった。結界を展開したが、それだけでは突破されそうだ。
「亜李華、援護を!」
「はいっ!」
亜李華はすぐに氷結の結界を三重に張り巡らせ、ガードを補強してくれた。
また、同時にそのうちの一枚を前方に放出し、衝突を緩和させた。
爆発のような轟音が響く。
氷の結界は砕けるが、仲間たちは無傷のまま踏みとどまっている。
「ありがとう、助かった!」
イルが叫び、今度は一気に反撃に転じる。 水を纏った剣を高く掲げ、その力を解放する。
「奥義 [水嶺穿剣]!」
イルの剣から水が奔り、前衛を貫く。
風の術を使っていた方の取り巻きが吹き飛ばされたところへ、すかさず俺が動く。
斧を剣に変形させ、疾風のように駆け抜ける。 そして、ニーレの背後に回り込んで斬りかかった。
「剣技 [閃空断光]!」
今しがた閃いた技だが、ニーレの結界を斬り裂き、腕をも斬ることができた。
ニーレの目が見開かれる。だが、それでも完全に仕留めきれない。
その時、リアンナの声が上空から響いた。
「もう一発、いっとく?」
また姿を消していたリアンナが、空中で再び姿を現す。 彼女の周囲には無数の火の蝶が舞っていた。
「『灰に還れ』――奥義 [紅蝶煉舞]!」
火の蝶たちが影たちに群がり、次々と爆発を起こす。 火花が弾け、爆風が辺りを包む。
まるで舞踏会のような、美しくも破滅的な攻撃だ。
連続で爆破を食らったニーレは、苛立ちと焦燥が混じった声を上げた。
そして、これ以やり合うと危険だと判断したのか、少しずつ後退し始めた。
「なんだ、退く気か?」
龍神が問いかけると、ニーレはにやりと笑った。
「まさか。あたしは最後まで舞うよ。ここがあたしの舞台だからね!」
奴の体から、水と風の魔力が渦を巻いて立ち上る。 同時に、取り巻きの二人も術を構え直す。
これが最後の一撃になるかもしれない。
何となく、そう感じた。
俺たちは一斉に構えた。
仲間たちは全員無事で、誰一人倒れていない。 戦局は、こちらに有利のままであるはずだ。
その直後、ニーレの強烈な魔法が飛んできた。
ものすごい音が響き、爆発の如く水飛沫が舞い、暴風が吹き荒れた。
だが、全員無事だった。
亜李華の氷が、暴風と水刃の威力を大きく削いでくれたのだ。
「今のうちだ!」
俺は斧を構えて飛び出し、すかさず「オルビットラーク」を撃ち込む。
複数の敵を巻き込める、無属性の物理攻撃だ。
この技は、手から離してプロペラのように斧を回転させて攻撃するのだが、それが今回は3つになっていた。前は2つだったのに。
その分、武器の扱いが上手くなったということだろう。
この技は熟練技と呼ばれる技の1つであり、武器の熟練度に応じて強化される。
そしてその強化内容が、回転させる斧の数が増えるというものなのである。
「くっ・・・!」
二人の取り巻きが吹き飛ばされ、ニーレも腕で顔を庇う。
その腕も斬り裂き、辺りに血が迸った。
同時に龍神が飛び上がり、刀に雷を纏う。
「[雷月落とし]」
急降下しつつ刀を叩きつけ、電撃を走らせる。
火と雷の連携攻撃は、明らかに効果的だった。
ニーレたちの結界が裂け、攻撃の余波に飲み込まれていく。
「・・・まだ、終わらないよ!」
ニーレが叫ぶ。
しかし、その声には余裕はもうなかった。
取り巻きの2人を立たせようとするが、もはや2人は動かない。
そこへ、亜李華の氷とリアンナの弓が飛んでいく。
「・・・!!」
腹に矢を受け、頭に氷塊を叩きつけられたニーレは、血を流してふらついた。
そして足をがたつかせ、ついに倒れた。




