第472話 水の影の異空間
再びニーレたちの攻撃が飛んでくる。
今度は、より派手な演出の魔法だった。
「大丈夫です、なるべく時間を稼げれば――」
亜李華はその言葉を口にしつつ、再び氷の結界を展開し、ニーレの攻撃を受け止める。
「・・・あんた、よっぽど死にたいみたいだね!」
ニーレが手元の短剣を鋭く振りかざす。
その瞬間、再び水の魔法が一斉に放たれ、空気が重くなる。
だが、亜李華は気にすることなく、結界を強化し、さらに一歩踏み込んで前に出る。
氷の力が漣のように波打ち、短剣の攻撃をかわしながらも、その勢いでニーレの近くへ接近していく。
「奥義 [氷河の夢]!」
亜李華の詠唱と共に、巨大な氷がニーレたちを閉ざし、弾け飛ぶ。
「くっ…!」
ニーレは唸り声を上げつつも、すぐにその氷を力で打ち破り、呆れたように吐き捨てる。
「まったく・・・面倒な女だね」
それでも、亜李華は少しの間隙を与えても、自分を守りながら着実に前進していた。
その時、俺は再び斧を振り上げた。
地面を蹴ってニーレへと向かい、背後に回り込み、降り注ぐ光と共に斧を振り下ろす。
「[セレスティアル・クラッシュ]!」
斧は見事ニーレの背を捉え、衝撃波が周囲に広がる。水の魔法が一瞬にして弾かれ、破裂音が響き渡る。
ニーレは吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。だが、その表情にはまだ余裕が見える。
「ふふ・・・これで勝てるとでも思った?」
ニーレは顔に血をにじませながらも、すぐに立ち上がり、さらに強力な魔法を準備していた。
その時、リトが背後から声を上げる。
「私が、あいつを!」
リトは一瞬の隙を突き、影の自分を倒した後、すぐにそのままニーレに向かって駆ける。
「自分に勝ったんだ、次は・・・!」
リトは再び薙刀を握り直し、すべてをかけて一閃を放つ。
水流を纏い、まるで水流を切り裂く刃のように放たれるその技は、かつての自分との戦いを乗り越えた証だ。
「奥義 [水流一閃・牙]!」
それは、まさに雷鳴のように響く一撃だった。
だが、ニーレも最後の力を振り絞って魔法の障壁を展開し、リトの一撃を受け止める。
「さて・・・それじゃ、そろそろあたしも見せてやろうかね!」
ニーレは不敵な笑みを浮かべながら、魔力を収束させる。
その力は、リトの魔力を超えていた。
「・・・これは、ちょいとまずいかもしれん!一旦、下がれ!」
龍神の声が響き渡る。
その言葉を聞き、俺たちは一斉に後退を始めた。
そして全員が数歩下がった時・・・ニーレは奥義を繰り出した。
「『終焉を夢見ろ』!奥義 [水牢幻廊]!」
ニーレの足元から、紫色の異空間が広がり、部屋全体を包む。
そして奴ら3人の姿は消え、代わりに無数のみんなの影・・・コピーが現れる。
「またコピーか!けどまあ・・・すぐに片付けてやろう!」
龍神が雷の術を唱え、影たちを切り裂く。
しかし、今度のはそう簡単には倒れなかった。
「ありゃ・・・!?」
彼が驚いている間に、背後からイルの影が切りかかった。
背中から血を迸らせながらも、龍神は振り向きつつ反撃した。
物理攻撃が効かないということはないが、明らかにさっきより耐久が上がっている。
そして、亜李華がさらに厄介なことを言った。
「あの女・・・外で回復してます!私たちを閉じ込めて、その間に・・・!」
つまりは、早いとここいつらを全滅させて、この異空間を脱出しなければならない。
だが、そう簡単にいくだろうか。
と思っていたら、亜李華が再び奥義の「氷河の夢」を放った。
瞬殺とまでは行かないが、それでも大半の影にダメージを与えられた。
「仕方ないね・・・私もやるよ!」
リアンナが短剣を構え、呟いた。
「『燃え上がれ』。奥義 [焔葬乱影]」
宣言の直後、リアンナは姿を消した。
その数秒後、敵の影たちは突如切り裂かれたような傷を負った。
そして、何かの気配を感じる・・・と思ったら、上空にリアンナが姿を現した。
リアンナの背後には、燃え盛る弓が浮かぶ。
彼女が手を振るうと、そこから無数の炎の矢が敵に向かって降り注いだ。
あたりは赤黒い炎に包まれた。
火と闇の属性を持った、二属性技のようだ。
これにより、影たちは一気に片付いた。
そして異空間は消え去り、もとの遺跡内部に俺たちは戻った。
「げっ・・・もう出てきたのかい!」
ニーレが驚きの声を上げた。
奴自身と、その取り巻き二人の体はさっきより傷が減っており、亜李華の言っていた通り回復していたようだ。
「回復していたようだな・・・だが、私たちは負けない!」
イルが剣を構え、斬撃を放つ。
ニーレはそれを結界で防ぎつつ、特別な作り笑いをした。
「そうかい・・・ならお互い様だ。あたしらだって、ここで負けやしないよ!」
両脇の二人が術を唱え、イルを吹き飛ばす。
どうやら、風属性も使えるようだ。
だが、それなら亜李華をぶつけるまで。
風には氷がよく効く。そして、水には雷が効く。
こちらにそれらの属性を扱える強力な仲間がいる以上、勝利は遠くないはずだ。




