表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒界異人伝・異世界英雄譚 -ようこそ、造られた異世界へ-  作者: 明鏡止水
7章・魔法の国ラーディー

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

502/695

第471話 幻水の影

 鏡のような水面に浮かび上がったのは、俺たちではなかった。

リトの姿をした、異様な影だった。


「――っ、私・・・?」


リトが思わず声を漏らした瞬間、それから飛び出したのは、薙刀を構えた“もう一人のリト”だった。

ただし目が虚ろに光っており、口元には笑みとも狂気ともつかない歪みがある。


 ニーレは笑うと、指を鳴らした。

影のリトが、鋭い突きを放ってくる。リトは咄嗟に身を引き、辛うじてかわした。


「[水幻]・・・水に相手の姿を写して、力も、技も、記憶も再現したもの。心だけが抜け落ちた、戦うためだけの器。あたしの異能さ」


なんと、こいつは異能持ちなようだ。

それで、こちらのコピーを作り出してきた、というわけか。


「そうか・・・だったら本物が叩き壊す!」


龍神が駆け出し、稲妻のような斬撃を放つ。

だが、ニーレのもう一人の部下が杖を振ると、雷の軌跡を吸収するように水の障壁が立ちふさがった。


「・・・っ、吸われた?」


「そっちもなかなかやるみたいだね。けど、こっちも準備は万端ってわけさ」


 ニーレの指先が淡く光る。次の瞬間、水面が四方に飛び散り、部屋の床や天井に散在した。

そこから他のメンバーの影も現れ、さらに敵が増えた。


「・・・皆さん!それぞれ、影の相手を!」


亜李華が光の結界を展開し、味方を守る。

イルは剣を抜き、リトの背後に並び立つ。


「リト、私が援護する。こいつの癖は、おまえが一番知ってるはずだ」


「ええ。・・・自分と戦うのって、正直すごく嫌だけど」


 リトの声は震えていたが、その瞳には覚悟があった。

彼女は薙刀を構え、影の自分へと向き直った。


水しぶきの中、リトが踏み出す。

影の薙刀と、本物の薙刀が激突し、水飛沫が火花のように散った。

水属性同士のぶつかり合いだ。だが、リトは負けないだろう。


 俺は斧を構え、敵のもう一人の部下――横で、魔力を練っている女へと駆けた。


「ニーレ、だったな。賢者の核が欲しいそうだが・・・そうはいかないぜ」


たった今閃いた、新たな技を出す。

空から降り注ぐ光と共に振り下ろす、光属性の斧技だ。


「[セレスティアル・クラッシュ]!」


技は見事女に命中し、血飛沫を撒き散らすと共に魔力を練るのを中断させた。

そしてさらなる追撃を仕掛けようとしたが、もう1人の取り巻きに魔弾を食らった。


 リトの力でマシになっているとは言え、やはり水攻撃は痛い。

派手に吹き飛ばされ、立ち上がろうとしたところに、ニーレの魔法が飛んできた。


でっかい水球を飛ばしてくるというものだったが、食らうわけにいかないのでジャンプして回避した。

かなりギリギリだったが。


 俺が着地した瞬間、叩きつけられた水球が破裂し、水煙が激しく巻き上がった。

視界が白く曇る。その中、風を裂くような音が耳を打つ。


「――っ!」


とっさに斧を横薙ぎに振ると、迫っていた魔法の刃が弾かれ、周囲の水面を割った。

助かった。だが、連中の動きは速い。俺が一発喰らってる隙に、奴らはもう戦いを加速させていた。


 リトは、なおも“自分”と斬り結んでいる。

影のリトは、精密で無駄のない動きを見せていた。攻撃の手が一切緩まない。機械のような連撃。容赦も、躊躇もない。


「こんな・・・自分が、こんなに厄介なんて・・・!」


リトが息を切らしながら薙刀を受け止める。

水しぶきがあがり、髪も頬も濡れている。


「けど、それでも!」


 叫びとともにリトの薙刀が弧を描いた。 攻撃を受けながら、彼女は逆に相手の懐へ踏み込む。影の腕がわずかに遅れる。


「私は、私を超える!」


水が渦を巻き、リトの身体から解き放たれた魔力が刃に集中する。

そして、リトが放ったのは・・・水流を纏わせた薙刀の突き。


「奥義 [水流一閃・牙]!」


 影の胸元を突き破る。

刃が水を割り、そのまま影を蒸発させたかのように霧散させる。


「・・・やった、か」


リトが肩で息をしながら、薙刀を下ろす。

その手は震えていたが、確かな勝利の手応えがあった。


 だが――


「ふふふ・・・いいねぇ、そういう顔だよ」


ニーレが愉快そうに笑う。 彼女の指がまたもや光を帯びた。


「影はただの器、一人や二人潰されたってどうってことないさ。何度だって再現できるんだから!」


水面が波紋を描き、再び影たちが現れる。

しかも、さっきよりも数が増えている。今度は、全員が揃っていた。


「・・・!これじゃキリがない!」


 斧を構え直し、歯を食いしばる。

同じ姿の敵が何度も出てくるのは、精神を削る。だが――。


「一度倒してるんだ、何度だって叩き潰せる!」


ただ、斧に意識を集中する。

光が集まり、まるで空から雷光が降りてくるかのような輝きが走った。


「[セレスティアル・クラッシュ]!」


 光が閃き、斧を振り下ろす。

それは一撃で敵の一人を叩き潰し、衝撃波がさらに周囲を巻き込んだ。


「俺たちは――本物だ!」


叫びながら立ち上がる。 次の瞬間、背後から魔弾が飛び、肩を撃ち抜かれる。だが、倒れはしない。痛みすら、今は燃料だ。


 そこに続けて、亜李華が奥義を放つ。

「氷河の夢」という詠唱と共に、大きな氷が現れて砕け散る。

それによって、ほとんどの水の影が消し飛んだ。


「もしかして、氷に弱いの・・・!?」


 亜李華が呟くと、ニーレから直々に短剣が彼女に向かって飛んできた。

上体を動かして躱すと、奴とその隣の二人は殺意満々の目で亜李華を見ていた。


どうやら正解なようだ。

それに水の使い手ということは、雷にも弱いはず。

そして、雷使いなら龍神がいる。


これは、勝利が見えてきたかもしれない。


「邪魔臭い女だね・・・まずは、あんたに死んでもらおうか!」


 ニーレは短剣を携え、亜李華に向かって距離を詰めてきた。

しかし氷の結界で攻撃を防がれ、棍でカウンターを食らって吹き飛ばされた。


「亜李華・・・!」


俺が亜李華と目を合わせると、彼女は力強く微笑んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ