第468話 フェルマーの依頼
葬儀の終わった後、フェルマーに尋ねた。
「それで、2つ目の頼みってのは何だ?」
「ああ、それはですね・・・あなたたちに、あるものを取ってきてほしいんです。このペリルから南東の海底に、『アズリールの工房』と呼ばれる遺跡があるんですが、僕はその最深部にある『賢者の核』、あとその周囲にいる異形から取れる『黒海の滴』というものが欲しいんです」
聞けば、こういうことだった。
かつて、ペリルの近くには小さな島があり、そこには錬金術の研究施設があった。
創設者は、アズリールという賢者。
彼が亡くなった後、施設は彼の遺した魔法によって島ごと海に沈んだ。
そしてそれから数百年が経った今、施設は強力な結界によって時間が止まったまま遺跡と化している──それは即ち、建物がかつてのきれいな状態のまま残っている。
「あの辺りには水属性の異形が多くいるので、僕では行けないんです。なので、この際あなたたちに頼もうかと・・・」
俺たちは、海に潜るということに関しては、海人のリトとイルがいるので問題ない。
そして水中の異形に関しても、概ね奴らの弱点である雷と氷を扱える仲間が複数人いるので強気に出られる。
何よりこの依頼をこなさなければ、彼から伝説の短剣を復活させる方法を聞き出せない。
従って、断る理由も必要もなかった。
拠点に戻り、メンバーを編成した。
今回は海中のダンジョンということで、話をしたらすぐにリト兄妹が食いついてきた。
そして、今回のメンバーは彼ら2人の他、龍神、亜李華、それと謎について来たがったリアンナとした。
フェルマーの言っていた遺跡は結構広いらしいが、6人もいれば探索は十分できるだろう。
出発の直前、リトとイルに力を使ってもらい、全員が水中でも行動ができるようにしてもらった。
万が一この2人がやられると、この効果も切れてしまうらしいので、最低限2人だけはやらないようにしたい。
ちなみに、リアンナはこんなことを言っていた。
「海に眠る遺跡か・・・ロマンはあるね。いろいろお宝もありそうだけど・・・賢者様の使ってたものなんじゃ、私らにはちょっとね」
まあ、言わんとしていることはわからなくもない。
賢者は魔法使いの上の種族で、より高位の魔法を扱うという。俺たちにそれがわかるか、と言われれば否であろう。
いざ海に入ると、妙な違和感を感じた。
少なくとも、以前リトたちと共に初めて海に入った時とは何かが違う。
その理由は、リトのセリフでわかった。
「この海には、魔力が満ちてる。とても強い魔力が・・・」
それはたぶん、賢者の遺跡が沈んでるからだろう、と龍神が言った。
「さっき聞いた限り、賢者の遺跡は今も結界が稼働してて、それで中はきれいなままらしい。その魔力が、あたりの海にも染み出してきてる・・・ってことなんじゃないか?」
「そう言えば、そんなこと言ってたね。そうかもしれない」
リトたちの力を得ていることもあり、皆の泳ぐ速度は実に早い。
確か、リトの泳ぐ速度は時速50キロだから、たとえ遺跡が50キロ離れていたとしても、1時間で着く。
もちろん、実際はそんなにかからないだろう。
どのくらい距離があるのかわからないが。
泳いでいる途中、ちょくちょく魚に襲われた。・・・いや、正確には魚系の異形か。
目のないウナギといった姿をした「カースイール」、岩のような外皮に覆われた体に、赤く光る目を持つサメ「テラノシャーク」といった異形たちだ。
前者は口から触手を出し、それを巻きつけて魔力を吸い取るということをしてくる。
後者はとにかく硬く、高速かつ高威力の突進を繰り出してくる。
カースイールは魔法全般に耐性があるようなので、俺の斧やリトの薙刀で切り払った。逆にテラノシャークは物理防御力が高いので、魔法攻撃で撃退する。
特に火属性に弱いようで、専属魔導書の「ゼノフレイム」は元より、魔弾の「フレイムラッド」でも瞬殺できた。
俺の魔弾は、全体では決して強くはないものであるのだが。
「ずいぶんとにぎやかだねえ」
リアンナが、皮肉っぽく言った。
「まだいい方ですよ。この先、遺跡に近づけば、もっと・・・」
イルがそんなことを言っているうちに、遺跡に到着した。




