第463話 過去の答え合わせ
ひとまず王の元へ向かった。
久しぶりに見る、立派な髭の銀髪の中年男の顔。
玉座の間に顔を出すと、マジな声で驚かれた・・・まあ、当然ではあるが。
「そなたらは・・・!どうやって、帰ってきたのだ!?」
「まあ、話すと長いんだけどな・・・」
過去の世界に飛ばされた後、何があったのかを話した。
そして、現代のラーディーの王・・・アルバレス王に、納得してもらった。
「ふむ、そういうことであったか・・・何はともあれ、申し訳なかった。魔法の失敗で、そなたたちを500年前に飛ばしてしまったのだ」
「別にいいです。帰って来られましたし」
キョウラにそう言われて、王はほっとしたようだった。
「しかし、過去の世界でそのようなことがあったとは。まして、記録に残っておらぬところで、そのような話があったとはな・・・」
王は感心しつつも、何やらメモを取っていた。
「ふむ、これまたいいネタになりそうだ。わしはそなたらには謝らねばならぬが、一方で感謝もせねばならん。かつてこの国を救ってくれたのは、他ならぬそなたたちであったのだからな」
ここで、ラウダスが王の行為に疑問を呈した。
「あの、王様。失礼ですが、メモを取っているのは何の理由が?」
「なに、大したことではない。そなたたちの話を聞いて、次に書く本の題材になりそうなネタをまとめておるだけだ。わしは魔法と文学の国、ラーディーの国王であるからな」
すると、ラウダスは何かに気づいたような顔をして、ある質問をした。
「ラーディーの国王は、代々作家をしておられるのですか?」
王は笑い、いかにもそうだと答えた。
なんでも、数代前の国王の時期から、そのようになったのだという。
「かつて、この国は単なる魔法の国であったのだがな。数百年前、当時の国王が物語を書き始めたのだ。そしてその時から、我が国の王は代々、文学の道に精通しておる」
それを聞いて、俺もピンときた。
数百年前の国王・・・つまりベルモンドは、あの後本当に小説を書き始めたのだ。
そしてそこから、今に至るまで続く文学王家の血筋が出来上がった・・・。
「その国王が書いた本は、現存しているのですか?」
「それがな、あいにく100年ばかり前にこの城が火事になった時、燃えてしまったのだ。故に、どのような物語であったのかはわからぬ。・・・実に、惜しいことをしたと思っておる。偉大なる先人の紡いだ物語、わしも読んでみたかったのだが・・・」
「・・・なるほど。もしかして、その王様に文章執筆の技術を指導した者がいたのでは」
「確かに、そのような者がおった。その者は後に大作を書き、著名な大作家となったのだ。今はもう、筆を取ることはないようだがな・・・」
──すべての答えがわかった。
異形になりかけた国王ベルモンド、有名作家を目指していた呪術師カール。
二人が、あの後どうなったのか。
そして、この国がなぜ、文学の国であるのか。
「あれ?王様、その本は・・・?」
亜李華が、王の玉座の片隅に置かれていた小説に目をつけた。
「む、これか?これはな・・・いや、もはや知らぬ者の方が少ないかな。『セキメイ戦記』、今から数百年に書かれた、魔法冒険小説の傑作だ。一部では、史実に記録されていないだけで、確かに存在した物語を元としているのではないかとも言われておるな」
それで、亜李華ははっとしたように言った。
「ひょっとして、その作者さんって・・・!」
「そなたも知っておろう?F.S.カールだ。闇の種族でありながら文学に取り憑かれ、かつてこの国で細々と暮らしていた・・・呪術師だ。あいにく、先日亡くなってしまったがな」
その時、俺は思い出した・・・初めてこの国の城下町に来たときに読んだ、あの本を。
その直後に出会った、本の作者だというあの老人を。
そういえば、あの老人は初めて会ったはずの俺たちを見て、「どこかで会ったか?」と言ってきた。
あの時は単なる気のせいだろうと思ったが、今にして思うと、つまり・・・。
「彼の者のような作家は、今後二度と現れぬかもしれん。それが、わしはたまらなく残念だ。このような名著を記せる者が、もうこの世界に現れることがないかもしれぬ・・・そう思うと、実に無念な気持ちになるのだ」
「・・・」
過去の世界で、カールは500年後は72歳だと言っていた。
異人とはいえ、もうすっかりじいさんだし、俺たちのことを覚えてなかったとしても仕方ない。
だが、少なくとも若い時の彼は、俺たちのことをしっかりと覚えていてくれただろう。
なぜなら、この本・・・「セキメイ戦記」は、俺たちの冒険譚を元にした本だからだ。
カールは最後に言っていた・・・「今度の戦いのことは、国の記録には残らないかもしれません。でも、私の作品として、きっと未来まで残りますよ!」と。
その言葉は、現実のものとなった。
彼とて、当時は本気でなかったのだろうが・・・結果として彼は名だたる作家として歴史に名を残すことになり、歴史に残らないはずの戦いはこうして、物語として残ることになった。
彼には、心の底から敬意と感謝を示したい。
アルバレス王の言葉を借りれば、偉大な先人だ。
わずかな間だけだが、共に戦った戦友であり・・・偉大な大作家だ。




