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黒界異人伝・異世界英雄譚 -ようこそ、造られた異世界へ-  作者: 明鏡止水
7章・魔法の国ラーディー

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第459話 暴走する魔王

 城内の兵士と研究者から、王は自室に戻ったようだと聞いた。

そして同時に、王の自室に行くなら、2階のベランダから飛んだほうが早く着くという情報も聞くことができた。


そうして飛んで行くと、すぐに王の姿を見つけることができた。

王は自室のベランダに立ち、両手を広げて笑っていた。


「は・・・はははははっ!ついに・・・ついに手に入れたぞ!万物を葬り去る、絶対の力を!これで・・・私は最強の存在!もう二度と、大切なものを失うこともない!憎きアンデッドどもも・・・根絶やしにしてやれる!これで・・・私はようやく、リンダに顔向けができる!あいつに・・・兄だと言える!」


 そう言えば、ベルモンド王が力に執着するようになったそもそものきっかけは、妹をアンデッドに殺されたから。肉親を救えなかった自分の非力さに、絶望したからだった。


しかし、そのために「禁呪の書」を使うなどというのは、間違っているだろう。

力を得たところで、妹が帰って来るわけではないし、何よりあれは異形・・・すなわち、魔物が作ったものだ。


そんなものを使って、ただで済むはずがない。

それは、ラウダスも思ったようだった。


「あの王は、魔王として・・・いや、人としてしてはならないことをしてしまった。いずれ、代償を払うことになるだろう・・・とても、とても重い代償をね」


 彼の言葉は、早くも的中したようだった。


「うっ・・・!?な、なんだ、これは・・・あ、ああぁぁぁっ!!」


ベルモンド王は胸を押さえ、苦しみだした。

その声はやがて、濁った不気味なものに変わっていき・・・。



「ああ・・・!」


 亜李華が悲鳴に近い声を上げる。

その目線の先にいたのは、辛うじて人型を守ってはいるものの、歪な形の角を持ち、禍々しい4枚の翼を持った、二足歩行の異形。


一瞬のうちに、王は異形へと変わり果ててしまったのだった。


 王は唸り声を上げ、飛び立って翼を広げた。

すると壮絶な爆発が起こり、あたりの建物を木っ端微塵に破壊した。


「ぐうぅ・・・なんだ、この・・・気持ちは・・・すべてを・・・すべてを、破壊したい・・・!」


その様子を見て、キョウラが杖を出した。


「・・・王様は、もうダメです!姜芽様、私たちで王を倒しましょう!」


彼女の声に反応したのか、王はこちらを見、炎を吐いてきた。

俺たちはそれを避け、王と同じベランダへと降り立った。



 ベランダに降り立った俺たちを、異形と化したベルモンド王が睨みつけた。

禍々しい四枚の翼を広げ、口からは炎が吹き出している。


「来るぞ!」


俺は盾を構え、炎を防ぐ用意をした。

だが次の瞬間、王が羽ばたいたと思ったら、あっという間に懐に入り込み、盾を手で弾き飛ばしてきた。


全身に重たい衝撃が走り、手が痺れた。


「姜芽さん!・・・なら、私がやります!」


 メニィが火と地の魔法を重ねた巨大な火球を放つ。

だが王は、翼を一振りしただけで熱風を生み出し、火球ごとメニィを吹き飛ばした。


「うっ・・・!そんな!」


メニィは倒れ込み、悔しそうに地面を叩いた。


「『切り裂く稲妻』!奥義 [雷裂]!」


セルクが雷の刃を放つ奥義を繰り出すが、それでも王の身体に傷ひとつ付けられなかった。


「なんて防御だ。僕の奥義が、まるっきり通らないなんて・・・!」


 焦る俺たちを嘲笑うかのように、王はまた翼を広げた。

そして、空気を震わせる一声を放った。


「破壊する・・・すべてを、破壊する・・・!」


全身から、黒い瘴気を爆発させる。

俺たちはその圧力に、ただ耐えるだけで精一杯だった。


「・・・[ヒール]!」


キョウラと亜李華が必死に回復魔法を唱え、みんなの命をつなぐ。

ヒールは初級の白魔法だが、回復量は魔力に依存しているため、強い魔力の持ち主が唱えれば、傷を全快させることもできるらしい。


「皆様、どうにか持ち堪えてください・・・!」


「私とキョウラさんで回復します!皆さんは、攻撃を!」


 2人は、自分からヒーラーになることを宣言してくれた。

しかし、正直二人では回復が追いつかない。王の攻撃、特に翼や腕による攻撃は、一撃食らえば致命傷になる。


何よりブレスが痛い。

こいつは炎のブレスと、闇のブレスの2種類を使ってくるのだが、前者はともかく後者は俺も普通に食らう。

しかも、結構な威力がある。


「『自滅する!・・・って、なわけないか!』」


 一瞬、意味不明なことを言ってる奴がいるなと思ったが、それはキッドだった。


彼は続けて「奥義 [自滅の虚言]!」と叫んだ。「戯言」の異能を用いた、れっきとした奥義だったようだ。


だが、王の身には何も起きなかった。

それでも諦めず、キッドは次の奥義を繰り出した。


「『世界一のビーム!』奥義 [世界最強・冷凍光線]!・・・ま、(嘘)だけどな!」


 弓を高く掲げ、キッドは誇らしげに叫ぶ。

同時に周囲に冷気が渦巻き、弓の弦が青白く輝く。

空に放った矢は膨大な冷気を纏い、氷の光線のように見える氷結の波を伴いながら降り注ぐ。


なんか強そうな技だが、氷の矢が拡散して飛ぶという技なので「光線」ではない。

(嘘)とつけていたので、納得しなくはないが。


 矢が突き刺さるとそこから冷気が炸裂し、凍結範囲が広がっていく。それで辺りの床や壁は凍りつき、王の体も凍った。

しかしそれはほんの一瞬で、たちまち凍結は解除され、闇ブレスの反撃を食らった。


「キッド!」


 すぐにキョウラたちが回復してくれたので、致命傷には至っていないようだった。


「大丈夫です。しかしこの王様、ちょっと理不尽すぎませんか・・・?」


確かに、火力といい耐性といい・・・この王は少々異常だ。

これが、「禁呪の書」の魔法によって得た力なのだろうか。


「やはり、異形の力を受けただけはあるな・・・」


「私たちでは、止められないのでしょうか・・・」


 セルクが唸り、メニィが歯噛みする。

ラウダスも、珍しく焦った声を上げた。


「まずいな・・・このままでは、いずれ全滅しかねない!姜芽さん、いったん退こう!」


その間にも、王の攻撃が俺たちを襲う。

地面が抉れ、炎と闇が周囲を包む。


「くっ・・・!」


 俺は盾を構えたまま、結界を展開した。

だが、それすら押し破られる勢いだった。


「すべてを・・・すべてを、滅ぼしてくれる・・・!」


ベルモンド王が、狂気に満ちた目でこちらに手を伸ばす。

それを見て直感した・・・このままでは、みんな殺される。


「全員、飛び降りろ!」


 俺は叫び、仲間たちをベランダの縁へと押しやった。


「っ・・・!わ、わかりました!」


「私も・・・!」


キョウラと亜李華が頷き、飛び降りる。

メニィ、セルク、キッド、ラウダスも後に続く。

最後に俺は、異形の王の姿を睨みつけながら、後ろ向きに飛び降りた。


 直後、ベランダごと爆発するような音が響いた。

王の咆哮が、耳をつんざいた。




「ふう・・・」


 2階のベランダに着地し、一呼吸整える。


「あの王様、強すぎる!直接攻撃もだけど、ブレスが・・・!」


「炎ブレスは、姜芽さんが防いでくれるけど・・・それでも、闇ブレスはどうしようもないな。僕の張れる結界では、あの威力のブレスは防ぎきれない・・・!」


 セルクとラウダスが頭を抱え、キョウラと亜李佳がみんなの回復をした後、ため息をつく。


みんなの言う通り、なかなかきつい戦況だ。だが、逃げるわけにはいかない。

俺たちは、絶対にあいつを止めなきゃいけない。

この国・・・いや、この大陸を守るため。


 そして、ベルモンド王自身のためにも。



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