第458話 禁呪の書
俺たちは急ぎ、王の部屋へと向かった。
しかし、その入り口には兵士が立っており、「王は、今留守にしている」と言われた。
「王は・・・どこに行ったんだ!?」
「・・・ん?お前たちは、例の旅の者か。王に、一体何の用だ?」
「あの王様はな、おっそろしい魔法を完成させようとしてるんだ!早く止めないと、大変なことになる!」
「?確かに王は、禁呪の書の解読は完了した、いにしえの魔法を蘇らせる、とか言ってたが・・・」
「それだよ!どこに行ったか、知らないか!?」
「うーむ・・・たぶん、魔法研究区じゃないか?魔法を扱うならな。あ、魔法研究区は1階の南東だ」
「1階の南東、だな?よし、急ごう!」
兵士に言われた通り城の1階に降り、南東へ向かって走った。
そしてそれらしきエリアに到着すると、何やら青いローブを来た人たちが集まっていた。
話を聞いた限り、つい先ほど、普段滅多にここにこないはずの王がやってきて、研究エリアのリーダーを連れてすごい勢いで地下室に走っていったという。
「地下室ですね・・・姜芽さん!我々も急ぎましょう!」
人だかりの奥にあった扉を開き、その先の階段を駆け下りた。
階段を下りた先で、すぐにすさまじい魔力を感じた。
それは闇の魔力だった・・・アンデッドや異形の比ではない、強烈な魔力だ。
「くっ・・・この魔力!まさか、すでに・・・!」
カールは前に飛び出し、結界を展開してみんなを庇いつつ、走り出した。
奥の部屋には、怪しげに光る箱が浮いていた。
なんとなく、その中にあの魔導書が入っているのだとわかった。
それを挟んだ向かいの位置に、王と研究者たちのリーダーらしき女が立っている。
「ベルモンド王!」
部屋に駆け込み、カールが叫ぶ。
それを見て、王は唸った。
「おお、お前は・・・確か、物書きの魔導士だったか。ちょうどいいところに来た。お前にも、この偉大なる魔法を見せてやろう」
「お、王様・・・!」
セルクの顔を見て、王はどこか誇らしげに笑った。
「君たちもいたのか。これは嬉しいな、かつて共に国を救った者たちと共に、この祝福すべき瞬間を見られるとは・・・」
王の横に立つ女が、手にした書物を見ながら言った。
「あとは、これを入れるだけです」
「よし。では、入れろ」
「はい・・・」
女は、怪しげな紫色の塊を箱に入れようとする・・・。
「やめろ!!」
カールの叫びも虚しく、塊の入れられた箱からは不気味な黒い蒸気が噴き上がった。
「ご苦労だった。下がれ」
女を下げさせた後、王は箱の前に立って叫んだ。
「封じられし魔導書よ!そなたの封印は、ここに私が解いた!今こそ、その力を私に見せよ!」
箱から噴き出す蒸気は一気に強くなった。
「おお・・・こ、これは・・・感じる、感じるぞ!我が身に・・・これ以上ない、究極の力が・・・!は、はははははっ・・・!」
毒々しい蒸気を浴び、王は唸りつつ笑った。
見るに見かねたのか、カールが手を突き出して叫んだ。
「・・・やむを得ん![アルドゥール]!」
魔法で衝撃を起こし、箱を破壊しようとした・・・が、それはまったく効いていないどころか、カール自身に跳ね返ってきた。
「ぐっ!」
「・・・完璧だ。もはや、誰にも私の邪魔はできぬ・・・!」
カールは何とか立ち上がり、必死になって叫んだ。
「ベルモンド王!今のあなたは、どうかしています!その力は、決して使ってはならぬ力!今すぐ・・・おやめください!」
「どうかしている、だと?・・・確かにそうかもしれん。だが、それはお前の方だ。私がかつて、どんな思いをしたか知っていながら、私の考えを理解せぬお前がな」
ベルモンド王は、カールが魔法で過去を覗いたことを知っていたようだ・・・どうやって知ったのか。
つくづく、魔王という種族は恐ろしい。
「ベルモンド王、あなたは・・・!」
「私は、この国の全てを守らねばならん。それには、力が不可欠だ。力なくしては、何も守ることはできん。・・・そのこと、そなただけは知っていよう」
そして、王はいよいよ魔法を詠唱した。
「出でよ、究極の黒魔法・・・『ラグナ・ヴァルス』!」
箱から噴き上がる蒸気は一瞬にして消え、代わりに強烈な閃光が発せられた。
そして・・・
「・・・な、なんだ?これは・・・私の、体に・・・何か、強大な存在が・・・憑依したような・・・」
王は突如、狂ったような笑い声を上げた。
そして、ワープしたようにその場から姿を消した。
「っ・・・!ベルモンド王・・・!」
カールは膝をついたまま唸った。
メニィがその心配をするが、カールは手を振り払った。
「行ってください・・・!早く、王を止めねば!」
さらに、王の隣にいた女も降りてきた。
「私はここまで、王様を信じてきた。言われるがままに、手を貸してしまったけど・・・さすがにあれはヤバい!・・・お願い、あなた達!どうか王様を止めて!やっぱり、あの魔法はあまりに危険過ぎたのよ!遠い昔、八勇者に討たれた異形の王・・・『竜王』が作った魔法だなんて!」
やはり、『竜王』・・・かつてこの世界を滅ぼしかけた、異形の王が作り出した魔法であったのか。
となれば、それを使った王は、まさか・・・。
「あの王から感じた気配は・・・まだ弱いですが、あれはまさしく異形のそれでした。もはや、私たちではどうにもならないかもしれません・・・」
かつて、神官であった自身の母が異形となった過去を持つ亜李華が震える。
だが、キョウラがそれを否定するように言った。
「たとえそうであっても、逃げるわけには行きません・・・!私たちは、何としても王様をお救いしなければ!かつて、あの方と共に戦った者として・・・!」
その言葉に同意した。
俺たちは王を止め、助けなければならない・・・たとえ、どんな結末を迎えようとも。




