第457話 記憶が語る真実
「ふむふむ、なるほど・・・」
カールは俺たちに、いろいろと未来のことを聞いてきた。そしてそれに何か答えるたびに、頷いたり唸ったりした。
「いやー、実に興味深いお話です。500年後の未来が、そんなことになっているなんて。・・・500年後か。その時まで、私も生きていられればいいですが」
「どうでしょう。呪術師は10年の命を持っていますから、500年後にはあなたは・・・」
そこで、カールは「私は22です」と説明した。
「そうでしたか。であれば、あなたは未来では72歳だ。健康に気をつけていれば、十分生きられる歳だと思いますよ」
「だといいですがねえ・・・」
そんな感じで、ラウダスとカールは談笑していた。
出会って数時間もせずにここまで親しくなれるのは、同族である故か。
もっとも、カールは生まれながらの呪術師であるのに対し、ラウダスは人間から祈祷師になり、つい最近呪術師に昇格したばかりという違いはあるが。
「そう言えば、カールさんは何をしにここへ?」
「・・・あっ!そうでした。私は、魔法に関する書物を探しに来たのでした!」
なんでも、カールは「追憶の魔法」という魔法について調べに来たらしい。
簡易的な時空を遡る魔法の一種で、それを使えば、対象とした人物やものの印象に残っている記憶を見ることができるという。
「地味に便利な魔法だな。てか、それを使いたい・・・ってことは、あんた、過去を知りたい奴がいるのか?」
「はい。・・・ですが、それは言えません。少なくとも、魔法を発動するまでは」
意味深な言い方である。つまり、その魔法を使う時が来たら、教えてくれるということだろうか。
まあどちらにせよ、探しものをしてるのなら手伝ってやってもいいだろう。
そうして、カールのお探しの魔法は割とすぐに見つかった。
見つけたのは、セルクだった。
「・・・これです、これ!ありがとうございます!」
カールは彼に礼を言い、さっそく読み始めた。
「・・・で、どうなんだ?」
「ちょっと待ってくださいね・・・ふむ。む、これは!」
カールはあるページを開き、手を叩いた。
「これだ・・・!これなら行けます!」
そして彼はこちらを向き、「ちょっと、席を外します。また後で!」と言って、図書室を出ていった。
それからおよそ2時間後、カールは戻ってきた。
「おっ、来たな。どうだった?」
「・・・」
彼は、何やら神妙な面持ちをしていた。
「魔法は成功しました。私は、確かに過去を見ることができました・・・それがどんなものであったか、これから皆さんにお話します」
カールはそう言って、自らが見たという「過去」を語りだした。
彼が見たのは、ある人物の遠い過去。
それは数十年、あるいは数百年前だろうか。
いずれにせよ、ある1人の異人の、いにしえの記憶であった。
その異人は、ここラーディーに魔導士として生まれた。
そして2歳下の妹を持つ兄として、平凡で幸せな生活を送っていた。
しかし、それは彼が7歳の時に変わった。
突如、町を襲ってきたアンデッドによって、妹が殺されてしまったのだ。
幸いにも妹がアンデッドになることはなかったが、彼が最後に見た妹の姿は、全身から血を流し、苦しみながら兄に助けを求めている・・・という、悲惨なものであった。
彼は己の非力さを悔やんだ。
自分に力があれば、何者にも負けない強さがあれば、妹を救えたのにと、強く思った。
そして、それから数十年後。
先に逝った父を追うように母が亡くなり、彼は母の跡を継いだ。
母の肩書きは、「第10代ラーディー国王」。つまり、彼は新たなラーディーの国王となった。
そして、彼こそ現国王ベルモンド。
カールが見たかったのは、ベルモンド王の過去であったようだ。
王になったベルモンドはわずか5年で国力を大幅に引き上げ、ラーディーを大陸最強の魔法国家と呼ばれるまでに育て上げた。
同時に、自らも魔導士から魔王となった。
魔導士は魔導騎士という種族を経て魔王になるが、彼はその過程をわずか5年でクリアした。
そうして、もはや誰にも負けない程の強さを手にしたベルモンドだが、彼は止まる事を知らなかった。
日夜、ただひたすら魔法の研究に打ち込み、とことん力を求め続けた。
今や、王の目的は「強くなること」、ただそれだけであり、それ以外のことはもはや眼中にない。
先の戦いで、高位のアンデッドであるリッチを一方的に屠ったのも、これまでの研究で得た力の成果であった。
そして今、ベルモンドはある魔法の研究をしている。
それはかつて、「竜王」と呼ばれる存在が作り出したという魔導書であり、絶大な威力を誇る魔法が記されている。
その魔導書は、またの名を"禁呪の書"・・・ラグナ・ヴァルスと言う。
その魔法にどんな効果があるのかは、実はよくわかっていない。
しかし、カールの見立てでは・・・。
「もしあの魔法を使ったら、詠唱者はすぐに心を支配され、理性も自我もない異形の存在となるでしょう。何しろあれは、『竜王』の作り出したもの。到底、人類に扱える代物ではないのです・・・」
そこまで聞いて、俺たちは顔を見合わせた。
そう言えば、あの洞窟で"禁呪の書"を見つけた時、王は「ずっとこれを探していた」と言っていた。
俺には、王が力に飢えた狂人には見えなかったが・・・少なくとも、カールの見たものは嘘ではなさそうだ。
「・・・ということは、まさか!」
ラウダスが青ざめる。
カールは、尻を叩くように言った。
「すぐに王の元へ向かいましょう!このままでは、大変なことになります!」




