第453話 氷のリッチの洞窟
洞窟の内部は、外の吹雪とは対照的に静まり返っていた。
いささか、静かすぎるほどに。
足音一つすら響かない、異様な沈黙。
空気が張り詰め、気温はさらに低下している。
吐く息が白くなるどころか、まるで凍てつく刃となって喉を裂くような感覚すらある。
「・・・この空気、とても嫌な感じがします」
亜李華が低く呟くと、すぐにキョウラが補足する。
「これは、ただの冷気ではありませんね。強力な魔力が混じっています」
「気づかれたか」
ベルモンド王が満足げに頷き、指先を軽く掲げた。
闇を照らす炎の球体が8つ、天井付近に浮かび上がる。まばゆい橙の光が、奥へと続く洞窟の全容を照らし出した。
見たことない火術だったが、王が律儀に説明してくれた。
「これは[八炎光]という術だ。火術だが、全属性のパワーを宿していてな。周囲に潜む属性の反応を見ることもできる」
王の言葉通り、火、水、氷、風、雷、地、光、闇――それぞれの魔力に反応したのだろう、全て色の違う球はわずかに震えていた。
そんな中、水色と紫色の球は強く光っている。
「・・・奥から、氷と闇の反応が強くなっている。加えて、アンデッドの気配もするな。かなり強そうだ」
やはりこの奥にいるアンデッドの親玉は、氷と闇属性か。
属性の相性的には有利だが・・・。
その時、地の底から響くような唸り声とともに、足元がわずかに震えた。
「・・・来る!」
俺が叫ぶと同時に前方の壁が砕け、無数の骸骨が飛び出してきた!
「光法 [聖光の盾]!」
眩い光が展開し、俺たちを包む防御結界が瞬時に形成される。そこへ、俺とベルモンドが同時に前へ出た。
「炎法 [ソロファイア]!」
「[煉獄の檻]!」
俺が放った炎と、ベルモンドが放った炎の柱が交差し、前方の骸骨たちを一掃した。
「今のは雑兵に過ぎん、親玉は奥にいる。気を抜くな!」
王の言葉に、全員が頷いた。
進むごとに、冷気はさらに濃くなり、瘴気はまとわりつくように重くなる。
だが、俺たちは止まることはしない。
やがて、洞窟の最奥にたどり着いた。
壁一面が氷に覆われた、いかにも氷属性のボスがいそうな場所であった。
「ようこそ、我が眠りの間へ・・・」
冷たい声と共に、巨大な玉座が現れる。
そこに座していたのは――全身を青いローブで覆った、人のような何か。
顔はさっきまで出てきていた骸骨そのものだが、その眼差しにはただならぬものを感じる。
「お前が、アンデッドどものボスか!」
「・・・いかにも。私はネクル=ヴァルザーク、氷と闇の世界の主だ」
ベルモンド王が一歩前に出た。
「貴様は・・・リッチか!」
「リッチ・・・?」
そう呟くと、ラウダスがこちらを向き、さらっと説明してくれた。
「高位の魔法種族のアンデッドだ。大抵は、ああして骸骨と変わらない姿をしてる・・・」
なるほど、そういう感じか。
「ほう、この国の王か。わざわざここまで出向いてくれるとは・・・手間が省けたわ。お前を始末し、この国を我が物としてくれよう!」
リッチは立ち上がり、氷の杖を手に出した。
「ふん・・・!貴様のような道を外れた者の手にかかるほど、私は弱くない!私・・・いや、私たちが、貴様を屠ってくれる!」
手に赤い光の球を現し、王は身構えた。
リッチが目を光らせる。すると周囲の空気は瞬時に凍結し、こちらの足元までも凍り始めた。
幸いにも「芯核熱」のおかげで、足が凍ることはなかった。
俺もしっかりと地面を踏みしめ、斧を構える。
「・・・面白い。火と光の使い手、そして若き魔王よ。私を倒せるか、試してみるがよい」
その瞬間、空間ごと凍りつくような圧力が放たれた。
だが、ベルモンド王は一歩も引かず、ただ静かにその目を見据える。
「異人の道を外れた貴様に見せてやろう・・・生きた異人の力というものを!」
王の周囲に魔法陣が浮かび上がった。
「諸君・・・!今一度、私に力を貸してくれ。今こそ、ラーディーを救う時だ!」
王の声と共に、俺たちは一斉に動き出した。
氷と炎がぶつかり合い、光と闇が交錯する。




