第442話 山の中の戦い
俺たちは急ぎ、村へ流れる川の源流があるであろう山へ向かった。
メンバーはナイア、リディア、キョウラ。
リディアは黒髪ショートの略奪者で、武器は斧と弓、属性は風だという。
セキアが言っていた通り、山の奥に湧き水が湧き出ている場所があり、その近くに4人の男がいた。
見たところ、全員が軽装の盗賊・・・ベルベット魔団だ。
「あん?誰か来たぜ?」
1人が俺たちに気付き、不敵な笑みを浮かべた。
「お前ら、ベルベット魔団だな!」
「ありゃ、知ってたか。・・・まあいいさ」
リーダーらしき男が、魔導書を出した。
「ここに来たからには、誰であろうと死んでもらう!せっかく、あともうちょいで大儲けできそうなんだからな・・・ここで邪魔されちゃたまんねえぜ!」
4人の盗賊たちは一斉に魔導書を出し、襲いかかってきた。
戦いは一瞬で激化した。
「ナイア!」
「わかってる!」
ナイアが風を纏い、大剣を振るう。盗賊の一人が吹き飛ばされた。
「はっ、動きが単調だね!」
リディアが素早く回り込み、弓で急所を狙う。
「おっと、そうはいかないぜ!」
盗賊の1人が防御するが、俺がすかさず飛び込み、斧で強打した。
「ぐあっ!」
手応えあり、だ。
「早めに終わらせます!」
キョウラが光の魔法を放ち、残る盗賊たちを包み込む。
その瞬間、リーダー格の男が手を高く掲げた。
「光か・・・なら、こっちはこうだ!」
青黒い霧が広がり、同時に魔力が低下し、気分が悪くなる。
・・・水属性の、弱体毒の魔法か。
「ナイア、リディア、下がれ!」
俺はすかさず盾を展開し、霧を防ぐ。
キョウラが手をかざし、光の結界を張るが、毒の魔法はしぶとく漂い続けた。
「ハッ、まだまだ甘えな!」
別の男が地面に手を突き、地面がぐにゃりと歪む。
足元が崩れ、バランスを崩した。
「・・・ッ!」
「姜芽様!」
キョウラが駆け寄ろうとするが、その瞬間風が巻き起こる。
「フフ、こっちを見てくれる?」
女の盗賊が指を鳴らすと、キョウラの目の前に幻影が生まれる。それは、俺が傷だらけで倒れている姿——まるで現実のような映像だった。
「姜芽様・・・!」
一瞬の迷い。だが、それが命取りになりかねない。
「キョウラ、騙されるな!」
俺はすぐに斧を剣に変形させ、幻影を斬り払う。刃がすり抜けると同時に、キョウラが目を見開いた。
「・・・幻惑、ですか」
「おおっと、バレちゃった?」
女がにやりと笑う。
リディアが素早く動いてその背後に回りこみ、矢を至近距離から放った。
「——きゃっ!」
女は跳ねるようにして後退し、弓矢を避ける。
「させるかよ……!」
その時、赤髪の男が魔導書を開き、焔が舞い上がった。
「お前ら、少し眠ってもらうぜ」
火の魔法とともに、淡い光が俺たちを包み込む。
ナイアが強風を巻き起こし、火の魔法を吹き飛ばす。しかし一瞬遅れてしまい、キョウラがふらついた。
「っ、眠気が・・・」
「眠りの魔法か?・・・まずいな」
俺はすぐにキョウラを支えるが、その隙に地面が揺れ、バランスを崩した。
そこでリディアがすかさず斧を投げ、男の魔導書を弾き飛ばす。
素早く盾を展開し、ナイアと共に前線を押し上げた。
「チッ、しぶてぇな・・・!」
水の魔法を使ってきた男が、再び毒を放とうとする。だが——
「させません!」
キョウラが光の杖を振るい、純白の光を放つ。
まばゆい輝きが毒の霧をかき消し、盗賊たちの動きを鈍らせる。
「なっ・・・!?くそっ!」
今のうちだ。
俺は剣を振り上げ、一気に敵陣へと突っ込んだ。
「『煉獄、万物を燃やす!』奥義 [煉獄火炎斬り]!」
睡眠を使ってきた男に、強烈な炎の一撃を叩き込む。
炎を纏った剣が、男を魔導書ごと叩き斬る。
その体が吹き飛び、地面を転がる。魔導書は燃え尽き、残骸が灰となって風に舞った。
「バリーがやられたか・・・!」
水と毒の魔法使いが苛立たしげに叫ぶ。
「このままやらせるかよ・・・!」
地の魔法使いが拳を握りしめ、魔導書を開く。地面が大きく揺れ、ナイアとリディアの足元が崩れた。
「っ、また・・・!」
ナイアが瞬時に体勢を整え、大剣を構えるが、そこに追い打ちをかける。
「『地に溶け、命を蝕め!』」
黒い霧が再び広がり、ナイアとリディアを覆い始めた。
「[浄化の閃光]!」
キョウラが杖を振るい、光を放って毒の霧をかき消す。
「・・・また光の魔法か!」
女が焦れたように指を鳴らし、再び幻覚を作り出そうとする。
「おっと、そうはいかないよ!」
リディアが一瞬で動き、女の懐に潜り込んで斧が振り上げた。
「[風牙登り]!」
風を纏った鋭い一撃が、女の肩に突き刺さる。
女は悲鳴を上げて魔導書を落とし、血を迸らせて倒れた。
「これで、幻覚はもう使えないね!」
リディアが勝ち誇ったように言う。
「・・・お前ら、しつこいぞ!」
地魔法使いの男が苛立ち、魔導書を掲げる。すると地面が激しく隆起し、俺たちを押し上げようとする。
「・・・なら、ぶち壊すだけだ!」
俺は剣を斧に変え、全身に炎を纏わせた。
そして、この場にいる唯一の同族に「合技」の誘いをかける。
「ナイア!久しぶりに、行こうぜ!」
「えっ!?・・・わかった!」
ナイアは風を纏い、俺の隣に並ぶ。
「「[炎嵐撃]!」」
俺とナイアの同時攻撃——炎と風が交わり、巨大な斬撃となって相手を襲う。
「ぐあああ・・・!?」
地魔法使いの男が吹き飛び、地面に叩きつけられた。
その魔導書は、バラバラに砕ける。
「クソッ、ふざけんな・・・!」
残ったのは一人。
「お前らなんかに・・・やられてたまるかよ!」
最後の男が震えながら魔導書を掲げるが、キョウラが静かに前へ出る。
「あなた達に、勝ち目はありません」
純白の光が男を包み込む。
「『煌めく光の下に』。奥義 [聖皇技・聖滅の光]」
まばゆい光が迸り、男の魔導書を粉々に砕いて消し去った。
「なっ・・・! ち、チクショウが・・・!」
やがて男は力尽き、その場に倒れ込んだ。
戦闘が終わり、俺たちは深く息を吐く。
「・・・これで、片付いたな」
「ええ、でもまだ気を抜けません」
キョウラが慎重な表情で言う。
「この者たちはおそらく、単なる組織の一構成員でしかないでしょう。まだ、上に誰かがいる可能性が高いです」
「・・・ああ。こいつらは、ベルベット魔団、だよな?その本拠地も、いずれ潰さないとだ。できるかわからんが」
俺は斧を握りしめ、倒れた盗賊たちを見下ろした。
ともあれ、これで川に毒を流していた犯人たちは始末した。
そして、水源に仕込まれていた毒の元も完全に浄化した。
「これで、村の人たちも助かるな」
「ええ。村へ戻りましょう」
そうして、俺たちはマロネ村へと帰還した。
村を襲っていた惨劇は、ようやく終わりを迎えたのだった。




