第440話 マロネの村
首都へ向かう途中、小さな村が見えてきた。
地図によれば、「マロネ」という村らしい。
何か情報が得られるかもしれないと思い、立ち寄ることにした――が、村に足を踏み入れた瞬間、強烈な悪臭が鼻をついた。
腐臭だ。
まるで、肉が腐り果てたような・・・。
俺と同じく村の様子を見ようと外に出たキョウラは、思わず顔を手で覆う。
煌汰とメニィは無言で回れ右し、そのまま拠点へと引き返した。
「おいっ、二人とも!」
「仕方ないです。この臭いでは・・・」
キョウラはむせ返りながら言う。
俺だって、あまりの悪臭に吐き気がしそうだった。
「・・・この臭い。何か、おかしいぜ。村の中に、野ざらしの死体でもあるのか?」
「・・・どうやら、そのようです」
キョウラが静かに指さした先に、それはあった。
道端に転がる人の亡骸。
すでに肉は崩れ落ち、骨が露わになり、黒ずんだ体液が地面に染み込んでいる。
無数の虫がたかり、腐臭をさらに強めていた。
「・・・うわ」
目を背けたくなるほどの惨状だった。
「死んでから、どれくらい経ってるんだ・・・?」
「おそらく、数週間は経過しています。この国の気候では、最低でもそれくらい経たなければ、ここまで酷くはなりません」
「・・・問題は、なんでこんなになるまで放置されてたかってことだよな」
普通、村には死者を弔う教会があるはずだ。
修道士がいるなら、死体が放置されることは考えにくい。
「この村には、教会はないのか?」
「あるにはあるが、そこにいたシスターはとっくに死んじまったよ」
不意に聞こえた男の声に、俺とキョウラは振り向く。
男はやつれ果てた顔をしていた。頬はこけ、皮膚はまるで干からびたミイラのようだ。
「今じゃ、修道士なんて村に一人もいねえ。だから、死体を埋葬する奴がいねえんだ」
「そんなに多くの人が死んでるのか?」
「ああ。毎日毎日、これでもかってほどな。
この村にいる限り、誰だっていずれ衰弱して死ぬ。俺だって、もう長くはねえよ」
「・・・姜芽様、これは」
「ああ。調べる必要がありそうだな」
その後村内での聞き込みで、この村に住む人々は最初は健康だが、次第に体調や気分に異常をきたしていき、やがては体を動かすのもやっとなほどに衰弱し、死に至るということがわかった。
そしてそれはちょうど1年ほど前から起きており、原因は現状全く不明だという。
腐っても魔法種族の村ということで、村自体が何者かに呪いをかけられているのではないか、とうたぐる者も少なからずいたが、その推理は外れたらしい。
また、一部には異形の仕業ではないかと考える者もいたそうだが、この村の近辺には特別危険な異形は生息していないので、これも外れの推理だという。
「呪いではなく、異形によるものでもない、となると、何でしょう・・・?」
「うーん・・・わからんな。とりあえず、拠点に戻ってみんなの意見を聞こう」
というわけで、一旦拠点に戻ることになった。
ちなみに、結局煌汰とメニィはあのまま拠点に逃げ帰ったらしく、俺たちが村の中で動いている間に帰ってくることはなかった。
拠点ことラスタで、皆に村で起きていることを伝えた。
皆も、一体何が原因なのかわからず頭を捻っていた・・・と思いきや、数名だけ違う者がいた。
「呪いでも異形の仕業でもないってんなら、毒って可能性があるな。村人みんなが使う何かに毒が盛られてて、それでみんなやられてる、って可能性があるぜ」
猶は、村人が何らかの方法で毒を盛られている、という可能性を示した。
「さっき託宣を受けてきたんだけど、『盗賊団が地下にあるものを狙っている』んだって。何かのヒントになるかな?」
ナイアは、異能で受けた託宣によるヒントを提示してきた。
「わたしは『山の中で湧き出している水の近くにいる、4人の盗賊』が見えたんだけど、それ以上はわからなかった・・・でも、きっとこれも何かのヒントよ!」
セキアもまた、異能で夜に見たであろう幻の内容を話してくれた。
要約すると、村人たちの異変は毒によるものである。
そしてその犯人に関しては、ナイアたちの示してくれたヒントからすると、盗賊がカギを握っていそうだ。
このあたりの盗賊というと、ベルベット魔団だろうか。
だが、奴らがどのような形で村人に毒を盛っているのか。
それを突き止めないことには、村の惨劇は終わらないだろう。
夜も、寝るまで考えた。
だが、俺にはとうとうわからなかった。




