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黒界異人伝・異世界英雄譚 -ようこそ、造られた異世界へ-  作者: 明鏡止水
7章・魔法の国ラーディー

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第435話 裏切りの糸

 エレンは、喋りはしなかった。

代わりに、頭の中に直接語りかけてきた。


「妾ノ真の姿ヲ見たノハ、貴様ラのみ・・・

だが、この事ヲ誰にも言ワズ・・・黙ってイルノなら、見逃してヤロウ・・・

それで、よいナ?」 


 俺はエレン——いや、ツチグモの言葉に僅かに息を飲んだ。

しかし、すぐに冷静さを取り戻し、仲間たちに視線を送る。


煌汰は盾を構え、ナイアは大剣を握りしめ、リアンナはすでに弓を引いている。亜李華は小さく呟きながら魔力を溜めていた。


 もちろん俺も、斧に手をかけている。

この場の誰もが、迷うことなく戦う覚悟を固めていた。


 俺はゆっくりと口を開いた。


「あいにくだが、見逃す気はない」


沈黙が落ちる。


 エレンの瞳が細く歪んだ。いや、もう"エレン"ではない。


「フフ・・・そうか・・・ソウカ・・・」


屋敷に仕える修道士が、困惑した表情でエレンを見つめた。


「エレン様・・・?」


 その瞬間、異変が起きた。


エレンの身体が黒い靄に包まれ、皮膚が変質し始める。人間の姿が崩れ、無数の脚が生え、体は肥大化し、異形の影が現れる。


 すぐ隣にいた修道士が悲鳴を上げた。

さらに、騒ぎを聞きつけてやってきたらしい他の屋敷の者たちも、同様に悲鳴を上げた。


ようやく、エレンの正体が白日の元にさらされた。

だが、俺たちにはまだこいつを倒すという大仕事がある。


 さっき戦ったツチグモよりも、はるかに大きく、そして禍々しい。


俺が斧を抜くと、他の仲間もそれぞれ構えを取る。


「妾ヲ討ツツモリカ・・・ヨカロウ。

ココデ、貴様ラ喰ラッテヤロウ!」


 ツチグモは、その体躯からは想像もつかないほどの速度で壁を駆け上がり、天井から鋭い糸を吐き出す。


「またこの糸か!」


リアンナが矢を放ち、糸を切り裂くが、ツチグモはすでに動き出していた。


「ナイア、頼む!」


「任せて!」


 ナイアが大剣を振り上げて一閃を放ち、ツチグモの脚を弾き飛ばす。


「亜李華!」


「はい!」


亜李華が杖を振るい、技を繰り出す。


「杖技 [雷霆の槍]!」


 杖の先から3本の雷の槍を撃ち出した。

それらはツチグモの体を貫き、落雷による追撃を発生させる。

その様は、さながら龍神の術のようだ。


「ギィイイッ!!」


 ツチグモは、口から鋭い牙を吐き出した。

それは煌汰の盾をも貫通せんばかりの勢いで迫ってきた。


煌汰は盾を前に出して防いだが、牙の一部がわずかに盾をかすめ、彼の腕に傷を負わせた。


「煌汰!」


 ナイアが叫んだが、煌汰はそのまま耐え続ける。だが、顔色は明らかに青ざめている。


「大丈夫か!?」


「・・・問題ない。けど、このままだとキツイかもな」


 その隙に、ツチグモが再度脚を振り上げて糸を放つ。糸が空気を切り裂きながら飛んできた。


「来たぞ!」


俺はすぐに声を上げ、リアンナと共に糸を切ろうとするが、ツチグモはすばやく動き、今度は糸を広範囲に撒き散らしながら攻撃を続ける。


「・・・糸が多すぎるな!」


リアンナが弓を引き絞ったが、糸が矢を受け止め、何本も矢が切られてしまう。


「ちくしょう!」


 その瞬間、ツチグモが一気に飛びかかってきた。


亜李華が杖を振るい、「雷霆の槍」を繰り出した。しかしその瞬間、ツチグモが脚を素早く動かし、技をかわして彼女に迫った。


奴の一撃は恐ろしく速かった。

亜李華の体に衝撃が走り、血が迸る。


「・・・っ!」


 亜李華が倒れると同時に、糸が彼女の体に絡みつき、動きを封じられる。


「亜李華!」


「無理しないで!」


ナイアが必死で駆け寄るが、その足元にも糸が飛んできた。


「っ!こんのっ・・・動け!」


 ナイアは大剣を振り上げて糸を切り裂くが、糸の鋭さに腕に切り傷を負う。


「痛っ・・・!」


だが、ナイアはそれをものともせず、剣を振るってさらにツチグモの脚を攻撃する。


「やっぱりこいつ、糸だけでもすごい威力だね」


 リアンナが矢を放ちつつ、糸を回避しながら言う。


「ああ、この糸が一番厄介だ」


ツチグモの糸は、ただの攻撃手段にとどまらず、足止めや追撃を狙ってくる。全員がその特性を理解しつつ戦うが、相手の攻撃速度にはどうしても後手に回ってしまう。


「[ガードフレイム]!」


 盾で攻撃を防ぎつつ、炎で反撃を見舞う。

こちらから攻撃ができなくとも、カウンターはできる。


そして、これらの攻撃は確実に効いている。だが、ツチグモは怯むことなく、天井を蹴って一気に距離を詰めてきた。


俺は逃げることなく、その場で斧を剣に切り替えた。


「『燃え滾る刃!』 奥義 [火剣の舞い]!」


炎の刃がツチグモの脚を斬り裂く。しかし、ツチグモは即座に別の脚で払おうとする。


「[アイスシールド]!」


 煌汰が展開した氷のシールドが攻撃を受け止め、俺はすんでのところで回避できた。


「まだ、終わらないぜ!」


俺は剣を振り上げ、洞窟での戦いの時と同様、金色の目を狙う。


「リアンナ!」


「わかってる![貫き射法]!」


リアンナの矢が目に突き刺さり、ツチグモは激しくのたうち回る。


 そこをついて、俺は渾身の一撃を繰り出す。


「剣技 [ファイアークラッシュ]!」


燃え盛る斬撃がツチグモの体を引き裂き、目を焼く。

そして同時に、炎への耐性を下げる。


「ギィイイイッ!!」


 ツチグモが苦悶の声を上げ、壁を蹴って距離を取る。だが、俺たちは逃がさない。


「煌汰!」


「ああ、任せろ!」


 煌汰が盾を突き出し、[氷縛鎖(ひょうばくそう)] という術を唱える。そしてツチグモの脚に鎖を巻き付かせ、その動きを鈍らせる。


そこで、ナイアが大剣に強烈な風を纏わせる。


「[嵐裂(らんれつ)の一閃]!」


 彼女の一撃がツチグモの腹を切り裂く。

同時に風の刃が四方に広がり、天井から降り注ぐ糸を吹き飛ばした。


リアンナの方を見ると、すでに狙いを定め、弓を引き絞っていた。


「『爆散せよ!』奥義 [爆炎射法・双牙]!」


 炎を纏った二本の矢が放たれ、ツチグモの目と胸部に突き刺さる。そしてその矢は爆発を起こし、ツチグモの体が揺らぐ。


「まだ倒れないか・・・!」


俺は剣を構え直し、さらに強力な技を打ち込む準備をする。


「煌汰!このまま、足止めを続けてくれ!」


「ああ!」


 煌汰が盾を構え直し、ツチグモの反撃を受け止める。その隙に、俺は大きく息を吸い、魔力とともに剣を燃え上がらせた。


そうして、たった今閃いた技を繰り出す。


「剣技 [紅蓮の終撃]!」


炎の波動を纏った剣を振り下ろし、ツチグモの中心へと叩き込む。

爆炎が巻き起こり、ツチグモの体を飲み込んだ。


 さらに、そこへ続けて奥義を打ち込む。


「『この火で焼き切る!』奥義 [炎剣ストーカー]!」


ツチグモの目を突き、炎を伝わらせる。

そして斬り下ろし、一度納刀してから抜刀術のように剣閃を放つ。


 炎とともに血が飛び散り、その目と頭は無残なまでにズタズタになった。





「グ・・・アアアアア!!!」


 ツチグモは咆哮のような唸り声を響き渡らせ、血を流してへたれこんだ。


「おのれェ・・・よくも、よくも妾を・・・!」


もはや事切れる直前のツチグモに、亜李華が尋ねた。


「あなたが、里の人たちに生贄を捧げさせていたと聞いた。なぜ、そんなことを!」


 だが、それに異形が答えることはなかった。


しばらくの沈黙の後、異形は崩れ落ち、完全に動かなくなった。


俺は息を整えながら、剣を収める。


「・・・終わった、か?」


 亜李華たちも慎重にツチグモを見つめていたが、もう動く気配はない。


「やったな」

煌汰が安堵の声を漏らす。


 リアンナが弓を収め、ナイアもほっと一息ついて頷く。


「亜李華さん、大丈夫?」


「ええ・・・でも、回復は必要です」


亜李華が杖を構え、仲間たちの傷を癒やす。光属性の魔法がツチグモには効かなくても、俺たちにはしっかり作用する。




 戦いが終わると、隠れていた屋敷の者たちが出てきた。


「・・・ツチグモが、エレン様になりすましていたとは・・・」


人々はざわめき、驚いていた。

みんな、エレンとツチグモの正体を知ったようだ。


 こうして、イズモの里の事件は解決した。

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