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黒界異人伝・異世界英雄譚 -ようこそ、造られた異世界へ-  作者: 明鏡止水
7章・魔法の国ラーディー

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第432話 神官エレン

 俺たちはシアルの案内で、里の中央にそびえる屋敷へと向かった。


イズモの里の中は静かで、どこか張り詰めた空気が漂っていた。

外で作業をしていた人々は、俺たちを見るとすぐに目を逸らし、距離を取る。


 明らかに、よそ者を警戒しているのが分かった。


「ずいぶん、歓迎されてないみたいだな」

輝がぼそりとつぶやく。


「まあ、よそ者に慣れていないんでしょう。それに・・・」


 シアルはわずかに眉をひそめ、視線を前へ向けた。


「エレン様がどう判断されるか、それが重要です」


 屋敷に到着すると、門の前には二人の修道士が立っていた。

「この者たちを通してください。エレン様にお会いしたいのです」


 シアルが告げると、修道士たちはしばらく顔を見合わせたが——

「・・・ついて来い」

とだけ言い、俺たちを中へと案内した。




 屋敷の中は妙にひんやりとしていた。

長い廊下を進み、奥の大広間へと通される。

そこにいたのは——



 玉座のような椅子に座り、俺たちを見下ろす少女。

長い黒髪に、鋭い金色の瞳。

深い青の装束をまとい、腕を組んでいる。

そして、その口元にはわずかに笑みが浮かんでいた。


「あなたが、神官エレン?」

リアンナが問いかけると、少女はふん、と鼻を鳴らした。

「いかにも、妾がこの里の神官、エレンじゃ」


 その声には、どこかぞんざいな響きがあった。


神官は僧侶、つまりキョウラの種族の亜種とのことだが、そうは感じない。

なんとなく、獣を思わせる威圧感がある。


「俺たちは——」


「ふん、そのくらい答えずともよい。よそ者だな?」

エレンはつまらなそうに言った。


「なあ、あんたに話が——」


「ない」


 龍神が言いかけたところで、エレンはバッサリと切り捨てた。


「妾はよそ者と話す気はない。さっさと帰れ」


「・・・は?」


あまりに露骨な拒絶に、俺たちは一瞬呆気に取られる。


「いや、話くらい・・・」


「話すことなどない、と言っておろう」


 エレンは鋭く言い放つ。


「汝らが何をしようと構わぬ。だが、余計な詮索はせぬほうが身のためじゃぞ。

——さっさと、この里を去るがいい」


 その言葉には、ただの警戒以上の何かがあった。

まるで、自分たちの領域に踏み込ませまいとする獣のような。


「・・・なぜ、そこまでよそ者を拒むのですか?」

キョウラが慎重に問いかける。


「理由など、言う必要はあるまい」

エレンは薄く笑った。


「妾は外国人が嫌いなのだ。汝らの顔を見ていると、苛立ってくる。

・・・特に、姜芽。汝の顔は、妾にとってまことに不愉快極まりない」


「・・・俺の顔が?」


「そうだ」


エレンはギラリと目を光らせる。


「汝の顔は・・・あの忌々しい"外の民"に似ている。

あの者たちはかつて妾の領域を侵し、好き勝手に踏みにじった・・・妾は、二度とあのような存在を許すつもりはない」


「何の話だ・・・?」


 俺が眉をひそめると、エレンはクスッと笑った。


「いや、少々口が過ぎたな。いずれにせよ、妾は汝らを受け入れるつもりはない。

余計なことはせず、早々にこの里を立ち去るがよい」


 その目が、金色に妖しく光る。

・・・何かがおかしい。

この女、ただの神官じゃなさそうだ。


「さあ、もう十分だ。帰れ。

くれぐれも、妾の領域に立ち入るでないぞ・・・」


 エレンは冷たく言い放ち、修道士たちに目配せをした。


「・・・どうする?」

リアンナが小声で問いかける。


「・・・」


 正直、ここで何かを問い詰めても、何も出てこない気がする。

しかし、このまま引き下がるのも・・・。


「・・・分かった。行こう」


 俺たちは、一旦屋敷を出ることにした。

だが、心の中では確信していた。


——この神官、何かを隠している。

そして、それはまず間違いなく"ツチグモ"と関係があるだろう。


俺たちは、この里の闇に踏み込むことになるだろう。

それが、どれほど危険なことなのかも知らぬまま。





 シアルは門の前で待っていた。


「お話は聞いておりました。・・・やはり、エレン様はあなた方を嫌がっておられましたね」


「知ってたのか?」


「ええ。これまでにも、エレン様は外部から来た者をああして蔑み、早々に出ていけと言っておられたのです」


「そうか・・・」


 まあ、よそ者嫌いな里長なんていっぱいいるだろう。

だが、あの神官はちょっと違うだろう。

何か、知られたくないことがありそうだ。


「ひとつ気になったのですが・・・」


キョウラが、確認するように尋ねた。


「あの方は、『神官』なんですよね?」


「ええ、エレン様は生まれながらの神官だと聞きます。・・・あなたも神官なのですか?」


「いえ、私は僧侶です。神官は近縁種にあたる種族、のはずなのですが・・・」


 やはり、キョウラも何かを感じていたようだ。


「?」


シアルだけが、わかっていないようだった。

まあ、仕方ないのだが。






 夜、拠点でナイアから面白い話を聞いた。

なんでも、彼女はまた「託宣」を受けたらしい。


「この里と、北東の洞窟は彼女の領域。

彼女の秘密は、その領域の中にある・・・」


 そう言えば、この里を出て北東には洞窟があるんだった。

そして、「彼女」とはおそらく・・・。


ナイアの「託宣」で得られる情報は、つくづく優秀なヒントになる。

まだ断定はできないが、とりあえず次にすることは明確だ。


 明日、北東の洞窟へ突入しよう。

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