第423話 襲われたアーラッド
目の前で、1人の自警団の男が一体のハーピーとやり合っていた。
こちらには気づいていないようだったので、横から「紅蓮割り」を繰り出してやると一撃で倒せた。
「おっ・・・お前たちは!」
やり合っていた男が、こちらを見てきた。
「助かった。・・・奴らに、この城は絶対に渡さん!町はおれたちが固める、お前たちは城のほうへ行ってくれ!」
そういう男の体は傷だらけで、服があちこち破れて血が出ていた。
見ているほうが痛々しいくらいだったので、「修復光」で回復だけしてあとを任せた。
城へ向かう途中で、翼の青いハーピーに遭遇した。
地上スレスレをゆらゆらと飛んでいたが、こちらを見るなり雄叫びをあげて襲ってきた。
その充血した目は明らかに焦点が合っておらず、しかもギョロついていて、少し怖いくらいだった。
輝もその異様な目に恐怖を感じていたが、龍神とアルテトは平気な様子で弓を撃った。
ついでにその直後、ハーピーは身がすくみ上がるような咆哮を上げてきたが、こちらも龍神たちは平気なようだった。
「ビビってる場合じゃねえぜ!」とアルテトに怒られたが、これに関しては2人がおかしい、というか特殊なだけであろう。
何しろ、殺人者は何者にも屈しない鋼の精神を持ち、何かに怯えるということがないのだから。
城へ続く道には、ハーピーと向かい合うようにして倒れている自警団員がいた。
ついさっき決着がついたばかりなのだろう、ハーピーの方は温かい血を垂れ流していた。
そして、自警団員の方は・・・
「へへ・・・どうだよ。そいつは、おれがやったんだ。けど、こっちももう動けねえや・・・」
家の壁に寄りかかり、血まみれになって笑う彼は、やっと満足した戦果を上げられた、傭兵に負けたのが心残りだな、といって重い瞼を閉じた。
一応回復をかけたが、もはや無意味だった。
そして同時に、彼とやりあったハーピーから流れ出る血も、冷たく重いものとなった。
それからも、至る所でハーピーと戦っている自警団員を見かけた。
一般の人を守って戦っている者もおり、たとえ無数の傷を受け、血だらけになろうとも、決して後ろには退かず、戦い続けている。
なんとも勇敢だが、体中傷だらけかつ血まみれで剣を握って立っている姿は正直見ている方が辛いので、回復だけさせてもらう。
ちなみに、ラスタに残してきたメンバーも外に出てきて町中で戦っていた。
メンバー総出で戦ってくれていたので、自警団員や町の人たちもありがたいと言っていた。
特に、もはや体力が尽き、逃げることも戦うこともままならなくなった女の町民の前に柳助が立ちはだかり、襲い来るハーピーをみんな返り討ちにする場面は印象的だった。
もちろん他のメンバーも奮闘してくれていたが、その後も心なしか柳助が一番気張っているように思えた。
「しかし、すごい数だな!100匹以上いるんじゃねえか・・・!?」
「他にも味方がいるとはいえ・・・この数を全部倒さなきゃないってなると、ちょっとキツいな・・・!」
「弱点があるのがせめてもの救いだな。だが、さすがに・・・!」
輝たちの言う通りだとは思う。
だが、俺たちは止まるわけにはいかない。
町中で見た人々の中には、既に息絶えたハーピーの死骸を兄の仇と言って涙ながらに力一杯蹴っている男の子や、恋人であろう女の無残な亡骸を前に泣いている男、亡き夫のためと言って槍を振るう女なんかもいた。
今更かもしれないが、この国が現在進行系で多種族の侵略と殺戮を受けている国であり、多くの人が犠牲となっているということを再認識させられた気持ちになった。
それで尚更、この国を守らねばならないと思ったのだ。
城へ向かうと、城門前の兵士たちは無事だった。
「あんたたちは!・・・よし、城の中を固めてくれ!
ここはおれたちが死守する、でももし守りきれなかったら・・・その時は頼む!」
わずか2人の兵士で、城門を守れるだろうか。
心配だが、城内の様子も気になる。
ここは、彼らを信じて城の中へ行く。
幸いにも、城内にはハーピーの姿はなかった。
階段の下にいた兵士も、「ここを死守する」と言っていたから、まだ城には入られていないのだろう。
一応確認しに行ったが、王は無事だった。
「私を心配してくれたのか?ありがたい・・・だが、今は町の者たちを守るのが最優先だ!
君たちも、城を守ることを優先してくれ!」
かく言う王はというと、城の窓から顔を出して空中と地上のハーピー目掛けて魔導書を開き、氷の魔法を放っていた。
自国を守るために王自ら戦うというのは、当たり前と言えば当たり前かもしれないが、なんだか王の人柄が垣間見えたような気がした。
「今のところ、城内は大丈夫なんだな?」
「うむ!君たちは、他の者たちと同様に外で応戦してくれ!頼む!」
王に言われた通り、正面の入り口から外に出ると、すぐそこから男たちの悲鳴が聞こえた。
まさかと思い外に出ると、目の前にハーピーが3体いた。
相変わらず焦点の合わない目をしており、その鉤爪には鮮血がこびりついている。
「もうここまで来やがったか!」
「やっぱり2人じゃキツかったか・・・何にしても、この城を渡すわけにはいかん!」
ハーピーたちがこちらに向かってきた。
龍神が「稲光の道筋」を繰り出し、輝が「ヘルハウンドチェイサー」を繰り出す。
これでやれるかなと思ったがそうはいかず、奴らは爪を向けて飛びかかってきた。
技を出そうとしていたところを襲われ、顔をもろに引っ掻かれた。
ギリギリで、目を抉られなかったのが幸いである。
それでも、頬を深く刺されたが。
「ミキサーボウル」を放って翼を切り裂き、アルテトが「貫き射法」という技で3体をまとめて撃ち抜いても倒れない。
奥義の「煉獄火炎斬り」を出すと、ようやく倒れてくれた。
なんとか3体を倒したが、すぐにまた新しいハーピーが襲いかかってきた。
それも、上空から一声のいななきと共に、ピューっと降りてくるのだ。
声に気づいて顔を上げると、見事に顔をやられる。
場合によっては目を潰されかねないので、いななきが聞こえたら盾を顔の前に構えて顔を上げた。
幸いというべきか、盾でガードしてすぐに炎を放つカウンター技の「ガードフレイム」は確実に命中し、これで翼を焼いて撃墜することもできた。
奴らは、翼を片方でも破壊すれば飛べなくなり、地上に落ちてくる。
そうなれば、一気に戦闘が楽になる。
と言っても、凶暴性は変わらないが。
そうして戦い続けた時間は、2時間も3時間もあるように感じられた。
もはや、何体倒したかもわからない。
というより、そんなこと気にしていられる余裕がないほど、疲れが溜まっていた。
しかし、敵はそんなことに構ってはくれない。
こうして先に襲来したハーピーを倒し、少しばかり休んでいる間にも、奴らは複数で俺たちの前に現れる。
これで終わりであってほしい。
そう祈るように思いながら、俺は奥義を繰り出す。
「『烈火、即ち断罪の剣なり』。
奥義 [烈火の裁き]!」




