第37話 2つの手がかり
ナイアに事情を説明し、苺の記憶を取り戻すためのカギになる情報を見てもらった。
その結界、2つの手がかりが得られたらしい。
1つは、南の遺跡。
そしてもう1つは…。
「え、キョウラ?」
なんと、キョウラが手がかりだと言うのである。
「…私、ですか?」
キョウラは自身を指さし、信じられないという顔つきで言った。
「うん。詳しい事はわからないけど、確かに聞いたよ…キョウラが、苺さんの記憶を取り戻すカギになるって…」
ナイアも驚いている様子だった。
「…んー、キョウラが一体どう関係してくるんだろ?前の苺を知ってたとか、そういうことじゃないだろ?」
「ええ…苺様とは、あの時初めてお会いしたはずですが…」
キョウラはそう言うが、苺はそうでもないようで、キョウラの顔をじっと見つめた。
「…」
「苺様?どうかなさいました?」
「あの、キョウラさん。以前から気になっていたのですが…」
「?」
「あなたの目に、心做しか見覚えがあるような気がします…」
すると、なぜか樹が反応した。
「え、苺さんキョウラに見覚えがあるのか!?」
「いえ、キョウラさんとは初対面です…恐らく。ただ…あなたと同じ目をした人に、会ったことがあるような気がするのです。なぜかはわかりませんが…」
それを聞いて、樹はんんん?とうなった。
「なんなんだ?なんか苺さん、記憶が完全に消えてるわけじゃ無いみたいだけど…どうなってんだ?」
「私にもわかりません。大半の記憶はないのですが、いくつか断片的ないし点在的に記憶が残っている事もあって…」
「ふーん…なんかよくわかんないな。まあ完全に記憶が消えちまうよりはいいんだろうけど…」
正直、難しいところだ。
樹の言う通りだとは思うが、中途半端に記憶が残っているとそれはそれで本人も周囲も違和感がある。
白にも黒にも染まりきらないどっちつかずというのも、問題なようである。
「とにかく、わかりやすい方から攻めようぜ。えーと、南の遺跡…って言ったっけ?」
「ああ。メニィは知ってるか?」
「ええ。かつてこの地に存在した古代文明の遺跡で、今は異形の住処になってます。駆け出しの冒険家や冒険家志望の人がよく行くんですが、そのうちの半分くらいは帰ってこない、危険な場所です…」
なんか、それっぽい所が出てきた。
そういう所に突っ込んでこそ、冒険である。
案の定樹は大はしゃぎ。行こう行こう是非行こうと騒いだ。
まあ、仮に樹が騒がなくても行くのだが。
遺跡には半日も歩けばつくとメニィは言っていたが、それは魔法種族にとっての話だ。
俺達がまともに歩けば、その倍以上かかるだろう。
なので、まあ当然ではあるが馬車を使う。
この砂漠で馬車が動けているのも、メニィの力があってこそだ。
本当に、彼女が仲間になってくれてよかったと思う。
果たして遺跡へはどれくらいでついたかと言うと…
なんと、2時間ほどでついた。
砂の上でもハマらずにすいすい進めるのは、なんとも言えない快感だ。
「ここだな」
砂に半ば埋もれた、崩れかけの赤茶けた遺跡。
まさしく、砂漠の遺跡といった感じだ。
「確かに、異形の気配を感じるな…それも、そこそこの奴らがいそうだ」
猶が言った。
「そこそこの…って、強い奴らか?」
「まあ…まずまずだ。たぶん蛇とか爬虫系の連中だろう」
「そうか…でもまあ、俺達はやられたりしないよな。よし、行こうぜ!」
そうして、俺達は遺跡の門を叩いた。
メンバーは、メニィ、樹、苺、あと俺の4名だ。
崩れた天井から日が入り、遺跡の中を照らす。
それはそれなりの明るさがあり、普通に動くだけなら松明のような照明は必要ない。
しかし…
「姜芽、一応松明頼む」
樹は石橋を叩くように言ってきた。
幸い手頃な枝があったので、それにその辺で採った枯れ草を巻いて火をつけた。
「あら、灯りなら、言ってくれれば私が着けましたのに」
「いいよ。俺は火を操る異能を持ってるからな」
「…まあ、そうなんですね。でしたら、私は強化系の異能を持ってるので、サポートできるかもしれません」
「強化系の異能?どんなのだ?」
「[増幅]といって、仲間が使う異能や、術や技の効果を上げられるというものなんです。普段はあまり使わないんですが…」
「へえ…優秀そうだな。具体的に何倍にできるんだ?」
「1.3倍できます。そこまで強力なサポートではないんですが、ないよりはマシだと思います」
その通りだ…というか、普通にあってほしい能力だ。
1.3倍って、地味に結構な倍率だし。
と、地面から敵が出てきた。
それは体全体が青く、異様にデカい蛇みたいなやつだった。
「アースワームか…」
樹が一言呟き、棍を数発打ち付けると、そいつは大人しくなった。
さらに少し進むと、今度は天井から真っ黒い蛇が口を開けて飛びかかってきた。
「うわっ!」
一瞬驚いたが、メニィが火の魔法で追い払ってくれた。
「姜芽さん、大丈夫ですか?」
「ああ、ありがとな。…今のも異形か?」
「ええ、黒の虎蛇と呼ばれる異形です。この国ではわりとよく見かけますよ」
「そうなのか?」
「まあ、そこまで危険な異形ではないんですけど。でも、多数に囲まれるとちょっと危ないので、囲まれないようにしましょう」
「わかった」
蛇…か。
冒険ものの映画や小説でもよく出てくる存在だが、俺はどちらかと言えば平気である。
まあ、それが異形…もとい魔物となれば話は変わってくるだろうが。
「蛇…異形…」
苺は何やらぶつぶつと呟いていた。
少し進むと、行き止まりに出た。
「ありゃ、ここまでか?」
思わずそう口に出したが、壁の何かに注目したメニィが壁に近づき、魔法を唱えた。
「[クレイト]!」
すると、壁が崩れて奥へ続く道が現れた。
「おお…!」
「これは『崩れる壁』のギミックだな。なんでわかったんだ?」
樹が感心したような目で言った。
「壁の中央に、黒いひし形がありましたからね。この国の崩れる壁は、昔から中央に黒いひし形が描かれてる事が多いんです」
「…なるほどな」
樹に聞いてみた所、この世界の遺跡やダンジョンにはギミックとも呼ばれる仕掛けがある事が多いという。
で、今のはそのうちの一つで、一見壁に見えるが、実際は通路を隠す仕切りあるいはカモフラージュの役目を果たしており、攻撃や特定の仕掛けを解除することで容易にどかせる『崩れる壁』というものだそうだ。
そうして現れた通路の先には、複数体の異形がいた。
それは蛇ではなく、白いトカゲかヤモリのような姿をしていた。
メニィによれば、セルパトゥと呼ばれる爬虫系の異形で、火と氷に弱いそうだ。
「火…」
俺は、自然と術を使っていた。
「炎法 [火炎の床]」
床全体に炎が広がり、あっという間に異形達を追い払った。
「これで楽に進めるな。行こう」




