第413話 砂の最後の戦い
そうしてラディーネ学院へ戻ることになった。
それはすなわち、首都メキマに行くということでもある。
「しかし、ここからだとちょっとな・・・」
輝がぼやく理由は、ずばり距離だ。
ここからラディーネまで、ラスタ・・・つまり現在使っている移動拠点でまともに向かうと、ざっとひと月はかかるというのである。
「まあ行けないことはないけど・・・時間がかかるよ。何しろ、国家を西から東に横断するんだからね」
俺達が今いるのは、ロロッカ北西の砂漠。
そして、ラディーネ学院のある首都メキマは国の北東にある。
「距離で言うと、ざっと650キロだ。そんな距離を、異形とかもうろついてるだろう道を行くのはなかなかに過酷だぜ。
そもそも、途中で物資が尽きる可能性もある・・・」
そう、一番の問題は物資。ことに食糧だ。
水は樹が無限に出せるからいいとしても、食糧はどうにもならないのである。
しかも、ここまでしばらく補給をしてこなかったもので、ちょうど物資が底をついてきている。
「みんなに節約を呼びかけた方がいいな。少なくとも、途中どこかで補給ができるまでは。
ここからは、かなりの長旅になる・・・」
「そうだな。今言ってくるか」
そうしてみんなに、これからの旅路が長くなりそうであることを伝えた。
すると、苺が口を開いた。
「あら?確かこのあたりには、メキマと通じるワープがあった気がするのですが」
「え、そうなのか?」
「私の記憶が確かならば、ここから2日ほど東に行ったところのオアシスに、冒険の扉があったかと」
冒険の扉とは、ワープ装置の一種であり、白い渦巻く光、という見た目らしい。
「それを使えば、メキマに直で行けるのか?」
「ええ。最も、以前私が来たとき・・・20年前と変わっていなければ、ですが」
「20年くらいなら、そんな変わってないとは思うけどなー。とりあえず、行ってみようぜ?」
煌汰はそう言うが、どうだろうか。
建造物が砂に埋もれるのは早そうだが。
「・・・ともかく、行くだけ行ってみるか。輝にも伝える」
輝は、反対はしなかった。
それから2日後、苺の言っていたオアシスより先に謎の一団に遭遇した。
それは、象をでかくしてがっつり太らせたような獣を連れていた。
・・・しかし、この集団にはなんか見覚えがあった。
少なくとも、初めて見るものではない。
「あれ?なんか、見たことあるような気するな」
「だからさ。・・・あ、あいつは!」
煌汰の直後、俺も気づいた。
一団のリーダーの顔に、見覚えがあった・・・金縁の眼鏡の男。
リフォン村で出会った、行商人だ。
向こうもこちらに気づいたようで、健気に挨拶をしてきた。
「これはこれは、いつぞやの。あなた方のお話は、私どもも耳にしております!」
「久しぶりだな。あんたは・・・」
「私はガナー、行商人ガナーです。覚えていてくださったのですか?」
正直うろ覚え・・・というか、半分以上忘れかけていた名前だが。
「僕らは、この先にあるっていうオアシスに行くところだ。あんたらは?」
「北東の村へ向かっております。あと4日ほどで着ける見込みです」
「あ、村に向かってたのか。てか疑問に思ったんだけど、あんたらは売るものはどこで手に入れてくるんだ?」
「メキマを始めとした、大きな町ですな。
この砂漠は広大ですから、あちこちのオアシスや洞窟に冒険の扉があります。なので、そこにたどり着けさえすれば、移動は困らないのですよ」
「え、そうなのか?」
知らなかった情報だ。
それが本当なら、今まで損をしていた気分だ。
「この先のオアシスにも、冒険の扉があります。メキマへと繋がっていたはずです」
「おっ!今もあるんだな。そんなら、急ごうぜ姜芽!」
「お待ちください!」
行商人・・・ガナーは、白い真珠のようなネックレスを取り出した。
「道中の砂に埋もれていたのを、拾ったものですが・・・こちらを、あなた方に差し上げたいのです」
「えっ?何を、急に?」
「大したことではありません。まあ、強いて言うならば・・・こちらの事情、でしょうか。とにかく、どうか受け取ってください。お代はいただきませんから」
まあ、よくわからないが、とりあえずもらっておいた。
「おや、そろそろ行かなくては。それでは、良きお客様方。皆様の旅路に、幸あらんことを!」
そうして、ガナーの商隊は再び歩き出した。
ガナーの情報によれば、この先にオアシスがあるらしい。
ということで、急いだ。
しかし、道中で嫌なものを見てしまった。
砂漠の中にぽつんと立つ、程よく日焼けした1人の異人。
サードル旅団の者には見えないが、黒い長髪の女だ。
「なあ、あれって・・・」
「ああ、同じことを思ってる」
しかし、目的のオアシスはこの先であるから、スルーもできない。
ラスタを止め、苺、煌汰、美羽を連れて降りて女を尋ねた。
向こうは、話しかけるまでもなくこっちを見てきた。
「あなた達は・・・この国の者ではないな」
「だったら何だ」
女は、杖を抜いた。
「ならば、この国の者にはないものを・・・経験を、持っているだろう!私は『現世の鏡の光』マルクィタ・レスメリア、地方英雄だ!
異郷の旅人たちよ、ひとつあなた達のお手並みを拝見したい!」
やはり、こうなったか。
前の地方英雄・・・ ロムカ・デヴァータの時も、こんな感じだった。
そして、いざ戦ってみると謎に強かった。
英雄という肩書きも納得がいくほどには。
ロムカは斧持ちの男だったが、こちらは杖持ちの女だ。
とはいえ、地方英雄と呼ばれるくらいだし、強いことに変わりはないだろう。
相手の強さを考え、苺や美羽といった比較的強い仲間を連れてきた。
だが、それでもどうかわからない。
女が杖に風をまとわせるのを見ながら、俺は斧に炎をまとわせた。




