第410話 冒険者グラテマ
鞭の技の後、グラテマは自信を覆う六角形の地属性の結界を張ってきた。
俺は連続で斧を投げて攻撃し、結界を壊せる技である「ラスタードヨーヨー」を放つ。
すると容易に結界を破壊でき、さらにグラテマが怯んだ。
うめき声を上げて着地し、俯いてその場で動きを止めた。
今がチャンスとばかりに、みんなで殴った。
武器を振るい、術を放ち、総攻撃を仕掛けた。
輝が光の刃を降らせる術「雨の日差し」を唱え、龍神が「稲光の道筋」を繰り出し、セキアが魔導書を開いて「ヘル」を唱える。
そして、亜李華と俺が奥義を繰り出す。
亜李華が「氷河の夢」でグラテマを氷に閉じ込めたところで、俺が「炎剣ストーカー」を出す。
久しぶりに出した奥義だが、要は相手を剣で突き、斬り下ろした後、斜めに斬り上げる剣閃を繰り出すという三段攻撃技だ。
最初の突きと、最後の剣閃には相手の体を炎上させる効果もある。
前回は発動の際のセリフを考えていなかったが、今回はしっかりある。
『この火で焼き切る!』というものだ。
今さらだが、どうせならとことんカッコよく・・・痛く決めたい。
効果のほうだが、亜李華が氷づけにしたのを叩き割って火属性の攻撃を叩き込む、というのは意外と悪くなく、それなりにダメージが入ったようだった。
リアクションはしないが、グラテマの体から飛び散る血の量で、何となくそれを推し量った。
また、これによって血の契約がクリアされた。
体にまとわりついていた赤い光が、きれいさっぱり消えたのだ。
血の契約が消えたのは亜李華も同じだったようで、グラテマが盛大に血を撒き散らした後、やった!とつぶやいた。
攻撃を当てれば相殺できるとは言え、徐々に体力を奪われる上に普通の回復ができないのはやはり辛い。
前の時と違い、重ねがけされなかったのが幸いだったか。
ここで、グラテマは復活した。
「『砂に呑まれよ』・・・!
奥義 [砂海に消ゆる魂]!」
直後、遺跡の中を猛烈な砂嵐が吹き荒れた。
一瞬でそれは消えたが、輝が倒れており、龍神が何やら顔を押さえて呻いていた。
セキアと亜李華、そして俺はなんともない。
「ほう、耐えたか・・・ならば!」
グラテマは高く飛び上がり、両手を胸の高さで上に向け、頭上に青い光の渦巻きを起こした。
「『水蛇の如く』・・・」
光の渦巻きの広がり方は、水の波紋にも似ている。
それを見て、俺はすぐに結界を張りつつ盾を構えた。
セキアたちは一瞬、攻撃してキャンセルさせようとしていたが、すぐに諦めて防御に入った。
そして・・・
「奥義 [冷雨の牙]」
渦巻きは大きな水の蛇となり、グラテマから見て左から右へ一気に駆け抜けた。
この際、展開した結界は破壊され、俺は耐え難い痛みと傷を受け、倒れた。
「姜芽さん・・・!」
亜李華の悲痛な声が聞こえる。だが、俺は無事だ。
致命的なダメージを受けただろうが、生きてはいる。
だが、声が出せない。
「無駄だ。いかに足掻こうと、お前たちに勝ちはない。
お前たちもまた、封印を解く贄となってもらおう!」
グラテマと、懸命にやり合うセキアたちの声が聞こえる。
だが、あまりの痛みに顔を上げることも、声を出すこともできない。
辛うじて腕は動かせたので、どうにか胸に手を当てて「燃ゆる生命」を唱えた。
すると、多少楽になった。
とりあえず声は出せそうだし、体を起こすこともできそうだ。
何とか腕を踏ん張り、身を起こす。
声のする方を見ると、セキアと亜李華がグラテマと至近でやり合っている。
巧みな捌きの鞭を、亜李華は杖、セキアは手に出した小さな結界でなんとか凌いでいる。
だが、あのままではまずい。
セキアも魔力が多いとはいえ、ここまででかなり疲れているだろう。
2人がやられるのは、時間の問題だ。
と、視界の隅に輝の姿が入った。
やつは顔だけをこちらに向け、何か言いたそうにしている。
というか、言葉はなくとも確実に何かを訴えかけてきている。
時折何かに移されるその目線の先を追うと、それは天井だった。
遺跡の天井の一部が、亀裂が入って崩れそうになっていたのだ。
さらに、何かが懐から飛び出してきた。
それは、赤い表紙の魔導書・・・専属魔導書、「ゼノフレイム」だった。
しばらく目の前で漂ったあと、ひとりでに右手の前の地面に降り立った。
言葉こそかけられないが、何をすればいいのかはもうわかったも同然だった。
天井を見据え、精一杯手を伸ばし、俺は魔導書の力を使った。
「ゼノフレイム・・・」
火球はまっすぐに飛び、天井の亀裂を直撃した。
すると、ミシッ・・・という音と共に亀裂が大きくなった。
皆がなんだ?と言っている間にも、亀裂はミシミシと音を立てて広がる。
そして、パラパラと細かい欠片が落ちてきたかと思うと、轟音と共に天井が崩れた。
その瞬間、俺と輝は結界を展開してみんなを庇った。
変に逃げられたりしなかったのが、逆に幸いとなった。
結果として、グラテマだけが天井の下敷きとなった。
辺りに立ち込めた砂ぼこりが消えた後、ゆっくりと立ち上がって、それを確認した。




