第398話 英雄は熱砂に散る
あおいの攻撃で男は大きく後退し、それなりのダメージを受けた・・・かに思われた。
しかし、あいにくとそんなことはない。
服が破けているとか、血を流しているとか、そういうわけでもないのだ。
しっかりと両足で地面を踏み、こちらを勇ましい目つきで見てくる。
その目からは悪意を感じない・・・というか、悪人には思えない。
少なくとも、そこらの賊や傭兵とは明らかに違う。
しかし同時に、底しれぬ恐ろしさも感じる。
異人ではない人間で、ここまでの力があるとは・・・
あおいが言っていた通り、何かの間違いで、異常な存在として生まれたとしか思えない。
その間にも、「竜巻斧撃」を繰り出してきた。
もちろんこれも強烈なので、当たらないよう確実に回避する。
樹が奥義の「水竜乱撃」を出し、あおいが鞭技の「一の破壊・露払い」で連続攻撃を仕掛け、最後に俺が奥義の「煉獄火炎斬り」を繰り出した。
ここまで怒涛の連続攻撃を仕掛けてもなお、男は倒れない。
ついでにラウダスが闇魔法を唱えても、吹き飛びはしたがすぐ立ち上がってきた。
さらに、立ち上がると同時に斧を投げてきた。
その速度は、野球選手の投げたボールばりに速く、回転速度もかなりのもの。
まともに受けたら、頭を真っ二つにされかねない。
これ人間・・・というか、今までに出てきたボス級の異人とか異形より強いだろ。
一体、こいつは何者だろう。地方英雄と言っていたが・・・
樹やあおい、ラウダスの反応からすると、なんか他にもいそうだ。
「[シャド ー]!」
突如、ラウダスが魔法を唱えた。
男の足元に伸びる影が動き出し、赤い目を光らせる不気味な存在となって背後に立ち、その両肩を掴んだ。
何が起きたかかわからないが、彼の反応からすると上手く言ったようだ。
「今のって・・・!」
あおいに対し、ラウダスは力強く頷いた。
「ああ・・・!今のは体力半減の魔法。これで、多少は楽になるはずだ!」
その言葉が本当かはわからない。
なぜなら、相変わらず男がこれといった反応を見せないからだ。
もし体力が半減したなら、何かしら反応を見せると思うのだが・・・こいつの場合、それはどうだろうか。
「[アイスジャイロ]!」
再び、斧に氷をつけて斬りかかってきた。
一か八かで炎を放射したら、氷を溶かしてキャンセルできた。
そこで、樹が「月震」と唱えた。
男の体はガタガタと振るえて膝をついた。何やら大きなダメージを受けたようだった。
ここに来てようやく、まともな反応を見せてくれた。
後で聞いたが、これもまた割合ダメージの術だったらしい。
月の術で、龍神なんかも使えるそうだ。
「これでだいぶ削れたはずだ。一気に行こう!」
樹は「大滝昇り」という奥義を繰り出した。
棍を振り上げ、あたりに水を飛散させる技だ。
いや、正確には水を付着させた状態の棍を振り上げ、水を飛ばす技か。
そこにあおいが続いた。
「二の破壊・鉄球雨」と「三の破壊・流星」という2つの技を出してくれた。
さらに、そこへ俺が「フレイムポール」を繰り出す。
もちろんラウダスも黙ってはおらず、奥義を繰り出した。
「深き深淵の皆既食」というもので、台詞は『光を食む影!』。
演出は、「地面すれすれに現れた太陽を、闇の力をまとった黒い天体が覆い隠す」というもので、いかにも強そうだった。
それらの技を叩き込んだ結果、ついに男は口から血を吐いた。
「不覚・・・英雄の、名折れ・・・」
そのまま男は倒れ、絶命した。
「はあ・・・やっと終わったか・・・」
俺は思わず震えた。
本当に、「割とマジで強い雑魚」だった。
「久々に戦ったけど、やっぱりつえーや。できれば、あんまり会いたくないな・・・」
樹が大いに賛同できる言葉を言ったが、あおいがそれにダメ出しをしてきた。
「そうは言ってもねえ。地方英雄って、ここ以外の国にもそれなりにいるわよ?」
「・・・マジかよ」
「まあ、滅多には出てこないと思うけどね。・・・あれ?何か落としてない?」
あおいの言う通り、地方英雄は何かを落としていた。
それは、かなり古い懐中時計。
しかも、なぜか4つも落としていた。
「これは『古びた懐中時計』ね。錬金の素材に使えるやつ。普通に探そうとするとちょっと大変だけど・・・さすが、英雄さんはいいもん持ってるわ」
「懐中時計も、錬金に使えるのか」
「異人が長い間身につけていて、魔力が移って変質したものならね。この懐中時計は、どれも魔力が移ってるから、十分使える。
本当は、この国でこれを持ってる奴はいないと思ったんだけど・・・まあ、強敵を倒した報酬ってことにしとこっか」
確かに強敵ではあった。
その報酬として、本来この地では取れないものが取れたと考えれば、まあ妥当ではあるだろう。
「しかし、樹とラウダス。あんた達がいなかったら、ちょっとキツかったわ。ありがとね」
あおいが2人に感謝の言葉を述べた。
「いいさ。正直、上手く決まるか不安だったしね」
「そうだな。ワンチャン無効化される可能性もあった。今回割合ダメージが効いたのは、ラッキーだった」
確かにそうだ。
もしあれらの術が効いてなかったら、長時間まともにやり合うハメになっていただろう。
そうなっていたら、かなりキツい戦いになっていたことは間違いない。
「ともかく、ラスタに戻ろう。涼しい所で、休みたい」
顔どころか全身汗だくの樹を先頭に、俺たちはラスタへと戻った。




