第396.5話 拠点会話・葵と
姜芽たちの元同級生薊あおい。人であった時の名は、島川葵という。
整った黒髪のショートヘアに藍色の瞳、美しい顔立ちを持つ彼女は、他者を殺すことに快楽を覚える殺人鬼だ。
もともと人間であったが、その時より精神にある種の異常を持っていた。
冷酷で恐怖や良心を感じず、残忍な一方、人を引きつけ、信頼を得るだけの魅力がある。
頭も良く、少し話したくらいで、その恐ろしい本質を見抜ける者は少ないだろう。
それこそが、高位の殺人者であることを裏付ける特徴の一つなのだが。
そんなあおいは、拠点であるラスタにて、様々な人物と「交流」している。
しかし、それはうわべだけのものであることがほとんどだ。
彼女に、人を信頼するとか、想うとかといった気持ちはない。
そんな気持ちは、人間であった時から捨てていたも同然だ。
それが例え、同族であろうとも。
「あれ?あなたは・・・?」
声をかけてきたのは、はなだった。
「ああ、どーも。市儚はな、さんでいいよね?」
「ええ。わたしの名前を知っているの?」
「もちろん。有名だからね。それに、同じ軍にいる同族の名前くらい覚えるでしょ?」
「そうかしら。私は案外、あまり気にしないけど」
「あら、そう?まあ、殺人者にもいろんなタイプがいるし、そういうのもアリなんじゃない?」
あおいは、人差し指を唇に当てる。その仕草の美しさに、はなは思わず嫉妬を覚えた。
「・・・いい体してるわね」
「言ってくれるじゃん。なに、もしかして百合派?」
「そんなことないけど。ただ、あなたの体つきがいいなって思っただけよ」
かつて、親に「子孫繁栄のためにもよい男を旦那に迎えろ」と口酸っぱく言われてきたはなは、今でも無意識に「自分が魅力的な女に見えるか」を気にしていた。
そして、あおいの美貌は、そこらの男なら一発で落ちるレベルのものだった。
「体ねえ・・・。まあ、これで男を釣って遊んでたこともあるけど」
あおいは肩をすくめるように言った。
「でも、あんたも案外悪くないわよ」
「え?」
「あたしに言わせりゃ、あんたも十分魅力的。服のセンスもいいし、お手製のアクセも見たけど、可愛いのからシンプルなのまであってグッドだった。そりゃ、殺人者相手でも売れるわけだわ」
はなの胸の奥で、冷え切った心がわずかに温まる。
しかし、それがあおいにとっては何の意味もない虚構であることを、はなは知る由もなかった。
彼女は嘘つきだ。
何なら、自身の経歴や肩書きでさえ、嘘で固めているところもある。
だが、それを人に知られることは決してない。
基本的に他人を信用しないあおいは、他人に自身の正体を明かすことはない。
種族や性癖は別としても。
あおいは、今度はラウダスに出会った。
「あっ、あおいさん」
「ああ、ラウダスか。何か用?」
「いや、あの・・・大したことじゃないんですが」
ラウダスは一瞬、口ごもる。
そして、意を決したように問いかけた。
「あなたは僕たちの仲間、ですよね?」
「ま、成り行きでだけどね」
「高名な殺人鬼であるあなたに、聞きたいことがあります」
「あら、興味深いわね。言ってみて?」
「殺人者は、生まれた時から心を持たない、他の異人や人間とはかけ離れた種族だと聞いたことがあります」
ラウダスは慎重に言葉を選ぶ。
「でも、これまであなたや龍神さんを見てきて、それには疑問を感じています」
「・・・へえ?」
「少なくともこの軍では、あなた方『殺人者』は、僕たちと同じように戦い、笑い、怒り、泣いています。
もし本当に心を持たない種族なら、それは不自然ではないですか?」
あおいは黙って聞いていた。
「もしかしたら、それは偽りのもの・・・感じてもいない感情を演じているだけかもしれません。でも、少なくとも僕の目には、そうは見えないんです。
殺人者・・・いや、殺人鬼と呼ばれる異人も、僕たちと同じように心があり、情がある。そうではありませんか?」
「・・・どうだかね。あたしにもよくわかんないわ」
「そうですか。でも、自分の心情というものは、意外とわからないものですからね」
ラウダスは右手で自分の顔を撫でた。
「この際、はっきり言わせてもらいます。
あなたなら、この答えを知っている気がするんです」
「・・・ええ」
「殺人者は、本当は防人などと同じく、人間に限りなく近い種族なのではありませんか?元々は人間か、それに近い種族だった。それが何かしらの要因で変異し、殺人者として生きることになった・・・それが、彼らの正体なのでは?」
「・・・」
「不思議なことに、子供や赤ん坊の殺人者を見たことがないんです。みんな、ある程度成長してから『殺人者』になっている・・・」
あおいは、ふと真剣な顔になる。
「つまり殺人者という異人は、始めからそうして生まれてきたのではない。彼らはみな、もともとは——」
そこまで聞いて、あおいはへえ、と呟いた。
「・・・あんた、面白いこと言うわね」
彼女は、うっすらと微笑んだ。
「一つ教えてあげる。昔、一人の人間がいた。そいつは、小さい時からすごく優秀で、それ故に周りに嫌われた。そして異世界転移して、自ら異人になったのよ──他人を犠牲にして、追い回されて生きて、どんなに辛くても逃げることを許されない、地獄の人生を辿ると・・・知った上でね」
彼は、その言葉の意味が何となくわかった。
「・・・あおいさん!それって、もしかして・・・」
「——昔のことよ。もうずっと、ずっと前の・・・くだらない、昔話よ」
あおいは、冷たい声でそう言った。




