第396話 地方英雄・幻の砂の夢
かくて行商人から聞き出した情報は「北の『デヴォのピラミッド』の周辺に傭兵が集まっており、ピラミッドの内部で何かが行われている」 「傭兵たちは盗掘をしているわけではない」というもの。
「あの貪欲な傭兵たちが、盗掘をしないなんて・・・何かあるのでしょうか。っと、それはさておき、何やら怪しいことは確かです。
なんでも、まあこれは本当かどうかわからないのですが、最近ロロッカ国内で流行っている病とも何か関係があるとか・・・」
ロロッカ国内で流行っている病と言うと、レヌゥ症候群か。
筋力と知能が徐々に低下していき、最後には体が石のように硬くなって死ぬ、原因不明の病。
治療法も未確立であり、俺たちもそれで命を落とした者を見てきた。
しばらく名前を聞いてなかったが、確かにあの病も気にはなる。
「でも、傭兵たちが集まってるってことは、何かはありそうだな。行ってみてもいいかもしれん」
「そうだな。デヴォのピラミッドだっけ?とにかく、そこに行けばいいんだよな」
そうして戻ろうとしたら、行商人の男に待ったをかけられた。
「申し遅れました、私はガナーと申します。砂漠を旅されているのでしたら、もしかしたらまたどこかでお会いするやもしれません。その際は、何卒!」
「ああ」
それで終わりかと思ったら、まだあるらしかった。
「それと!砂漠の北へ向かわれるのでしたら、『地方英雄』にお気をつけくださいませ!」
「地方英雄?」
「はい。北の砂漠には、幻の砂の夢と呼ばれる『ロムカ・デヴァータ』と、現世の鏡の光と呼ばれる『マルクィタ・レスメリア』という2人の地方英雄がおります。
もし彼らに出会うことがありましたら、くれぐれもご注意を!」
よくわからないが、とりあえず敵であるっぽい。
「わかった。気張るぜ」
かくして拠点に戻り、話し合った挙げ句、明日の昼に村を旅立つことになった。
目的地は、もちろん北のピラミッド。
地図でも確認したが、デヴォのピラミッドと呼ばれる大きな遺跡だ。
「ここからの距離は・・・まあ、順調に行って1週間くらいか。大したことないかな」
「順調に行けば、な。途中で面倒な敵が出てくる可能性はあるぜ」
「その時は、その時だ」
翌日の朝にはイリーナ、そして眠るバドンに別れと感謝を告げた。
その際、イリーナは「これからは私が、この村を守ります!」と言っていた。
なおイリーナによると、バドンの荷物を整理していたところ、小袋に入った謎の金が見つかったらしい。
「ガナー」と書かれたメモが同梱されていたそうなので、十中八九あの行商人への支払いとして使うつもりだったのだろう。
イリーナは、ガナーなる人物を知らないようだった。
俺たちは、昨日あったことを説明した上で、向こうはそれを欲しがっちゃいない、遺産だと思って取っておけと、彼女に言った。
とまあそんな感じで、俺たちはリフォン村を出た。
地図の通りなら、あとは北北西に進めばいいはずだ。
砂漠なら天気が悪化する心配はほぼないし、拠点をステルス化させれば異形や賊には見つからない。
というわけで、かなり楽に進むことができる。
しばらく進んでいくと、輝から妙な人影を見つけたとの報告があった。
さっそく操縦室に向かい、それを輝と共に見た。
それは、茶髪に程よく日に焼けた肌、茶色い瞳を持った男だった。
灼熱の砂漠のど真ん中に、ポツンと1人で立っている。
あれは、なんだ?
見た感じ、サードル旅団の連中ではなさそうだが。
「なんだ、あれ?」
「さあ・・・でも、なんかこっち見てないか?」
言われてみれば、どうもこちらをじっと見てきている。
「とりあえず、話だけ聞いてみようか」
適当に距離を開けてラスタを止め、俺と猶とラウダスで降りた。
そして足を進め、男に声をかけようとした・・・
「んん?その格好。よそ者だな?」
「よそ者って・・・まあ、確かにこの国のもんじゃないが・・・」
「そうか。ならいい!」
こちらの話をまともに聞かず、男は武器を取り出した。
それは斧のようだったが、ただならぬ魔力を感じる。
「私は『幻の砂の夢』ロムカ・デヴァータ、この地の地方英雄と呼ばれる男だ!
異邦人たちよ、一戦ご享受願おうか!」
妙に乗り気な奴である。
だが、ここで逃げることはないだろう。
「そうか、そう来るか・・・なら、相手になってやるぜ」
猶は2本の短剣を抜き、傭兵のように構えた。
「[竜巻斧撃]!」
向こうはさっそく技を出してきた。
これは難なく避けたのだが、続けて斧を振るって氷の刃を飛ばしてきた。
それを受けて思った・・・
こいつ、なんか妙に強くないか?
さらに、「アイスジャイロ」なる技も出してきた。
斧に氷をまとわせて斬りかかるという技だが、これも明らかに威力が高かった。
こちらからも攻撃を行い、「アクスカッター」と「ソロファイア」を放ったのだが、まったくと言っていいほど怯まない。
「こいつ・・・氷属性か!」
氷の刃を左腕に食らった猶が、唸るように言った。
奴もラウダスも、こいつがやたら強いことには既に気づいているだろう。
「地方英雄・・・聞いたことはあったけど、実際に戦うことになるとは思わなかったよ。
普通の異人や人間でありながら、そこらの異人より遥かに強大な、謎の存在・・・!」
そういうことか。
どうりで、やたら強いと思った。
そういや、先の行商人ガナーが言っていた、「地方英雄にお気をつけください」と。
あの時は意味がわからなかったが、要はなんちゃってボス戦みたいな異人との戦闘に気をつけろということであったのか。
「ねえ!何してんの、さっきから・・・!」
ここで、あおいが走ってきた。
彼女は、たかだか1人の異人に俺たちが手を焼いているのを見て、全てを理解したようだった。
「ああ、なるほどね。ご当地のバケモンモブね。そんなら、あたしも手を貸すわ!」
あおいはそう言いつつムチを振るった。
それは、見事男・・・地方英雄ロムカの脳天を叩いた。
「んっ・・・!」
男はにわかに怯んだようだったが、すぐに持ち直した。
「へえ、今の効かないか・・・さすが、地方の英雄さんね!」
あおいは華麗な宙返りを決め、俺の隣に着地した。
「3人とも、死ぬ気で舞ってよね。こいつは、割とマジで強い雑魚よ!」




