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黒界異人伝・異世界英雄譚 -ようこそ、造られた異世界へ-  作者: 明鏡止水
6章・ロロッカの深み

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第394話 務めの終わり

 その後、洗面所でしばらく待機していたのだが、鏡は出てこなかった。

「夜になったら出てくるかもしれない」とラウダスに言われたので、夜まで待つことにした。


曰く、あの鏡のような「付喪」と呼ばれる異形は闇の力が強くなる夜に力が強くなり、動きも活発になるのだという。


 ちなみになぜそのようなことが彼にわかるのかというと、種族故の知恵だそうだ。

そもそも彼の種族である「祈祷師」は本来、異形や邪悪な存在と通じ、あるいは使役する種族である。

そのため、このようなことは知っていて当然らしい。


「もっとも、僕はまだ新人だし、異形を使役したこともないんだけどね」

ついこの前まで人間だったという彼は、照れくさそうに笑った。





 その日の夜、昨日と同じメンバーで洗面所に集まった。

ただし、今回はイリーナとバドンもいる。


「また、出てくるかな?」


「条件は昨日と同じだし、きっとくるぜ」

鏡・・・ではなくスクリーンの前に立って、俺と輝はそんな会話をした。




 果たして鏡が現れた。

昨日と同じく、スクリーンに向かって手を上げる。

すると、やはり鏡の中から風が吹いてくる。


そこで、部屋の外からキョウラとバドンが術を唱えた。

それらは鏡の後ろ側に命中、鏡を一撃で粉砕した。


「・・・やったのか?」

 おい輝、余計なこと言うな。

そう思った刹那、異変が起きた。


バラバラになった鏡の中から、黒い霧のようなものがモワーっと出てきた。

それはそのまま消えず、何やら形を取り始めた。


「ごめん、余計なこと言ったみたい・・・!」

焦ったように謝る輝に、霧は襲いかかる。

それは、さながら巣をつついた者を襲う蜂の群れのようだった。


「[ライトニングファール]!」

イリーナの声と共に雷が弾け、霧をかき消した。


見ると、イリーナは扇を向けて唱えていた。

雷属性だというのは、本当だったようだ。


「これは・・・!」

 何かに気づいたのか、キョウラは「ホワイトムーン」と唱え、霧の本体の一部を消し去った。

そして「ディヴァイン」を続けて唱え、残る黒い霧の塊の殆どをかき消した。


最後に残されたのは、消しゴムほどの大きさの黒い塊。

それは俺が見てもわかるくらい、強い闇の力を放っていた。


 直後、バドンがそれを踏み潰した。

潰れた塊は、同じく真っ黒な霧を煙のように立ち上らせた後、消えた。


「これで、もう大丈夫です。あの鏡は、消えました」

キョウラがそう言った後、床に散乱していた砕けた鏡も、黒い霧のようなものを巻き上げながら消えた。

もう、大丈夫なようだ。


「良かった・・・のか?終わったんだよな?」


「ええ。ラウダスさん、もう闇の力は感じませんよね?」


「うん。さっきまでは強い闇の力を感じていたんだけど、今はもう感じない。闇、もとい鏡の力は、もう完全に消えた」


「そうか、なら良かった・・・」


 最後に、バドンがこう言った。

「これで、終わったな。あとはもう・・・」




 翌朝、イリーナたちと話し合い、あの鏡を供養することにした。鏡供養ってやつか。

この村の人たちに非はないが、あの鏡だけを責めるのも気が引けたからだ。


供養といっても、司祭である苺と吏廻琉に祈りを捧げてもらい、特殊な魔法を使ってもらっただけだが、やらないよりマシだろう。

村の人たちも、何か足りないとか何とか言ってくることはなかった。


「鏡は元より神聖なもの。理由はどうあれ、ぞんざいに扱えば、相応の報いを受けることになる・・・今回のようにね」

 吏廻琉はそう言った。


「村の人たちは悪くないけどな・・・」

そう言う輝に、ラウダスが説いた。

「確かにそうだ。彼らに非はない。でも、それはあの鏡だって同じ。きっと、本当は他の鏡と同じように、静かに遺跡で眠らせてほしかったんじゃないかな」


「・・・」




 供養の式が終わったあと、バドンとイリーナは吏廻琉たちに礼を言った。

バドンは、心做しかどこか悲しげな顔をしているような気がした。





 翌朝、拠点にイリーナがやってきた。

そして、衝撃の事実を聞いた。

なんと、朝起きたらバドンが家の寝室で冷たくなっていたというのだ。


俺たちも家に向かった。

バドンは、ベッドの上で・・・

安らかな顔で、目を閉じていた。


「バドン・・・どうして・・・」

 思わず呟くと、イリーナの声が聞こえてきた。

「実は、彼は病を患っていたんです。幼い時に一度治った病なのですが、数カ月前にぶり返したようで。

私にも黙っていましたが、おそらく自分の身も長くはないことはわかっていたのでしょう。最後に、この村の守り手として、今回の事件を・・・」


俺は振り向いた。

イリーナは、目をかすかに潤ませていた。


「仕方ありません。これまでの守り手にも、病に倒れる者はいました。

それにバドンさんは、最期まで私と一緒に頑張ってくれました。きっと、本望だったでしょう」


「イリーナ・・・」

 彼女は目をこすり、いけませんね、私ったら。と言って作り笑いをした。


「彼を、弔ってあげましょう。姜芽さん、火葬のお手伝いをしていただけますか?」


「無論だ。世話になったからな、最期の仕事は是非やらせてほしい」

鏡を倒した時の意味深な台詞、そして昨日のあれは、自身の最期を理解してのものであったのか。

今となっては、その真相はわからないが、きっとそうだろう。




 葬儀はその日の昼までに済ませた。

村の人たちも涙していたが、イリーナは最後まで涙を見せなかった。

それで思った・・・彼女は、強いと。



尚、埋葬の際は以前イリーナが詰問していた傭兵2人にも手伝わせた。

彼らはもはや余計なことは言わず、彼女に言われた通りにしていた。


気の毒だが、こちらとしては助かる。



 埋葬が終わった後、キョウラが魔法をかけた。

「お疲れ様でした。そして、ありがとうございました。どうか、安らかに」

その言葉を聞いて、ついにイリーナがまともに涙を見せていた。



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